第1228話:『破魔の銅鑼』が売れる
フイィィーンシュパパパッ。
海の王国にやって来た。
いつもここに来る時は昼なんだけど、今日は夕御飯だ。
昼にはゼムリヤグルメを堪能していたから。
「むっ? あんた達、銅鑼を景気よく叩きたいという顔だね?」
「ボスもガンガンしたいはずね」
「バレたかー。今日はあたし遠慮するから、あんた達でジャンケンして勝った人がガンガンしなさい」
「姐御が遠慮するって珍しいでやすね?」
「不可解なものを見る目でこっちを窺うな。実はね、あたしが聖女って呼ばれないのは、控えめなのがおっぱいだけだからのような気がしてるんだ。もう少し控えめなところを増やそうかと思って」
すげー納得したように頷くうちの子達。
「グオングオングオングオングオングオーン!」
ジャンケンに勝ったアトムが『破魔の銅鑼』を鳴らすと、女王が転げ出てきた。
「肉の宴だな!」
「肉の宴だよ!」
「ひゃっほお!」
女王がヒラヒラ舞い踊る様子は優雅だな。
コブタ肉を衛兵達が運んでいる間にヴィルを呼び寄せる。
海底の衛兵は運搬が主要任務である。
この質問に対する答えはイエスか? ノーか?
「御主人の召喚に応じヴィル参上ぬ!」
「おうおう、よう来たの」
「こんばんはぬ!」
「こちらへ」
ハハッ、ヴィルが女王にぎゅーされて気持ち良さそうだわ。
席に案内され、女王と話す。
「最近地上との交易どうなってるかな?」
「順調じゃぞ。海藻酒と『破魔の銅鑼』がかなりの数出荷されたが、あれは輸出されたのであろうかの?」
「『破魔の銅鑼』が当たり前のように輸出されるのか」
人口の少ないドーラ国内で数が捌けるわけはないので、どう考えても輸出用に違いない。
ひょっとしたら聖火教徒等一部の層にはウケるかもとは思ったが、かなりの数ってのは意外だな?
「装飾としての需要かもしれぬ」
「なるほど」
心が沸き立つというか、思い切り叩きたくなる意匠なんだよな。
商人さんも何かを感じて仕入れたのかもしれない。
悪魔を追い払うという実用的な面もあるし。
……いや、『破魔の銅鑼』は見ると確かに欲しくなるな。
ドーラの魚人が作ったものという物珍しさもあって、案外売れちゃいそうだ。
あたしも一応販促用に一個買ってナップザックに入れとこ。
「寒天も結構出ておるのじゃ」
「スイーツとしてレイノスでは話題になり始めているみたいだよ」
「どんなものかの? わらわは食べたことがないのじゃ」
「あっ、そーだっけ?」
あたしの作る試作品より、プロの完成品の方がいいだろ。
イシュトバーンさん家の料理人に作ってもらってもいいが、せっかくなら好評だという『サナリーズキッチン』の寒天スイーツを食べさせてあげたい。
あたしが食べたいってこともあるが。
しかし亜人差別の激しいレイノスに魚人の女王連れてくのはなー。
「寒天スイーツはぜひ女王にも食べてもらいたいな。近い内に機会作るよ」
「まことか?」
「うん、期待してて。でも思ったより寒天は急速に広まるかもしれない。増産なるべく急いでよ」
「うむ、わかったぞよ」
「女王、肉が来やしたぜ」
「大地と大洋の恵みに感謝し、いただきまーす!」
◇
「ごちそーさまっ! おいしかった!」
女王がいつものようにのたうち回って床をテカテカにしている。
今日は何故かヴィルものたうち回っているが?
「ヴィルどうしたの?」
「お手伝いだぬ!」
「偉いねえ」
何をどう手伝ってるのか知らんけど。
「はあはあ、美味じゃった」
「女王はコブタ肉好きだなー」
「うむ、大層美味いの」
「あんまりしょっちゅう取って来られるお肉じゃないけど、明後日コッカーっていう鳥の魔物を狩ってくる予定なんだ」
「何? どんな肉じゃ?」
「コブタ肉とは傾向が全然違うけど美味いよ。脂じゃなくてお肉自体の旨みが強い感じだな。肉質はちょっと硬め。女王にもあげるね」
「そうか! ありがとうの!」
ハッハッハッ、お肉は友愛のシンボルだから。
女王が聞いてくる。
「近頃のおんしの冒険者活動はいかがなのじゃ?」
「気になる? ここんとこ帝国行ってることが多いんだ」
「ほう?」
「向こうで知り合いが増えてね」
「おんしは自由でいいのう」
「魚の加工品の作り方も教わったんだ。条件が整ったら普及させられそう。女王にも教えるね」
「うむ、頼むぞよ」
女王の感情を推し量りにくい目が細められる。
「島国のクエスト。ソロモコ、じゃったか? どうなっておる?」
「来月の三日に、帝国からソロモコへ艦隊が進発するの」
「……大丈夫かの?」
「心配してくれてる? 特に問題ないぞ。艦隊の司令官もどうやら聞く耳を持ってる人みたいなんだ。すぐ帰ってもらう予定だから、戦争にもならない」
「ふむ、そうか……」
しかし女王はあたしから目を離さない。
何かを感じ取ってるんだろうか?
「ま、その後もゴタゴタが続きそうなんだ。この三ヶ月くらいでドーラの、っていうか世界の行く末が決まるんじゃないかと思う」
「……」
「今、すごく楽しいんだ」
ゆっくりと何かを反芻するように頷く女王。
あ、ヴィルがダンテのとこ行った。
「おんしは……世界の王になるのかの?」
世界の王か。
とても新鮮で、『聖女』よりも素敵な響きに聞こえる。
「心惹かれるけど、あたしはお偉いさんは似合いそうにないかな。でも世界の調整者みたいな働きだよねえ。『アトラスの冒険者』って本来そーゆーものらしいよ」
世界征服はあたしの夢ではあった。
もちろん冗談だったけどな。
女王と知り合った頃に比べると、あたしの関われる部分がすごく大きくなってきている。
これはあたしにとって都合のいい世の中にしろってことだな。
今となっては懐かしい、夢の中で会った女神ことたわわ姫もまた、世界が発展する未来を望んでいるようだった。
ボーナスが出るって言ってたし。
あの重力に負け気味のおっぱいにまた会いたいな。
一方で『アトラスの冒険者』は、たわわ姫の管轄ではないとも言っていた。
異世界の組織だからだ。
新人が入らなくなり、赤眼族についての理解が進み、そしてエルの追手が組織のトップか。
『アトラスの冒険者』を巡る情勢も先を見通せない。
決して油断できないのだ。
「ありがとう。今日は帰るね。お酒と寒天の増産はくれぐれもよろしくね。多分どんどん注文入ると思う」
「うむ、わかった。またの」
転移の玉を起動し帰宅する。




