第1223話:なるほど、えげつない
「大層簡単に片付いたものだ。昼までまだ間があるな」
「じっちゃんに聞きたいことがあるんだよ。ヒゲピンのおっちゃんはいてもいいけど、関係ない人下げてもらえる?」
「うむ」
人払いがなされる。
「どうした? 重要なことか?」
「うーん、重要と言えば重要かな。あたし帝国人じゃないから、掴みきれないことがあるんだよね」
ヒゲピンが聞いてくる。
「何のことだ?」
「来月三日、第一皇子の喪が明けてすぐに、帝国艦隊が進発するんだ。目的地はソロモコ」
「「ソロモコ?」」
聞き馴染みがないだろうな。
北のゼムリヤ人にとっては特に。
地図を出して説明する。
「島国か。征服目的なんだな?」
「うん」
「何故だ? ソロモコなる国がカル帝国に対して無礼な振る舞いでもしたのか?」
「とゆーわけではなくて。去年の暮れにドーラが独立したじゃん?」
「ふむ。リリーが大活躍したという話だったな」
「えっ?」
ヒゲピンは全然知らんようだし、メルヒオールさんも飛空艇の情報はほぼ持ってないだろ。
ドーラ独立の経緯をもう少し詳しく説明っと。
「……伯父上、知っていたか?」
「いや、詳しい飛空艇の情報については初耳だ。『アトラスの冒険者』とは驚くほど活動範囲が広いものだな」
「じゃーん、大悪魔登場!」
「ハッハッハッ、吾を崇めるがよい!」
バアルの籠を取り出したけど、あんまり驚かんな。
あたしが悪魔使いだと思われてるからか。
実につまらん。
あたしを崇めるがよい。
「これは第二皇子とつるんでドーラと戦争を引き起こそうとしたバアルね。なかなか面白いし、いろんなこと知ってるからうちの子(仮)にしたんだ」
「辺境侯爵メルヒオールであるな? 吾は貴殿をよく知っているであるが、こうして会うのはお初であるな」
「じっちゃんが頑張ってるからゼムリヤには付け入る隙がなかったって言ってたよ」
すげえ微妙な顔してる二人。
ハハッ、せっかく大悪魔を披露したんだからこうでないとな。
「で、主席執政官たる第二皇子はえっらい予算と準備期間かけたにも拘わらず、目的としていたドーラの強圧支配に失敗したわけじゃん? ドーラの友好独立ってゆーうまい落としどころを見つけたけれど、政権首脳部や軍は失敗ってことはわかってた。だからドーラ戦の失敗を取り返すために、ソロモコを攻め取って勝ち鬨を上げたいんだろうと考えているんだけど」
「おそらく間違いないである。しかし吾がドミティウスの側にいた時、ソロモコを侵略対象にするなどという構想は一度も出なかったである。降って湧いた話である」
「ドーラとの貿易が活発になると、中継基地として使える位置ではあるね」
「地理的にはな」
政権内部では、そーゆー目的でソロモコを確保するという説明がなされているかも。
「ここから本題なんだけど……」
フクロウの悪魔が尊敬の感情を集めて魔王に送ってるから、人間と悪魔が争わなくてすんでるうんぬんかんぬん。
だからソロモコが帝国海軍に攻められてしまうのは何たらかんたら。
ヒゲピンが大きな声を出す。
「大変ではないか! ソロモコなる国を手中に収めると魔王と対立してしまうであろう?」
「対立しちゃうね。でもソロモコを何とかするのはあたしのクエストなんだ。帝国艦隊は船旅楽しんだだけでタムポートへ戻ってもらう」
「どうやって!」
「宥めすかして?」
ヒゲピンよ、胡散臭そうな目を向けんな。
あたしがよくわかんないのはソロモコに関してではない。
「帝国軍のソロモコ侵攻失敗までは既定路線ね? じっちゃんに聞きたいのは、その後どうなるかの見解なんだ。もう一つ言うと、来月半ばにはラグランドで蜂起が起きるの。見通しがハッキリしないんだよね」
メルヒオールさんがおもむろに言う。
「ラグランド蜂起もクエストで得た情報か。確実なんだな?」
「確実だよ」
「……主席執政官ドミティウス殿の行動は、皇帝陛下病没後を見据えたものだ、ということは当然理解しているな? 次期皇帝を目指すものとして、華々しい功績が欲しいのだと」
「うん」
「理解しているである」
ヒゲピンが驚いてメルヒオールさんを見るが、声は出さない。
「時間的にラグランドへの対応は、ソロモコ遠征の成否が知れてからになるかその前になるか微妙だ」
「ドミティウスの性格ならば、一つの結果を得てから次に取り掛かると思うである」
「とすると遠征失敗を受けての対応となるか。ドミティウス殿はラグランド蜂起について知っているのか?」
「明日あたしが伝えてくる予定だよ。既に何がしかの情報は持ってるかもしれないけど」
「ラグランド蜂起について知れば、ドミティウスは必ず何かの行動を起こすである。行動の方向性は、自分の地位を上げるかライバルの足を引っ張るかの二択である」
あたしも第二皇子は何か仕掛けてくると思う。
何故なら悪いやつだからだ。
具体的に何をしてくるか?
「ラグランドに使者を派遣するのだろうな」
「そりゃ使者くらい出すでしょ」
「いや、おそらく次期皇帝位を巡るライバルを全権特使とする」
「えっ?」
何ぞ?
これはちょっと意図がわからない。
メルヒオールさんが説明してくれる。
「ラグランドは重税で有名だが、食料の自給率を考えればカル帝国の支配から外れては生きていけない地だ。時間稼ぎが成功すれば降る」
「時間稼ぎのための全権特使か。でもその派遣される皇子が大功立てちゃったら、第二皇子は困るでしょ?」
「大功などあり得んな。並みの成果なら特使を派遣した現政権の手柄だ。特使の辞退や任務の失敗は皇帝の座争いで大きく後退、事故で亡くなるようなことがあったら万々歳だ」
なるほど、えげつない。
じゃあ誰が派遣されるんだろ?
「第三皇子にして皇位継承権一位のセウェルス殿であろう。フロリアヌスは騎士団の、ルキウス殿には在ドーラ大使の任がある」
「ふむふむ、第三皇子殿下は放蕩者で貴族や民衆の支持がないって話だったけど、お使いすらまともにできないって烙印を押したいわけだね? 皇帝になる目を完全に潰してしまうと」
「その他の皇子、あるいは他派閥の政府高官を特使とするセンもないではないであるが、吾の知る限りその他皇子はドミティウスの視界には入らず、またドミティウスに睨まれるほどの政府高官はいないである」
状況がわかってきたぞ?




