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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第1222話:小麦の交渉と損得

「お招きいただき恐縮です。メルヒオール辺境侯爵閣下」

「ハハッ、堅苦しいのは抜きだ。コージモ殿」


 五人の男を招き入れるメルヒオールさん。

 コージモさんってのがガリアの外務大臣か。

 ガリアの首都からは結構な距離があるのに、御苦労なことだなあ。

 それだけゼムリヤが重視されているってことでもある。


 ゼムリヤの代表がヒゲピンのおっちゃんってのが申し訳ない気がするわ。

 あ、だから美少女精霊使いを花として添えるのか。

 ようやく理由がわかったよ。


 で、続くのが在ゼムリヤ領事と書記官だか秘書官だかの文官ね。

 了解でーす。

 ゼムリヤの宮殿は帝都の皇宮のように領主のプライベート空間というわけではなく、来賓を招く場を兼ねているんだな。


「コージモ殿、紹介しよう。俺の甥ザムエルとドーラの冒険者ユーラシアだ。今日はこの二人が交渉の担当だ」

「よろしく」

「よろしくお願いしまーす」


 細い目をやや見開くコージモ外相。

 今までゼムリヤはメルヒオールさんのワンマン体制だったみたいだな。

 人材は育てた方がいいよ。


「俺も歳なのでな。若い者に任せていこうと思うのだ」

「いやいや、何の何の。まだまだ達者ではございませんか。しかしドーラ人?」


 領事さんが何かに気付いたように言う。


「……ひょっとして先日ヤマタノオロチを討伐したという?」

「うん。あたしのこと知っててくれて嬉しいな。にこっ」


 ガリアの五人の表情が引きつる。

 メルヒオールさんが、あらかじめプレッシャーをかけるのかみたいな顔してるけど、決してそんなつもりはなかった。

 どーもあたしの笑顔は破壊力があり過ぎるんだよなあ。

 解せぬ?


 それぞれに席が勧められ、交渉が始まる。


「……それは認められぬ。違法操業の取り締まりは……」

「……では鉄の輸出に関しては先例を踏襲し……」

「……関税については……」

「……では前年通りに……」


 へー、ヒゲピンのおっちゃん、なかなかやるじゃん。

 押すところは押す、引くところは引く。

 すごく予習してるみたいだな。

 随分とスムーズに交渉が進むもんだ。

 見直したよ。


「最後に小麦ですが」


 何気ないコージモ外相の一言に場が引き締まる。

 小麦は最重要交易品だからだ。

 今日の交渉のクライマックスに、ヒゲピンが発言する。


「今年は雪解けが長引き、春の訪れが遅いのだ。収穫時期が遅れ、さらに収穫量の減少が予想される。であるからして……」

「量と価格は例年通りでいいよ」

「それはそれは……」


 あたしの発言に声が出なくなるヒゲピン。

 喜色を隠しきれないコージモ外相。

 愉快そうなメルヒオールさん。


「でも条件があるよ。雪解けが遅くて、バカにならない影響が出ちゃってるのは本当なんだ。だから新麦じゃなくて備蓄分の放出が多くなっちゃうのはごめんね。よければさっき言ったように、量と価格は例年通りにできるけど、どう?」

「ありがたい話ですが、よろしいので?」

「いいよ。小麦の価格が上下すると庶民の不満が高まるからね。なるべく物価は安定してた方がいいじゃん?」

「確かにユーラシア殿の仰る通りですな!」


 議定書にサインしたガリア人一行はそそくさと退出していった。

 ばいばーい。

 交渉にかかった時間は一時間弱。

 メルヒオールさんが言う。


「これほど早く終わった対ガリア交渉は記憶にないな。楽でいい」

「どうするのだっ!」


 叫ぶヒゲピン。


「伯父上が従えと言うから黙っておったが、これでは大損ではないか!」

「どの辺がよ?」

「小麦だ! 不作の時こそ高く売らねばならぬだろうが!」


 まあ値を吊り上げるってこと言いだすだろうなーと思ったから、口出したんだけど。


「ガリアのお偉いさん達も小麦の交渉に入った時、明らかに目の色変わったじゃん」

「今日の山場だからな。オレだって気合いを入れねばならぬ場面だと考えていた」

「頑張ると揉めちゃうんだって。仮におっちゃんがガリアのお偉いさんだとするよ? ゼムリヤが小癪にも小麦の価格を上げるみたいなこと言いだしました。小麦は主食として欠かせないものなのに、足元見やがって。どうしたくなる?」

「うっ、そ、それは……」

「ガリアの産物を気取られないくらい値上げして輸出したり、劣等品送りつけたりしたくなるでしょ?」

「かもしれぬが、しかし……」

「つまり小麦を高く売ることができたからって、トータルで儲からないんだぞ?」


 ヒゲピンの目が泳いでいる。

 わかりやすいなあ。


「おゼゼで得できないなら、別の部分で得がなきゃいけないでしょ?」

「うむ、道理だな」

「外務大臣さんも領事さんも、大喜びで帰ってったじゃないか。小麦の不作くらい、ガリア側の面々だってわかってたはずだわ。厳しいやり取りになると思ってたのに、価格そのままで量も確保できたからだよ。彼らは国にすごくいい顔ができる。ゼムリヤの立場から言うと、貸しを作ったことになる」

「……そうなるのか?」


 首かしげてますね?


「なるんだよ。ガリアの首脳からも民衆からもヘイトを買わない結果になった、とゆーことがこの際重要なんだよね」

「うむ」

「ゼムリヤがもし外敵に攻められるとすると、一番警戒しなきゃいけないのは?」

「ガリア王国だ」

「仮想敵国に恨まれてどーするのよ。ゼムリヤって統治するの難しいんだってば。よき隣人でいることを考えないと」


 大分納得してきたな。


「もう一つ言うと、あたしはおゼゼでも損したと思ってないぞ。議事録見てみ?」

「議事録?」


 控えていた文官から議事録を受け取るヒゲピン。


「『備蓄分の放出が多くなっちゃう』っていうの、向こうも了承してるでしょ? 備蓄を全部輸出に回して、新麦と入れ替えなよ」

「あ……」

「豊作の年なら面白く思わないかもしれないけど、今年は通るんだから」


 量と価格以外の、向こうさんにとってあまり重要じゃない条件で譲らせたってことだよ。

 

「それから『小麦の価格が上下すると庶民の不満が高まる』『なるべく物価は安定してた方がいい』ってのは、今後豊作になっても安くしないぞって意味ね。不作の年でも高値にしないってゆー実績があれば、豊作の年でも安くしなくていいわ」

「ハハッ、ユーラシアよ。期待以上だったぞ」

「いや、ザムエルのおっちゃんも堂々としたもんだったよ。ブレーンがいれば問題なし」


 メルヒオールさん上機嫌ですね。

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