第1221話:北の王国ガリアと協議
――――――――――二〇七日目。
「むーん、雨か」
夜が明けてみればザーザー降りだった。
クララが言う。
「この雨の中をカラーズまで歩いてくる、移民の皆さんが可哀そうですねえ」
「体調崩すといけないから、もう一日泊まってくるかもね」
気温の高いわけじゃないこの時期の雨は身体が冷える。
道のぬかるみも歩いてると体力を奪うだろうしな。
「ダンテ、いつまで降るのかな?」
「トゥデイはドーラ全土でレインね。バット、明日にはやむね」
「姐御、今日どうしやす?」
「悩むね」
ラグランド蜂起について帝国施政館に伝えたい。
が、蜂起は来月半ばで日も決まっていないのことなので、メッチャ急ぎってわけではない。
明日セレシアさん達を連れて帝都に行く時でいいや。
ソロモコに連絡しとく手もある。
雨だと海の女王が待ってるだろうな。
アルアさんとこも行きたい。
ゼンさんの新しいパワーカードが完成してるかも。
ギルドでソル君に会えればラッキーだし……。
「……ゼムリヤ行こうか」
「「「ゼムリヤ?」」」
意外そうなうちの子達。
ゼムリヤなら雨関係ないだろってことがもちろんあるんだが。
「この前数日でお礼用意しとくって言ってたじゃん? それにお昼御飯を食べさせてくれる、確かな予感がある」
笑ううちの子達。
ソロモコやラグランドの海外情勢について、メルヒオールさんの意見を聞きたいとゆーこともあるのだ。
一日雨なら、夕御飯を海の王国に食べに行けばいい。
赤プレートに話しかける。
「ヴィル、聞こえる?」
『聞こえるぬ! 感度良好ぬ!』
「メルヒオールのじっちゃんに連絡取れるかな?」
『ちょっと待つぬ』
メルヒオールさんは一人だから、こんな朝早くから連絡取りづらいことはないはずだ。
けど、あそこ宮殿だしな?
ちょっと心配。
『御主人、オーケーだぬ!』
あ、繋がった。
「おっはよー」
『ユーラシアか。カゼなど引いていないか?』
「何なの、そのいたいけな花を慈しむ目線は」
あたしは大丈夫に決まってるだろ。
ユーラシアさんだぞ?
むしろ年齢考えりゃメルヒオールさんの方が心配だわ。
「こっち雨降っちゃってつまんないんだ。遊びに行っていいかな?」
『ちょうどいい。急いで来てくれ』
「えっ?」
朝っぱらから何事?
焦ってるようでもないみたいだけど。
いやまあ、メルヒオールさんが焦る事態なんか考えられんか。
『ちょっとしたイベントだ』
「イベントは楽しみだな。何だかわかんないけど、すぐ行く。ヴィル、ビーコン置いてくれる?」
『わかったぬ! 準備できたぬ!』
新しい転移の玉を起動、うちの子達とともにゼムリヤへ。
◇
「美少女精霊使い参上!」
「御主人!」
「よーし、ヴィルいい子!」
飛びついて来たヴィルをぎゅっとしてやる。
あれ、ここ宮殿の中じゃん。
メルヒオールさんとヒゲピンのおっちゃんもいる。
「おっはよー。ザムエルのおっちゃんもいるじゃん。どうしたの?」
ヒゲがフルフル揺れてるけど。
「おっちゃん、美少女を目の前にして緊張しちゃった?」
「違う!」
ハハッ、わかっているとゆーのに。
軽いジョークだよ。
「で、何なの? あたしもイベントと聞いちゃ黙っていられないんだ」
「ドーラの冒険者ユーラシア本人なのだな?」
「そーだよ」
「ヤマタノオロチを退治したという?」
「うん」
メルヒオールさんに確認したんでしょ?
その目は美少女を観賞する目じゃないんだが?
もうちょっと賛美とか心酔とか尊敬とかの感情を込めなさい。
とゆーかイベントの話はどこ行った?
「……只者ではないと思っていたが」
「いや、只者じゃないってあたしも言ったよね?」
冗談だったけど。
メルヒオールさんが笑う。
「ハハッ、精霊や高位魔族を配下に持つ少女が何人もいるものか」
「うちの子達は皆いい子だからよろしくね」
バアル以外はね。
「ところで何か面白いイベントがあるんでしょ? 楽しみなんだけど」
メインの具材に触れないからこっちから突っ込んじゃったよ。
ヒゲピンが緊張してるみたいだな。
あたしは別に噛みついたりしないぞ?
いや、緊張するイベントなん?
メルヒオールさんが言う。
「面白いといえば面白いな。ガリアと輸出入に関する折衝があるのだ」
「へー」
ガリア、ゼムリヤの北に位置する王国だ。
あたしもゼムリヤに関わるようになってから気にしている国ではある。
面積は植民地を除く帝国全土と同じくらいある大国だが、あたしは地図を見てわかるその辺までしか知らん。
「人口は三〇〇万人前後だろう。ゼムリヤにとってはいいお得意様だ」
「わかる。お客様は大事にしなきゃいけないよねえ」
穀倉地帯であるゼムリヤと違って、より冷涼なガリアでは農産物の生産量を増やすことは困難で、ゼムリヤから輸入しているらしい。
ふーん?
「輸出品として最も大きいのは小麦だな」
「パンは欠かせないもんねえ。逆に輸入してるのは?」
「鉱産品や魚介類が多いな」
「魚介類?」
腐っちゃわない?
「ガリアの漁師達が、直接ゼムリヤの港に水揚げするのだ」
「なるほどー」
船はガリアの方が優れてるってことか。
というかゼムリヤは政府に疑念を抱かせるかもしれないから、あんまりすごい船は建造できないのかもしれないな。
「状況として面白いのはわかった。でもあたしには関係なくない?」
「交渉の席にユーラシアも同席してくれ」
「えっ?」
ガリアの偉い人と知り合いになれるかもしれないと考えると、有意義ではあるな。
同席するだけなら全然構わないけど、メルヒオールさんがどういうつもりかわからん。
「ザムエルをゼムリヤ側の担当にしたいと考えているのだ」
「ふんふん」
「君はアドバイザーとして参加し、ザムエルとともに交渉をまとめてくれ。俺ももちろん参加するが、原則として口は出さん」
「えっ?」
なるほど、重要な協議を任されるからヒゲピンが緊張してるんだな?
そしてメルヒオールさんはあたしの話術や交渉センスを見たいってことか。
物好きな。
「うん、わかった。今日のお昼御飯で手を打つよ」
「よし。希望はあるか?」
「お魚のおいしいやつが食べたいな」
「用意させよう。ザムエル、席上ではお主が主導するのだ。しかしユーラシアが介入した時は、その意見に従うのだぞ?」
「わ、わかった」
「じゃ、もうちょっとゼムリヤとガリアの立場や状況を教えてよ」




