第1220話:一々格好いい
フイィィーンシュパパパッ。
「ユーちゃん、いらっしゃい」
「お邪魔するね」
「お邪魔するぬ!」
チュートリアルルームにやって来た。
独特のスパイシーな香りに満ちている。
かれえだ、ひゃっほう!
「いい匂いでやすぜ」
「胸踊り、心躍らせる香りだね」
「ユーちゃん詩人ね」
「うーん。でも仕事場なんだから、換気はしようよ」
「あっ、そうだったわ」
「お腹が鳴っちゃう。淑女として恥ずかしい」
「あはははははっ!」
笑い過ぎだろ。
「中へどうぞ。いただきましょう」
「いただきまーす!」
◇
「にくになったんだよな~きみは~いつかふらいにあげ~られ~てくれ~」
「バエちゃん絶好調だなあ。お肉ゴロゴロかれえは最高だわ。おかわりもらうね」
「あっしも!」
「私も!」
「ミーもね!」
「わっちも!」
「ヴィルは食べないだろーが」
アハハと笑い合う。
きちんとオチを付けてくれたヴィルは、代わりにぎゅっとしてやろう。
楽しいなあ。
バエちゃんが聞いてくる。
「お仕事はどうなの?」
「お肉ハンターとして肉狩りは定期的にやってるよ」
「そうでなくて」
「商売コンサルタントも順調かな。帝都の大商人と知り合いになったんだ」
「そうでもなくて」
バエちゃん笑うけど、あとは仕事なんかしてないぞ?
「『アトラスの冒険者』の方で」
「ああ、趣味の話だったか」
「ユーちゃんにとって『アトラスの冒険者』は趣味なのね?」
「いろんなところに行けるようになって、各地の有力者と知り合いになったことは嬉しいかな。でも最近の石板クエストは、おゼゼに直接繋がんないんだよね。お仕事って感じがあんまりしない」
お礼として何かもらったり、あたし自身の価値を高めたりという面では大変役に立っている。
むしろクエストとして完了したあとに通ってるとおゼゼになったりするな。
今回の騎士爵や勲章もそうだけど。
「世界的なVIPになっちゃったって言ってたけど、そうなの?」
「正確には、世界的なVIPと対等に話せる機会が増えた、かな」
「ユーちゃんがどこに向かってるのかわからないわ」
「そーゆークエストばっかり振られるからだぞ?」
「でも楽しんでるんでしょう?」
「実にあたし好みだね」
アハハと笑い合う。
あたしに都合のいい世界にしたいとは常々思っていることだ。
ただその世界の範囲が段々広がってきている気がする。
面白いからいいけれども。
「ソル君の魔王クエストのこと何か聞いてない? どうやらあたしの方にも関係してきそうな気配なんだ」
「魔王に会えたって言ってたわよ? 魔物退治がどうのこうのって」
「やっぱり魔物退治か。あたしも魔王配下の子と知り合いになってさ。魔物退治で召集って聞いたんだけど……」
魔王とソル君パーティーが共同で倒さなきゃいけないほどの魔物ってことか。
魔王島の魔力濃度は高いっぽいし、相当ヤバいやつか?
「……あたしも仲間に入れてくれないかな」
「あら、お手伝い?」
「いや、すごい魔物だったりすると、何ドロップするか気になっちゃうじゃん?」
「気になっちゃうぬ!」
ヴィルも気になっちゃうか。
よしよし、いい子だね。
「ユーちゃんのクエストに関係しそうとはどういうことなの?」
「話せば長いことなんだけど」
『仮面の王国ソロモコ』という正規の石板クエスト、尊敬の感情を吸い上げるフクロウの悪魔の存在、魔王が現在人間と敵対していない理由……。
「ええ? ユーちゃん世界の安定に関わってるじゃない」
「マジで『アトラスの冒険者』は様々な体験をさせてくれると思うわ。なのに誰もあたしにボーナス出そうとしないことには物申したい」
「本当ねえ」
まったくどうなってるんだか。
「で、問題のソロモコが帝国の侵略対象なの。来月の三日に帝国艦隊が出撃予定」
「え? 侵略されちゃうとまずくない?」
「多分魔王が怒っちゃう。人魔大戦が引き起こされるかもしれない」
「大変じゃない!」
「いや、ソロモコを何とかしろってのはあたしの役割だから問題ないよ。帝国艦隊にはお帰りいただく予定」
「魔王の方は?」
「ソル君が魔王に会えたなら大丈夫だな。宥めてくれると思う」
ソル君の魔王クエストの進捗を聞けたのは朗報だった。
魔王の暴走については、とりあえず最悪のケースは考えなくてもよさそうだ。
「できればソル君に会って情報交換したいけどな」
「探すぬか?」
「ん? ありがとう、ヴィル。でもいいんだ。あたしがソル君の仕事を疑ってるみたいだからね」
「ユーちゃんの言うことは、一々格好いいわねえ」
「カリスマ性とソル君への信頼感が溢れてしまうね」
ヴィルがくっついて来る。
気持良さそうだ。
「ごちそーさま。おいしかった」
「お粗末でした」
「今後『アトラスの冒険者』の新人は、しばらく入って来ないのかな?」
「そうなりそうね」
「決定事項?」
「決定したわけではないのだけれども、当面は凍結ということになるはずだわ。今のところ次の新人については未定よ」
ふむ。
また定員割れすると増やすつもりなんだろうが、どう考えても『アトラスの冒険者』を安定運営させるつもりなら、メンバーの数を増やすべきだと思うがなあ。
まー営利組織じゃないからな。
「この前もらった脱落『アトラスの冒険者』の名簿あるじゃん? 『日和』の固有能力持ちの人に会ってさ、レベル上げしてきたんだ」
「天気がわかるっていうものよね?」
「うん。正直冒険者としてはどうなのって能力だけど、社会にとっては有用だからね。新聞に天気予報を載せてもらって役に立てたいんだ」
「いいわねえ」
少しずついい世の中にしたい。
いろんな情報を手に入れられることも、いい世の中の条件の一つだ。
情報を売ることは商売であるし、手に入れた情報を利用することは創意工夫だ。
ぜひ推進したい。
「うちのダンテは先の天気がわかる子なんだよ」
「そうなの? 『日和』持ちではないのよね?」
「精霊や悪魔には、固有能力じゃなくても元々持ってる力があるみたいだよ。クララは植物のことがわかるし、アトムは鉱物のことがわかる。ヴィルは飛べるしワープできるみたいに」
固有能力ってのも何がどこまでなんだかよくわからんな。
分類はどうでもいいか。
ひっくるめて個性だ。
「ありがとう。今日は帰るね」
「うん、また来てね」
「バイバイぬ!」
転移の玉を起動し帰宅する。




