第1219話:『おかげ』と『せい』と『恩恵』と
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
ヴィルと一緒に灰の民の村のサイナスさん家にやって来た。
サイナスさんは午前中ショップに出ていることも多いけど、大体午後は家にいる。
晴れてるのによく家なんかにこもっていられるもんだ。
「やあ、いらっしゃい」
「これお肉、お土産だよ」
「いつもいつもすまないねえ」
「やだよ、お父つぁんったら。それは言わない約束だよ」
「隙あらば放り込んでくるなあ」
「なくてもだぬ!」
アハハと笑い合う。
「最近ヴィルのツッコミが秀でてるね。何でだろ?」
「レベルが上がったからだと思うぬ」
「おお、なるほど」
「こんなところにまでレベルの暴力が押し寄せている」
「あたしのおかげだね」
「君のせいだ」
「御主人の恩恵だぬ!」
「実に秀でてるなあ。ぎゅー」
「ふおおおおおおおおお?」
よしよし、よかったね。
ヴィルはとてもいい子。
「今日はどうしたんだい? 掛け合いのだけのために来たわけじゃないだろう?」
「掛け合いもあたしの精神衛生上必要なんだけど」
「ユーラシアの精神はいつも浄化されてるだろう?」
「実にもっともだね」
話が進みやしない。
あたしは自分のペースでエンタメを楽しむのは好きだけど、ペースを乱されるのは嫌い。
我が儘? 知っとるわ。
「青の民のショップ行くんだ。ディオ君に会っておこうと思って」
「一応帝都行きのことは伝えてあるよ」
「ありがとう。スムーズに話が進みそうだよ」
「ん? 他にも用があるのかい?」
サイナスさんが鋭い。
これもあたしの恩恵か。
「昨晩言い損なったことなんだけど、帝国海軍の遠征先はやっぱりソロモコなんだ」
サイナスさんの表情が引き締まる。
「……決定か。青の民に何の関係があるんだ?」
「あたしがソロモコの使者として使う白旗を作ってもらおうかと思って」
「白旗? 君も穏健なやり方を知っているんだな」
どーゆー意味だ。
一つ間違えると人魔大戦になりそーな場面で、成功率の低い手段を取ろうとするほどあたしは無鉄砲じゃないわ。
「どんな旗がいいかな? 白地なのは決定だけど」
「どういう場面で使うんだい? あまり複雑な模様だと間に合わないだろう?」
「あたしのプリティフェイスを表現するには、一〇日じゃ不足だな」
サイナスさんが顔描かせるつもりだったのかよ、って思ってるみたいだけど。
平和の使者として相応しい図案だと思わない?
「混沌の使者ぬよ?」
「おいこらヴィル。混沌ってことがあるか。あるかな?」
「何の話だい?」
「こっちの話。ま、いーや。デザインはディオ君と相談しよ」
「そうするといい」
あとサイナスさんに言っとかなきゃいけないことは、と。
「ラグランドっていう帝国の海外植民地が、圧政に耐えかねて蜂起するんだって。来月の半ば頃。これも確かな情報なんだ」
「ドーラに直接関係はないんだな?」
「ないけど、この手の陰謀臭いことはパラキアスさんの大好物じゃん? 知りたいことかなと思って、報告したんだよ。そしたらラグランド蜂起について、主席執政官第二皇子に知らせとけって言われた」
「ふむ?」
「普通に考えると蜂起はソロモコ遠征の直後だから、帝国も派手なアクションは起こせないと思うんだ。ラグランドは食料が自給できないところらしいんで、放っとくだけで飢えて内部分裂してたくさん人死に出ちゃうそーな」
「じゃあラグランドに勝ち筋がないじゃないか」
「ないねえ」
問題はそこだ。
じゃあ何故パラキアスさんは第二皇子に知らせろと言ったのか?
「表向きの理由としては、第二皇子が知ってれば少しはましな決着になるんじゃないかってニュアンスだった。でもパラキアスさんの本音としては、第二皇子にもどうでもいい情報を流してドーラの印象よくしとけってことだと思うんだ」
「それだけじゃないのかもな」
「えっ?」
サイナスさんも賢いからなあ。
何か閃いたことがあるか?
「主席執政官のリアクションを待ってるんじゃないだろうか」
「リアクションを待ってる?」
つまり第二皇子が墓穴を掘るということ?
行動まで読めるんだろうか?
「……パラキアスさん、悪いやつだからな。あえて情報流して罠を張るくらいのことは考えてるかも」
「いや、何もしなくて自然鎮火するなら、単に鎮圧部隊を派遣するだけでも反対意見はあるだろう?」
「むーん? 何かするだけで余計なことになっちゃうのか。案外対応が難しいんだな」
「こっちの思惑通りになる可能性は低いけど全く損はない。むしろ情報を流した分だけ恩を売れる」
いかにもパラキアスさんの考えそうなことだ。
そーゆー思考に至るサイナスさんもヤバいぞ?
「よし、なら明後日セレシアさん連れて帝都に行くから、その時施政館にも寄ってこ」
「御苦労様だね」
「じゃ、あたし行くね。今日は夜の通信ないよ」
「ああ、わかった」
「バイバイぬ!」
JYパーク青の民のショップへ。
◇
「サイナス族長に聞きました。明後日ですね?」
「うん。朝ここに迎えに来るから」
青の民のショップの天幕で、明後日の帝都行きの件についてディオ君と打ち合わせだ。
ディオ君にはセレシアさんを暴走させない役目を期待する。
「先方のお店のボンボンをセレシアさんに会わせたら、危なっかしいって一目で見抜かれたよ。ディオ君がコントロールできるってとこ見せつけないと、話が流れるかもしれないから、よろしく頼むね」
「頑張ります」
少し顔が引き締まるディオ君。
マジで青の民のトップはディオ君の方が安心。
まだ若いから数年はセレシアさんのカリスマで引っ張るんだろうけど、セレシアさんはデザイナーに専心してくれた方がいいわ。
「明後日の帝都行きの件は置いといて、注文があるよ。白い旗が欲しいの」
「白い旗?」
必要な大きさと持つ柄が必要であること。
一〇日後までに納品して欲しいことを伝える。
「白無地だと芸がないから、真ん中に何かの絵を入れてもらえると嬉しいんだ」
「納期が厳しいですね。刺繍などの凝ったことはムリですが、簡単な絵を描き入れるだけなら」
「簡単な絵か。あっ!」
ナップザックからフクロウのお面を出す。
「これ描いてよ。デフォルメ絵でいいから」
「ええ、これなら。必ず一〇日後までに仕上げますよ」
「頼むよ。じゃあ帰るね」
「バイバイぬ!」
支払いを済ませて転移の玉を起動、帰宅する。




