第1198話:頭の中がお花畑だから
『御主人、見つけたぬ! 大きな屋敷の前、馬車がたくさんあるぬ。今から出発するところだと思うぬ』
時間が空いたので、ヘルムート君と連絡を取っておくことにした。
フィフィの執事にババドーン元男爵の旧臣のリストをもらったから、早めに渡したいのだ。
「馬車がたくさん? となると公爵も帰領するのかもしれないな。ヘルムート君だけに話しかけることはできそう?」
『ムリだぬ』
「じゃあその辺どこでもいいから、なるべく目立たないところにビーコン置いてくれる?」
『わかったぬ!』
公爵フリードリヒさんもいるなら都合がいい。
出発前に伝えられることは伝えとけ。
転移で帝都公爵邸前へ。
◇
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「ユーラシア君じゃないか」
意外そうなフリードリヒ公爵と、警戒する供の者達。
まー見るからにふよふよ飛んでるヴィルは怪しいからな。
でもメッチャいい子で可愛いんだぞ?
「その子が?」
「うちのヴィルだよ。皆さん注目!」
言わんでも全員注目してるけど。
「うちの連絡係を務めてくれている悪魔のヴィルでーす。普通の悪魔と違って人の好感情が好きないい子ですので、皆さんを不快にすることはありません。可愛がってあげてください」
「よろしくお願いしますぬ!」
何とも言えないような表情が並ぶ。
レベルカンストしてる悪魔だもんな。
わかるけど困惑するなよ。
そーゆー感情ヴィルは好きじゃないんだから。
あ、パウリーネさん?
「ヴィルちゃん、いらっしゃい!」
「こんにちはぬ!」
「ぎゅー」
「ふおおおおおおおおお?」
腰砕けになるヴィル。
「な、なかなか気持ちよかったぬ」
笑いが出て和やかな空気になる。
パウリーネさんグッジョブ。
よしよし、ヴィルいい子。
「ルキウス様にお渡しして欲しいんです」
「わかった。今日中に渡しとくね」
今は身内の人しかいないからいいけど、あんまり大っぴらにプリンスとお付き合いしてることを広めて欲しくないんだが。
ん? フリードリヒさん何?
パウリーネさんの頭の中がお花畑でブレーキ利かないから、公爵領都パッフェルに連れて帰るって?
おおう、ナイス判断です。
了解しました。
「プリンスとの文通はあたしが中継してあげるから、あんまり浮かれ過ぎないでね」
「はい!」
「何日くらいでパッフェルに着くの?」
フリードリヒさんが答えてくれる。
「五日後の予定だよ」
「じゃ、それ以降にあたしも一度パッフェルに行くから。宮殿の門番さんだか番兵さんだかに、あたしのこと話しといてよ。行き違いがあるといけない」
フリードリヒさんが不思議に思ったようだ。
「ユーラシア君はパッフェルに来られるのかい?」
「ヴィルが持ってるこの石、転移の行き先の目印になるビーコンっていうものなんだ」
「……つまりヴィルちゃんにビーコンを持っていってもらえば、どこにでも転移できると?」
「そゆこと」
「そゆことだぬ!」
「へえ、実に羨ましい!」
純粋な貴族だと旅程もまた楽しみの一環なんだろうけど、商売人や軍人だと時間の大切さは嫌というほどわかってるだろうからなあ。
もっとも地図上の位置指定で正確にヴィルが転移できるかはわからない。
でもヴィルの地理感覚はかなり優れているから、一度で飛べなくても繰り返せば目的地まで行けると思う。
「フリードリヒさんにもお土産あげるよ。これ」
「……何だい? これは」
「持ってる人が魔力を流すと起動するパワーカードっていうものなんだ。ドーラ名物だよ。いろんな種類があるんだけど、この『遊歩』の効果は……」
フワッと浮き上がる。
「飛べる」
「おお! それは便利だ!」
「飛べって念じれば飛べるよ。でもコントロールにコツがいるんだ。やってみて」
フリードリヒさんはレベル二〇ちょいくらいだと思う。
一番コントロールしやすいレベル帯だろ。
と思ったら、最初割とスピードが出てヒヤッとした。
けどすぐヒラヒラ飛べるようになった。
問題なし。
「いやあ、これは素晴らしい!」
「でしょ? マジックポイントを実質使わないってのがミソだよ。でもレベル二〇くらいはないと使えない。マジックアイテムや魔法の装備品とは効果が干渉することあるから注意ね」
「わかった。感謝する!」
ハハッ、大喜びじゃねーか……ってそれだけじゃないね。
何々、お礼がしたい? あーんど悪魔のことをもう少し詳しく聞きたい? でも今は周りに人が多いから、パッフェルの宮殿を訪ねてくれ? だから行くってば。
という意思のやり取りを、一瞬の目配せで行う。
公爵もアイコンタクト話法ができる人だったかー。
「で、今日ここに来た目的なんだけど」
「遊びに来たんじゃなかったのかい?」
「遊びだけのために来るわけないだろ」
いや、あるかもしれないな。
心のゆとりは大事だから。
エンターテインメントを求める無垢な心は、あたしのごまんとある長所の一つ。
「確認するけど、ヘルムート君の男爵叙勲がすんだから領地に帰るんだよね? で、すぐにガータンに向けて進発することになる?」
「うむ、間違いない」
「これ、ヘルムート君にあげる」
「む? 何だ?」
「ガータンのババドーン元男爵の旧臣で使えそーな人のリスト」
「「えっ?」」
驚くフリードリヒさんとヘルムート君。
できる女の素早い仕事に恐れおののけ。
「大変ありがたいが、ドーラ人のユーラシア君にどうしてこれがすぐに調べられたんだ?」
「調べたわけじゃないんだ。フィフィの執事がメッチャ優秀な人で、こういうものが欲しいって言ったら、すぐに一覧にしてくれたの」
「そうか、フィフィリア嬢の……」
あたしだってビックリしたわ。
さっき確認するつもりで塔の村行ったら、もうできてるんだもん。
フィフィの執事はできるやつなのだ。
「大いに感謝する。だがユーラシア殿は何故ここまで肩入れしてくれるのだ?」
「何言ってんだ。ヘルムート君を推薦したのはあたしだぞ? とっとと手腕を発揮してくれないと、あたしの見る目が疑われるだろーが」
「む、期待には必ず応えよう」
ん? 御家来衆のあたしを見る目が変わったじゃねーか。
尊敬の目で見られるようなことはしてないけどな?
ただのサービスだぞ?
「じゃ、あたしは帰るね。六日後にパッフェルに行くよ」
「行くんだぬ!」
「ハハハ。楽しみにしているよ。ではまた」
転移の玉を起動し帰宅する。




