第1193話:見つめ合うと素直にお喋りできない二人
――――――――――二〇四日目。
フイィィーンシュパパパッ。
ギルドにやって来た。
「やあ、おはよう。チャーミングなユーラシアさん」
「ポロックさん、おはよう」
「おはようぬ!」
「ハハッ、今日はヴィルちゃんも一緒かい」
ポロックさんはいつもニコニコしている。
かつオネスティ。
身体がでっかい上に人当たりがいいから、外部の荒くれ者も訪れるだろうギルドの総合受付としてはピッタリだなあ。
「これからダンのラブイベントなんだ」
首をかしげるポロックさん。
「ラブイベント? ユーラシアさんが仲介するのかい?」
「そうそう。ちょっと変な話なんだけど……」
相性がいいんだけどうまくいかないどうのこうの。
「ふうん? 双方それで納得してるのかい?」
「見込みはないかもしれないよってことはよく説明したんだけどね。ダンも向こうも、あたしが相性いいっていう相手に会ってみたいって」
「ほうほう。成り行きに興味はあるねえ」
「あたしもどーゆーことかわかんないから、早く会わせたいんだよ」
「ダンさんにはユーラシアさんこそ相性がいいと、俺は思っていたんだけどねえ」
「あれ? ポロックさんはあたしとダンとゆー考え方だったか」
あたしも実は自分との相性はよくわからないのだ。
大体誰とでも仲良くできると思うけど、ダンのことはギルドのオチ担当兼流行を担う農場のボンとしか見てないしな?
「今日まだダンは来てないの?」
「朝に来る時は大体いつもこのくらいだけど……ああ、来た来た」
ダンが玄関から入ってくる。
「よう、待ったか」
「すげえ待ったよ」
「あんまり待ってないぬ!」
「ハハッ、よしよし。ヴィルは正直だな」
「最近ヴィルが超面白いんだけど。覚醒したのかな?」
ポロックさんとダンに代わる代わる撫でられているヴィル。
いい子だな。
「そーだ。ポロックさんはいつ頃が暇なの?」
「ん? 勤務中ではということかい? 人の出入りの多くなる昼食時以外は、さほど忙しくはないよ。何故だい?」
「過去ギルドに来る前に脱落しちゃった『アトラスの冒険者』の名簿をもらったんだ。すごい固有能力持ちを埋もれさせたらドーラの損害じゃん? 教えてもらおうと思って」
「固有能力の内容をってことかい? そりゃ構わないよ」
「掘り起こしなんてやってるのかよ? 物好きだな。あんたがお節介なのは知ってるが」
「いや、これからなんだ。まだどうなるかわかんない」
将来の布石のために、いい人材を発掘できるといいなってことではある。
けど暇潰しの意味合いも強いのだ。
面白い人と知り合いになりたい。
「じゃ、行こうか。ポロックさんさよなら」
「バイバイぬ!」
転移の玉を起動、ダンを連れて帰宅する。
◇
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
カトマスのマルーさん家にやって来た。
「おう、アンタ達かい。いらっしゃい」
「ニルエに相性ピッタリって言ってた人、連れてきたよ」
「そうかいそうかい。紹介しておくれよ」
「ダンでーす!」
すげえ微妙な顔をするダン。
「どちらさんだっだかねい?」
「『オーランファーム』の跡取り息子だよ」
「『オーランファーム』の? こりゃ驚いた。立派な男になったもんだねい」
マルーさんったら、ダンの頭のてっぺんからつま先まで眺めまわして驚いてる。
気持ちはわかる。
ダンは結構なレベルの冒険者だもんな。
マルーさんは自分が冒険者の心得があるからか、固有能力以外にもレベルを評価する傾向にあるのだ。
「……『タフ』、間違いないねい。しかしカリフの息子が、固有能力持ちだった記憶がないんだが」
「いつの間にか発現したんだよ。マウさんとシバさんが、あたしがいつもオチ担当にして弄り回すせいだって言ってた」
「ふうん。まあアンタだとそういうこともあるんだろうねい」
皆雑な扱いだな?
マルーさんのダンに対する印象はかなりよさそう。
「ところでニルエは?」
「買い物に行ってるよ。直戻る」
「おい、ちょっと待てよ!」
あれ? ダン、どうしたの。
「ニルエってクソババアの孫娘なのかよ!」
「うん。だからひょっとすると面識あるのかなとは思ったけど」
ちっちゃい頃とかに。
反応からすると会ったことなかったみたいだけど。
「あんた面白がってババアのこと俺に教えなかっただろう!」
「そりゃまあ。ダンとニルエのラブイベントで一番の肝だから」
マルーさんが機嫌よさそうに笑う。
「ハハハ、面と向かってクソババアと吠える若者は久しぶりだねい。気に入ったよ」
「ダンはこう見えてなかなか正直だよ。イシュトバーンさんにはクソジジイって言うし、あたしの美少女っぷりや性格や神経の太さを、しっかり褒めてくれるんだ」
「そうかいそうかい」
「おい、ユーラシア!」
いつも余裕のあるダンらしくない、焦った声ですね?
「どうしたの? 怒ったフリしちゃって」
「あんた、相性はいいけどうまくいかないみたいなこと言ってただろうが」
「うん、言った」
「うまくいかない理由なんて明らかだろうが。ババアの孫だからだよ!」
「そんなことはないなー」
「そんなことはないねい」
「そんなことはないぬ!」
おお、淀みなく落ち着いた三つの声。
ダンが小物に見えるぞ?
「ところでばっちゃん。売れない高級魔宝玉をたくさん抱えてるでしょ? おゼゼができたから一五〇万ゴールド分引き取るけど、何をいくつもらえる?」
「おや、いいのかい? 助かるねい。一粒万倍珠、邪鬼王斑珠、雨紫陽花珠、鳳凰双眸珠、幽玄浮島珠を一個ずつ。計五つでどうだい?」
「関係のない話を始めるんじゃねえよ!」
「うるさいなあ。大きい取り引きだぞ? ちょっと黙っててよ。ばっちゃん、ザッツオーケーでーす。はい、一五〇万ゴールド」
「ほい、魔宝玉五つだよ。おや、ニルエお帰り」
「お帰りー。お邪魔してるよ」
「ユーラシアさん、いらっしゃい。そちらの方は?」
「ダンだよ。ニルエと相性これ以上ないくらいピッタリの男性」
「えっ!」
見つめ合うと素直にお喋りできない二人。
ハハッ、あれだけ文句垂れてたダンが硬直してるじゃねーか。
あたしのラブセンサーの感度に恐れ入るがいい。
「じゃ、あとはお若いお二人で。ばっちゃん、昼御飯奢るから付き合ってよ。教えて欲しいことがあるんだ」
「わかったよ」
「バイバイぬ!」
マルーさんを連れ、転移の玉を起動し一旦帰宅する。




