第1189話:ユーラシアの噂
「とゆーわけなんだ」
「また何かあったら教えろよ」
「うん」
話は終わった。
ダンとギルド職員にはあたしがどこまで帝国に食い込んでて、ドーラの現状としてどうなのかってことは知っててもらいたいのだ。
協力してもらいたいことが出てくるかもしれないから。
そーだ、おっぱいさんに聞きたいことあるんだった。
「ところでギルドにお金を預けた時の特典って何なの?」
「石板クエストの御案内をさせていただいております」
「それは特典だったんだ?」
ただ冒険者を働かせるだけじゃなくて?
いや、転送先が増えることは嬉しいけれども。
おっぱいさんニッコリ。
「ベテランのクエストともなると、クリアするまでに大変な時間がかかるケースも多いです。転送魔法陣が増えることは『アトラスの冒険者』にとっての大きなメリットですから、割のいいクエストを紹介しているんです」
「なるほど?」
割がいいのは冒険者にとってかな?
ギルドにとってかな?
あえて言わないおっぱいさんはできる女。
「もっともユーラシアさんくらい実力と実績を備えた冒険者であれば、預金の有無に関係なくお勧めいたします」
「特別扱いってことかー」
ダンが大口開けて笑ってやがる。
仕事押しつけられてろって顔だな?
まーおっぱいさんの振ってくれるクエストは、あたしの中で大変評価が高いです。
ソロモコの情勢に変化があるのは、第一皇子の喪が明けてからだから……。
「あたしの手持ちのクエストが動き出すまで、まだ一〇日以上ありそうなんだ。適当なクエストがあれば欲しいな。あ、いいよ。ダンはいても」
クエストは秘匿性が高いものもあるそうだが、ダンは見かけより常識あるしな。
頷くおっぱいさん。
「ユーラシアさんに相応しい難易度ですと、『ユニコーンの角』取得のクエストがありますよ。『ユニコーンの平原』の『地図の石板』が付属します」
「おい、新聞読んだぜ。『ユニコーンの角』持ってるんだろ?」
「うん。サクラさん、これ」
『ユニコーンの角』をナップザックから取り出し、机の上に置く。
「ベルさん、すいません。アイテムのチェックお願いします」
武器・防具屋ベルさんがチェックする。
「はい。『ユニコーンの角』間違いないです。ユーラシアさん、あの噂って本当なんですか?」
「噂ですか?」
おっぱいさんは知らないらしい。
「ユニコーンがわーっと群がってきて、角を置いていったとか」
「えっ? そんなことがあるんですか?」
「本当なんだよ。これ」
ナップザックから残りの『ユニコーンの角』を取り出すと、ベルさんが笑う。
「やっぱユニコーンもウマだから、ニンジン大好きなんだよね」
「ハハッ、全部本物。驚きですねえ」
「パワーカードの工房で『ユニコーンの角』持ってきてくれって言われてたんだ。ゲレゲレさんの持ってる転送先で、ユニコーンのいる草原があることは知ってたから」
ユニコーンを飼うことはできないんだろうな。
プライドが高いから。
友達になってて、必要な時に角をもらいに行ければいいや。
「今、平原にいるユニコーンは全部角なしなんだ。生えてくるまでに何ヶ月かかかると思うから、もし急ぎで『ユニコーンの角』欲しい人がいたら、あたしに教えて」
「わかりました。では『ユニコーンの角』一本納品でよろしいんですよね?」
「はい。お願いしまーす」
ギルドカードを提出する。
「確認いたしました。こちら依頼料の一〇万ゴールドになります」
「「「えっ?」」」
一〇万ゴールド?
メチャメチャ高くね?
「おい、『ユニコーンの角』ってそんなに高いのかよ?」
「いや、普通に売ったら三〇〇〇ゴールドくらいだよ」
「破格ですね」
「桁間違ってないよね?」
「間違いありません。どうしましょうか?」
「貯金しといてちょうだい」
「では依頼料一〇万ゴールドゴールドは預金口座へ移しておきます。『地図の石板』はどういたしましょうか?」
あ、石板もあったか。
「いらない。ユニコーンの平原はあんまり行く機会もなさそうだし、行こうと思えば行けるから」
ヴィルに場所覚えてもらったしな。
転送魔法陣設置コストかかんない方がギルドも嬉しいだろ。
しかし?
「依頼者の情報は話せないんだよね?」
「明かせませんね。カル帝国からの依頼とだけ」
帝国から?
相場を知らないのか?
ベルさんが言う。
「……『ユニコーンの角』は素材としてだけでなく、医薬品としても知られていますが」
「薬としてはどんな効果があるの?」
「確認されているのは解毒、解熱ですね。しかし万病に効くという伝説があるんですよ。大枚はたいて『ユニコーンの角』を求めるのは、むしろ伝説に縋りたいケースでしょう」
だろうな。
解毒や解熱が目的なら安価な薬草や薬がある。
重病のお金持ちがひょっとしてと期待して、『ユニコーンの角』を欲しがるんだろう。
「皇帝か?」
「かもね」
もし皇帝陛下が万が一に期待して『ユニコーンの角』を手に入れようとするなら、いよいよ危ないのかもしれない。
早くお亡くなりになるんだと、主席執政官の第二皇子が皇帝になることは止められないだろうなあ。
プリンスルキウス逆転の機会がなくなっちゃう。
帝国の情勢はあっちにもこっちにも注意しとかないといけない。
ベルさんが聞いてくる。
「ところでユーラシアさん。あっちの噂の方は本当ですか?」
「どっちの噂だろ? 失礼な噂は問答無用で否定しといてね。イカす噂なら真偽に関わらず広めてもらって構わないけど」
「面白い話なら俺が広めといてやるぜ」
「おいこら」
「迷惑なんだぬ!」
アハハ、ヴィルよしよし。
あたしくらいの超絶美少女冒険者ともなると、いろんな噂も飛び交ってるだろうからな?
ベルさんの聞いた噂って何だろ?
「新聞で見たんですが、帝国で出現したヤマタノオロチを倒したとか」
「あっ、ごめん! 牙は全部売っちゃった。被害を受けた集落への寄付にしたんだよ。ダン、こういういい話は広めといてよ」
「偽善的な話はつまらねえ」
「何でだよもー!」
「何でだぬ!」
アハハと笑い合う。
たまにギルドに来ると楽しいなあ。
「じゃ、帰るね」
「バイバイぬ!」
ポロックさんに『アトラスの冒険者』脱落者名簿にある固有能力のことを聞くのはいつでもいいだろ。
急ぎじゃないから暇な時にやろっと。
転移の玉を起動し帰宅する。




