第1186話:毎度あり
「ユーラシアさん、随分饒舌だったじゃないですか」
「我々にもサービスしてください」
帝都最大の店『ケーニッヒバウム』へ行く途中での会話だ。
十分サービスはしてるだろうが。
ヘルムート君と記者トリオもついてきてくれるらしい。
記事ネタはもう足りてるんじゃないの?
「ドーラから自由に帝都まで来られて好き勝手できるの、あたしだけじゃん?」
「ですね」
「せっかく有力者に会えたなら、あたし自身とドーラの宣伝をしとかないといけないからね。ドーラをいい国にするために」
ヤマタノオロチ退治で名を売れたのは幸運だった。
機会は最大限に利用しないといけない。
「ところでヘルムート君の正式な男爵就任はいつになるの?」
「明日とのことだ」
「えっ? 早くね?」
「春の植えつけの時期を逃すと、一年を農民任せになってしまうだろう? 配慮してくれたとのことだ」
細かく恩を売りつけてくるなあ。
やはり主席執政官はできる男。
「となるとヘルムート君の行動はどうなる?」
「叙爵を受けたあと、明日午後には故郷パッフェルへ発つ。用意を整えたらガータン行きだ」
「ヘルムート君の行動も早いな。ガータンに着くのは何日後くらいになるかな?」
「早くても一〇日後くらいになるだろうか? なるべく急ぎたいが」
了解。
貴重な時間だけれども、移動も経験の内だろ。
「家来はどうするの?」
「一番の問題はそこだな。急な話なので、自分に直臣と呼べる者は供回りくらいしかおらん。ババドーン元男爵の旧臣を登用できればよいのだが」
協力してやりたいな。
フィフィのとこの執事に聞いてみるか。
さて、『ケーニッヒバウム』に到着だ。
「こんにちはー」
「はい、いらっしゃいませ。あっ? ドーラのユーラシアさん?」
「ドーラの美少女冒険者ユーラシアだよ。フーゴーさんかピット君に会うにはどうしたらいいかな?」
「はい、御案内いたします。こちらへ」
美少女は目立つから皆が見てくるなあ。
お仕事中ごめんね。
「ここかー。あっ、魔宝玉ショップじゃん!」
「奥が事務所になっております」
いかつい用心棒が何人もおるやん。
あたしが可愛いからって睨むなよ。
でも魔宝玉の価格高くない?
チラッと目に入った黄金皇珠のお値段一〇万ゴールドだぞ?
ドーラでの売値は大体二万ゴールドってところなのに。
「おお、ユーラシア殿。いらっしゃい」
「こんにちはー」
「今日はどうされましたかな?」
「どうってことはないんだけど、今度ヘルムート君が男爵になるんだ。旧ババドーン男爵領のガータンってとこなんだけど」
「ほ? それはおめでとうございます」
「商人の目から見てガータンってどう思う?」
フーゴーさんの表情が引き締まる。
「漆器はわしがババドーン様に勧めたものです」
「ウルシの栽培はなるほどと思った」
「しかし山賊が問題でしてな。輸送コストが上がってしまっては商売になりませぬ」
「やっぱ山賊がネックかー。ありがとう、フーゴーさん」
ヘルムート君と視線を交わす。
山賊は何とかしないとな。
最優先課題だ。
「フーゴーさんに会ったことをイシュトバーンさんに話したら、フーゴーさんによろしくって言ってたよ。この前のスイーツ、イシュトバーンさんとこの料理人に作ってもらったんだ」
「さようでしたか。イシュトバーン殿、懐かしいですな。お元気ですかな?」
「元気も元気。日々セクハラに余念がないよ」
アハハと笑い合う。
「スイーツの職人さん借りたいって話だけど」
「明後日はいかがですかな?」
「じゃあ明後日の朝迎えに来るね。ここに来ればいいかな?」
「はい、お願いしますぞ」
「ヴィルカモン!」
フーゴーさんが興味深そうな目で見てくる。
「あの通信悪魔ですな?」
「うん。連絡したい時に飛ばすから、紹介しとくね」
「じゃじゃじゃじゃーん! 御主人の求めに応じヴィル参上ぬ!」
「よーし、よく来た! ヴィルいい子!」
ぎゅっとしてやる。
「『ケーニッヒバウム』の店主フーゴーさんと、新男爵のヘルムート君だよ」
「よろしくお願いしますぬ!」
「おうおう、こんな可愛い悪魔だったとは」
「可愛いぬよ?」
「連絡だけじゃなくて、ヴィルに転移先ビーコンを持っていってもらうと、あたしもそこに飛べるの」
「ほう、便利だな」
マジで便利なんだよ。
ガータンにはあたしも行ってみたい。
地図上で場所を指定しても、ヴィルはワープできるのかなあ?
「……聞くところによると、ユーラシア殿は名うての魔宝玉ハンターであるとか」
「あたし以上の魔宝玉ハンターは、ドーラにもちょっといないよ」
「黄金皇珠以上の高級魔宝玉は手に入りますかな?」
「高級魔宝玉を持ってこいっていう類の依頼は、あたしの専売特許だけど」
「帝室の国宝として大切に保管されているという鳳凰双眸珠。実物を見たことがないのです。一度見て見たいもので」
「何だ。そんなことなら」
ナップザックから鳳凰双眸珠を一個取り出す。
「ほ、本物の鳳凰双眸珠! 間違いありません!」
あ、後ろに控えていた人『道具屋の目』持ちだったか。
「おお、これが……」
「どうしてこういうものがポンと出てくるんですか!」
「と言われても。これゲットするのが難しいから、今のとこうちのパーティーでしか取ってこられないの。御用向きがあれば今後ともよろしく」
「売っていただけませんかな?」
「構わないんだけど……」
ドーラ政府や貿易商にも儲けさせてやらないといけないから、あたしが直接売るのは都合がよろしくない旨を説明する。
「ユーラシア殿の考えは素晴らしいですな。では四〇〇万ゴールド出しましょう。ユーラシア殿の取り分が二〇〇万ゴールド、ドーラ政府とベンノ君の取り分が一〇〇万ゴールドずつでいかがです?」
「えっ?」
直接あたしから買うけど、分け前はドーラ政府にも貿易商にも渡すってことか。
えらく大胆な提案来たぞ?
フーゴーさんはさすがだなー。
誰も損しないし、高級魔宝玉の行き先はわかってた方が、相場安定のためにも都合がいい。
「うん、いいよ」
「では四〇〇万ゴールド。御確認くだされ」
「いや、三〇〇万ゴールドもらっていくよ。ベンノさんとは直接話してくれる?」
フーゴーさんもベンノさんと繋がりを強くしたいだろうから。
「御配慮痛み入りますぞ!」
「サービスだよ。じゃ、明後日また来るね」




