第1184話:帝国の税金徴収システム
ヘルムート君と話をしながら、皇宮の近衛兵詰め所に戻る。
「……とゆーわけ。パウリーネさんとプリンスの婚約については第一皇子殿下の喪が明けてからになるでしょ? それまでなるべく話が漏れないようにして欲しいんだよね」
「うむ、ガレリウス様の喪中に浮かれた話が出るのも申し訳ないことだ。姉が舞い上がり気味なので注意しておこう」
公爵やヘルムート君にもヴィルを会わせておくべきかとも思ったが、宮廷魔道士は帝都の悪魔を監視してるみたいだしな?
おかしなルートから付き合いがバレないとも限らん。
ヘルムート君が正式に男爵になるまでは、あたしが直接ラブレターを中継するべきか?
気を回し過ぎだろうか?
「ただいまー」
皇宮の近衛兵詰め所に到着。
「記者さん達、施政館行こうか」
「「「はい!」」」
今日もどうせ記者さんの入館を認めてくれるだろ。
歩きながら話す。
「主席執政官には、フィフィかヘルムート君を新男爵に推薦するって言ってあったんだ」
「フィフィとは?」
「ババドーン元男爵の娘の」
「フィフィリア嬢か」
「うん。新男爵領がババドーン元男爵の旧領なんだ。ガータンってとこ」
「なるほど、だからフィフィリア嬢を」
ヘルムート君頷いてるけど、言うほど簡単なことじゃないんだぞ?
「フィフィは今ドーラにいて冒険者として成功しつつあるんだよ」
「ほう、あのフィフィリア嬢が冒険者。逞しいことだ」
「フィフィは化けたなー。リリーと同じところをホームにしてるんだよ。リリーも昨日ドーラに戻ったんで、今後は冒険者活動により力を入れると思う」
個人的には著作活動に力を入れて欲しいが。
「だからフィフィが降って湧いた男爵なんか受けないこと、想像はついてたんだ」
「そうだったんですか?」
「今のフィフィはかなりの現実主義者だからね。あたしの中で新男爵本命はヘルムート君だった」
伯爵より公爵に世話焼いた気になってるほうが、主席執政官も楽しいだろうから。
ただあたしも公爵と新男爵をプリンスルキウスの陣営に引き込んだ気でいるけど、フリードリヒさんはどうなんだろうな?
プリンスに協力するとは言ったけど、バックについてくれる言質は取れてないのだ。
「フィフィに聞いたけど、ガータンって治めるの難しいところみたいじゃん。山賊が多い、土が農業に向いてないのがネックだって」
「自分もガータンへは行ったことがないのでわからんが」
「そーか。公爵領のお隣だから、ヘルムート君が領主なら何とでもなるけど」
フリードリヒさんにおんぶに抱っこじゃつまらんな?
いや、フリードリヒさん商売人臭がするから、息子が領主だからって甘やかさないかも。
ヘルムート君の領経営がうまくいかなかったりすると、あたしの見る目がないとか言われちゃうわけか。
ネックは山賊の存在。
「山賊って基本的に捕まえるとどうなるの?」
新聞記者が説明してくれる。
「山賊とは、市民権のない者で単に山に住み着いたか、盗賊行為を働いた者かの俗称なんですよ」
「その区別は困難です。盗賊行為を働いたら当然縛り首ですが」
追い剥ぎ村みたいなものか。
市民権っていう事情が絡んでるから、ドーラよりややこしいけど。
「領主の権限ってどれくらいあるの? 例えば山賊に市民権を与えることはできる?」
「それは……無論可能だが」
「山賊に市民権を? ユーラシアさん、随分奇抜なことを考えてるんですね」
「だって、頭痛の種が税金納めてくれる領民になったら嬉しいじゃん。敵を味方にしようとするのは戦略の基本だぞ?」
驚くヘルムート君と記者トリオ。
「……市民権なき者が善行により獲得したということはままありますが」
「うむ、賞罰関係なしに市民権を与えようという発想は、これまでになかったかもしれないな」
罰として市民権の剥奪が、賞として市民権の授与があるということか。
しかし?
「これまでと同じことやってちゃ、これまでと同じ苦労するぞ?」
「ハハッ、道理だな。山賊対策に市民権というのは面白い。市民権でなく、住民登録だけを認めるのでもいいかもしれないな。よく考えてみよう」
「住民登録?」
知らん言葉が出てきたぞ?
帝国のシステムの一つらしい。
記者が説明してくれる。
「市民権と住民登録はセットみたいなものなのです」
「市民権は帝国どこでも通用しますが、住民登録はどこに住んでいるか、というより通常はどこの領で税金を払っているかを意味します。市民権を持っていても住民登録していない者は、帝国市民としての利益を享受できません」
「ふむふむ、税金の取りっぱぐれを防ぐってことだね? 帝国はお役所がしっかりしてるから、かっちりした仕組みがあるんだなあ。ところでヘルムート君の言うように、住民登録だけを認めるってのはどーゆーことかな?」
記者トリオも聞きたそうだ。
ヘルムート君が説明する。
「市民権を持たぬ者は商取り引きもままならぬだろう? 住民登録させて領内未開拓地域の開発と領内での商取り引きを認める、ということだ」
「経済力がついたら市民権を与え税金を取るのか。普通は住民登録が税金支払い証明と思われてるみたいだから、仮住民登録なり領内取り引き許可証なり、違う名前にするといいかもだけど」
いきなり市民権与えたって税金払えるわけがない。
どうせおゼゼなんて持ってないだろうから、仮登録でワンクッション置くってことだな。
しかし仮登録のメリットが大き過ぎると、今度は誰も市民権なんか必要ないと思っちゃいそう。
バランスが難しい。
「帝国の税金のシステムってどうなってんの? ドーラには基本的に税金ないからよくわかんないんだよね」
「人頭税ですよ。一五歳以上で市民権を持っている者から徴税される仕組みです。税率は領ごとに異なりますが、標準税率というスタンダードはあります。地方の貴族領や自治領などで徴収される税金の一定量は国庫に納入されます」
「ふーん。じゃあ領主によるピンハネがない分、直轄領の方が税金は安い?」
「ピンハネって。国は様々な機関や軍を持ちますから、直轄領だって税金はそれなりですよ」
となると税金を徴収するために、市民権を持たないデメリットを大きくせざるを得ないなあ。
「難しい。頭がぷしゅーってなっちゃう」
「ハハッ。施政館に到着ですよ」
受付は、と。




