第1181話:翻弄する側
「サイナスさん、こんばんはー」
『ああ、こんばんは』
夕食後に毎晩恒例のヴィル通信だ。
『今日も帝国へ行ったんだろう?』
「うん。リリーの様子見に行っただけのつもりだったけどね」
『しかしドラマは起きるのであった』
あれ、今日のサイナスさんはエンタメ寄りだな。
「リリーについては特にアクシデントがあったわけじゃないんだ。塔の村に帰したよ」
『つまりリリー皇女とは別件でドラマが?』
「サイナスさん冴えてるね。施政館ってゆー、帝国の政治の中枢に呼び出されたんだ」
『ヤマタノオロチ退治に関することでか。君の琴線に触れる褒美だったんだな?』
「気に入る御褒美じゃなかったけど、くれる予定だったもので面白くなったとゆーのは合ってる」
『ということは……爵位の打診があった。男爵だな?』
「サイナスさんすげえ!」
功績に応じて勲章なり爵位なりくれるってとこまでは思いつくかもしれないけど、何で男爵ってわかった?
普通こういう功績でもらえるのって、勲章とか一代騎士爵なんじゃないの?
『気に入らなかったのは、美少女爵じゃなかったから』
「サイナスさんすげえ!」
完全に読まれていた。
侮りがたし。
『要するにやらかし男爵の封地が余ってるんだろう? 直轄領にするほど旨みがないから押しつけられた』
「うんうん、そーゆー側面はあると思う」
『違う面もあるのかい? 君があまりにも可愛いからってだけじゃ、爵位くれる理由にならないんだぞ?』
「今日のサイナスさんはメッチャ冴えてるなあ。でもあたしのセリフをことごとく消すのはやめてよ。欲求不満になっちゃう」
アハハと笑い合う。
「言い忘れてたけど、施政館で会ったのは問題の主席執政官第二皇子と、封爵大臣ってゆー貴族とか爵位を管轄する人ね」
『ついに帝国の実質トップに会ったのか。どんな人なんだい?』
「パッと見穏やかそうだなと思ったら、グイグイ来る人で、危うく押しきられそーになったわ。要注意だね」
『ふうん、ユーラシアがそう言うほどか。男爵を押しつけられそうになった裏には?』
ヤマタノオロチ退治のおかげで、帝国でもあたしの存在感が出てきたってことだよ。
「つまり今私は帝都で評判の美少女なわけじゃん?」
『間違いじゃないんだろうけど、美少女っぷりじゃなくて魔物退治の実績でな?』
「あたしにインパクトのある恩賞を与えることによって、主席執政官である第二皇子が世の評価とかあたしの好意とかを得ようとしてると思うんだ」
『君そんなことでラブに落ちる人間じゃないだろう?』
「好意って、人脈や派閥的なことな?」
現政権の安定や皇位を巡る後継者争いが念頭にあるのは間違いないのだ。
『おいおい。ということは、男爵様にはならないつもりかい?』
「話を受けなかったことにツッコんだのはサイナスさんが初めてだな。おめでとうございます。残念賞です」
『どうして残念賞なんだ!』
アハハ、ジョークだとゆーのに。
「男爵として働いたら、推挙した第二皇子偉いって流れになりそーじゃん。あたしはプリンスルキウス推しだから、第二皇子のメリットになりそーなことはやんないぞ?」
『ドーラの利益になればいいんだろう? 皇帝が誰であれ、君自身が帝国貴族として幅を利かせれば、イコールドーラのためになるじゃないか』
「……一理あるね」
『皇帝が邪魔なら取って代わればいいんだし。ドーラ人が帝国貴族になるより、貴族から成り上がる方が簡単だと思うがね』
「……あれっ? そっちのが楽しそうな気がしてきた」
『冗談だからな?』
「カル帝国激動の運命に翻弄される美少女って役どころは、『精霊使いユーラシアのサーガ』のエピソードとして相応しいねえ」
『目を覚ませ。君は運命に翻弄される側じゃなくて翻弄する側だ』
「何てことをゆーんだ」
アハハと笑い合う。
まあサイナスさんの言うように、帝国の実力者を目指す道も面白そうではある。
でもガチガチの保守派や帝国に対する忠誠度の高い人、既得権益を得ている人達の中には、どうやっても対立せざるを得ない者もいるだろう。
あたしは血生臭いことは好きじゃないのだ。
そして統治や支配ということにも、さほど魅力を感じない。
『しかし叙爵を断ることも難しいだろう? 帝国ナンバーワン実力者の意にそぐわないんだから』
「あ、もう断ってきたんだ」
『どうやって? 機嫌を損ねるとドーラのためにならないんじゃないのか?』
「その辺はどうにでも」
『万能の説得力がえぐい』
万能ってわけではないんだが。
「タネを明かすと、あたしの代わりとして第二皇子が納得しそうな人物を推薦したんだよ」
『誰だい?』
「アーベントロート公爵家の次男ヘルムート君。リリーの縁談クラッシュイベントの最初の犠牲者』
『ヘルムート氏が能力的に問題ないとしても、功なき者を叙爵するのは、賞罰の原則に反するだろう?』
「ところが功のあったあたしの意見だから通るっぽい」
『ははあ?』
サイナスさん、考えてますね?
『……一見主席執政官率いる現政権が公爵に恩を売ったように見える。が、公爵家の令嬢はルキウス皇子と結ばれるから……』
「公爵男爵がセットでプリンス陣営にようこそってこと」
『おまけに帝国の実力者である公爵とのパイプを強くしたいという、君自身の目的も達せられるということか』
「そゆこと」
『即興の戦術のはずなのにえぐい』
いやでも第二皇子だってかなりえぐいやつだぞ?
最後まで徹底してあたしに拘ってたら、多分断りきれなかった。
もっともその場合はあたしが男爵として好き勝手やるだけだが。
「明日帝都の公爵邸行ってくるんだ。公爵もまだ帝都にいるはずだから、会えたらいいなと思ってる」
『公爵令嬢の方は?』
「うん、プリンスからのラブレターを預かってるよニヤニヤ。渡してくる」
『万全だな』
「うーん、肝心の公爵の人物がわかんないんだよね。温和で優しい人とは聞いたけど」
ヘルムート君やパウリーネさんの父ちゃんだからな?
只者じゃない気がする。
プリンスとパウリーネさんの交際に反対してはいない。
敵じゃないけど、かといって味方と見るのは早計なのではないか?
「じゃ、サイナスさん、おやすみなさい」
『ああ、おやすみ』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『了解だぬ!』
明日もまず皇宮。




