第1177話:こんなところ
フイィィーンシュパパパッ。
「ただいまっ!」
「それは我のセリフではないか!」
「ハハッ、ドーラはあたしのあたしによるあたしのための国だから!」
リリーと黒服を連れ、塔の村に来た。
リリーも半月近くドーラを離れてたから、ウズウズするんじゃないの?
「ところでリリーは今からどうするの?」
「身体が鈍ってしまったからの。軽く一、二時間塔へ潜ろうかと思っているのだ」
「いいねえ」
身体を慣らすにも心を落ち着かせるにもね。
夕御飯までには余裕で帰ってこられるし。
黒服がいるからムリはさせないだろうし。
「あたしはフィフィ探さないと」
リリーが帰ってきたことを教えてやりたい。
もっと大事なこと、やらかし父ちゃんの代わりに旧領ガータンの領主に復帰する道があることを話さないといけない。
「フィフィは大体午前中に仕事してるから、もう戻ってると思うんだよね」
「あとで会おうと伝えておいてくれ。ではさらばだ」
「じゃーねー」
リリーと別れ、パワーカード屋へ。
「あれ? フィフィ、ここにいたんだ?」
ちょっと予想外だったがラッキー。
「あら、貴方。いらっしゃい」
「喜べ。リリーを連れ帰ったぞ」
「うそっ! 今どこに?」
「軽く塔に潜ってくるって言ってたから、夕食時に食堂で会えるよ」
「そうですか……よかった」
ハハッ、嬉しそうじゃないか。
フィフィも大分冒険者っぽくなってきたから、リリーも見て驚くんじゃないかな?
「ところでフィフィは何しにこんなところへ?」
「貴方こそどうしてこんなところへ?」
「君達、こんなところこんなところって言わないでくれよ」
「ごめんよこんなところの店主さん。『ウォームプレート』二枚ちょうだい。これ代金の代わり」
「ん? あ、『ユニコーンの角』じゃないか」
「えっ?」
『ユニコーンの角』に反応したぞ?
フィフィの執事は熱心だなあ。
「何なの? マテウス、知識を披露してもよくってよ」
「雄のユニコーンの頭部に生えている角です。薬の材料としてもレア素材としても知られる希少なアイテムで、私も実物を見たのは初めてです。ユニコーンは霊獣とも聖獣とも言われ、個体数が非常に少ないですから」
「ユニコーンは美少女大好きだから、あたしが行くとわーっと集まってきちゃうんだ」
「それマジだったのか!」
コルム兄疑ってたのかよ?
「マジだってばよ。集まったところでニンジンあげてさ。ユニコーン住んでる草原にはニンジンみたいな美味いものはないらしくて、食べる食べる。で、プライドが高くて借りを作るのが嫌なのかもしれないけど、角をくれるんだよね」
「御伽話みたいな自慢話だなあ」
「一一本手に入ったんだ。二本アルアさんとこに置いてきた。『ユニコーンの角』も次が生えてくるまで手に入らないから、もし何が何でも欲しい人いたらあたしが持ってるって教えてあげて。三〇〇〇ゴールドで売ってあげる」
これ以上喋るとボロが出そうだな。
面白少女好きのユニコーンめ。
「フィフィは何しに?」
「パワーカードを買いにですわ」
「だよね。何のカード?」
「『サイドワインダー』と『スナイプ』を」
「ひょっとして執事さんもパワーカードにするんだ?」
「長期で考えれば当然でしょう? 既に防御用のカードは装備していますし」
パワーカードは軽いから探索に向いてるって意味だろう。
防御用のカードと仕込み杖は干渉しないんだろうな。
コルム兄のアドバイスだろうが。
「『サイドワインダー』と『スナイプ』を両方装備すれば、現在の仕込み杖より攻撃力は上。『サイドワインダー』に付属しているバトルスキル『薙ぎ払い』と『スナイプ』の通常攻撃遠隔化で、低層階は無敵ですわ!」
「実にいいねえ。今装備してるカードって何なん?」
「『ポンコツトーイ』が全員分。その他にオトが『スラッシュ』と『武神の守護』、マテウスが『ハードボード』、私が『ホワイトベーシック』ですわ。『ポンコツトーイ』一枚は塔の中でゲットしましたの」
ははあ、あたしのレクチャー後に手に入れたのは、『ポンコツトーイ』三枚と前衛執事用の『ハードボード』か。
実に合理的だな。
しかし稼いだおゼゼの大部分をスキルとカードにつぎ込んでるんじゃないか?
フィフィ用の防御カードも早めに欲しいし、最初はしょうがないか。
熱心に冒険者してるようだから、一ヶ月もあれば投資分は回収できるだろ。
「うん、ムリしなきゃバッチリ」
「ありがとう存じます。購入後は入口フロアで使用感だけ確認してきますのよ」
「いいね。あとで大事な話があるんだ。食堂で会おう」
「わかりましたわ」
フィフィと別れ、デス爺の輝く頭を探す。
「あ、いたいた。おーい、じっちゃーん!」
「何じゃ、いつも騒々しいの」
「内緒の話があるんだ」
「だったらもっと小さな声で話さんか。こちらへ」
デス爺の小屋に案内される。
「さっきリリーと黒服さん帰ってきたんだ。またよろしくね」
「うむ、他にも用があるのじゃろう?」
「エルに異世界から追っ手がかかってる」
デス爺の片眉がピクッと動く。
「……確かじゃな?」
「『アトラスの冒険者』のチュートリアルルームで会った。絶対逃げられない場所から逃げた精霊使いを探してる」
「ふむ」
「その追手が『ダウト』っていう、言ってることがウソか本当かわかる固有能力持ちなんだ。今はまだこっちの世界の様子を見に来ただけだから追い返せたけど、マジで疑ってきたら誤魔化せないな」
「……どうすればよい?」
「いや、何もしなくていいよ。とゆーか何もできない」
頷くデス爺。
「一応じっちゃんには知らせとこうと思っただけなんだ。エルにもまだ言わなくていいよ。考え過ぎても困るし」
「何故追われているかわかるか?」
「エルは向こうの世界の旧王族の生き残りらしいの。ドーラに赤眼族っているじゃん? あれが一〇〇年以上前にこっちの世界に追放された異世界の旧王族なんだけど、同じような立場になるのかなあ?」
「ならば交渉次第でエルをこちらに留めておくことができるかもしれぬということか?」
「うん。でも条件がわかんないから何とも」
判断材料となる情報が少な過ぎるのだ。
「じっちゃんに知っといて欲しいことはまた知らせに来るよ」
「うむ。探り過ぎて墓穴を掘るでないぞ」
「わかってる」
さて、あたしも食堂行くか。




