第1174話:主席執政官と腹の探りあい
「楽しみだなー」
「ユーラシア様は英雄ですから!」
「英雄だと男の人みたいだから、ヒロインって言ってよ。どーもおっぱいが慎ましやかなせいか、男扱いされて困る」
結局新聞記者の取材は認められた。
施政館へ案内される途中、メッセンジャーや記者トリオと笑い合う。
「何くれるのかなー」
「何だと嬉しいですか?」
「食べたことのないおいしいものだと嬉しいなー。でなきゃ現金」
「いきなり即物的ですね」
「心と身体の隙間を埋めるのは、即物的なものと決まっているんだよ」
「「「ええ?」」」
記者トリオが不満そうです。
何故だ?
「愛とか夢とか……」
「愛は与えるもの、夢は掴むものだぞ? ちっちゃな隙間に突っ込んで満足してちゃいけないのだ」
「「「そのセリフいただきます!」」」
ハッハッハッ、気分がいいなあ。
「施政館って遠いの?」
「いえ、もうすぐですよ」
一応聞いただけ。
メッセンジャーの文官は一時間も経たずに戻ってきたから、遠くないとは思ってた。
帝国だから携帯で遠話が可能な魔道具なんてものがひょっとしてあるかなーと思ってたけど、少なくとも普及レベルでは存在しないらしい。
「メッセンジャーさん。あたしが何もらえるのか知らない?」
「存じておりますが、ドミティウス様に直接伺った方がドラマチックなのでは?」
「それもそーだな。感涙にむせぶ練習しとかないと」
アハハと笑いながら施政館へ。
「ドーラの冒険者ユーラシア様をお連れしました」
「入ってもらってくれ」
「こんにちはー」
開かれた重厚なドアから、執政官室に入る。
三〇台半ばの茶髪ロングで柔和な表情の男と、それよりやや年上に見える事務的な無表情さを装う濃い青髪の男がいる。
どちらが主席執政官かと言えばそりゃあ……。
「ドーラの美少女冒険者ユーラシアだよ。よろしく」
茶髪ロングの方だわな。
存在感が違う。
ニコッと笑みを浮かべた茶髪ロングが言う。
「予が主席執政官ドミティウスだ。こちらが封爵大臣のデニス、よろしくね。可愛いお嬢さん」
メッチャ物腰柔らかいやん。
意外だな?
メキスさんやバアルの話から、もっと圧迫感ある人かと思ってたわ。
「この度はヤマタノオロチを退治していただき、カル帝国を代表して御礼を申し上げます」
「魔物退治はドーラの冒険者の得意とするところだから、またこういうことあったら依頼出してよ」
「テンケン山岳地帯で飛空艇を落としたのは君なんだな?」
「うん」
いきなりかよ。
話題の転換の急なこと。
記者トリオばかりじゃなく大臣さんも驚いている。
大臣さんですら初耳みたいだな。
「ハハッ、動じないな」
「戦争だったからしょうがないぞ? 飛空艇のことで文句言うなら、ドーラ独立の条約を結ぶ前に言ってもらわないと」
「ふむ、これがドーラの冒険者ユーラシアか」
値踏みするような目。
確かに一級品の政治家だわ。
帝国の主席執政官だけあるなあ。
豊富な情報を背景に切り込んでくる手法がこれか。
確かにメキスさんとバアルがいなくなると、弱体化しそうではあるが……。
「気に入ったよ。ユーラシア君、一つ頼みがあるんだが」
「何だろ?」
しかも何かレアな固有能力持ちだ。
主導権取られそうで、すげー気持ち悪いな。
「男爵位を受けてもらいたい」
「えっ?」
「ヤマタノオロチ退治の報酬だよ」
またも予想外の攻撃。
封爵大臣から地図を提示して説明がある。
ちなみに封爵省とは貴族の封地とか爵位を管轄する役所だそうな。
「領地はここです。帝国本土のほぼ中央部にあるガータン」
「ババドーン男爵の領地だったところだ。不祥事で領主がいなくなってしまってね」
「昔から難治の地として知られ、領主が次々代わるのです」
「君の政治的才能についても調べはついてる。領民のためにぜひ受けてもらえまいか?」
ババドーン男爵の不祥事って、あたしが絡んでるじゃないか。
その上領民のためとか、断りづらい材料を連打してくるなあ。
大したもんだ。
「……ちょっとムリだな。地縁も人脈もない、帝国のことすらよく知らないポッと出のあたしが行ったって治まるわけがない」
頷く封爵大臣。
主席執政官が何か言おうとするところに被せる。
「でもうまく統治できそうな人物に心当たりがあるよ」
「「えっ?」」
よーし、逆転だ。
ここからあたしのターン!
食いついてくる大臣。
「うまく統治できそうな人物とは?」
「一人はババドーン元男爵の娘のフィフィリア」
「フィフィリア嬢?」
「意外な意見だな? 散ったばかりの旧臣を集めやすいという利点はあるだろうが……」
「フィフィはドーラに渡ってるんだ。来たばかりの頃はどこの高飛車令嬢だって感じだったけど、すぐ馴染んでビックリするくらい現実的な感覚を見せてるよ。今は何と冒険者やってる。異常に適応力が高いわ」
「あ、あのフィフィリア嬢が冒険者?」
「とても考えられない……」
衝撃受けてますね?
逆境の時ほど本性が出るとするなら、フィフィの芯は相当強いってことだよ。
「もう一人はアーベントロート公爵家の次男ヘルムート君。こっちが本命ね」
「おお、一転して正統派ですな」
「地図見ると、公爵領はお隣なんでしょ? じゃ、問題なく治まるな。ヘルムート君は次男かもしれないけど、兄ちゃんのスペアで終わっちゃうのはもったいないくらいの器量はあるよ。実際に会ってみての感想だけど」
「「……」」
「二人の内、どっちが新男爵になってもあたしは協力するよ。帝国の民が潤うことはドーラの産物を買ってくれることとイコールだからね。ドーラを発展させたいあたしの思惑にも合致するんだ」
おそらくはあたしを男爵にして取り込む目的だったろうけど、そうは問屋が卸さん。
しかしフィフィにチャンスを与えることはエーレンベルク筆頭伯爵家に、ヘルムート君を起用することはアーベントロート公爵家に恩を売ることになる、と主席執政官は計算するだろう。
そしてヤマタノオロチ退治に大きな功績のあったあたしの推薦ならば、誰も文句は言わないんじゃないか。
「内々であたしが二人に当たってみようか?」
「お願いできるかな?」
「任せて。数日中に連絡するからね」
かかった。
あたしの思い通りだ。
「面白かったよ。今日は帰るね」
「こちらこそ。ユーラシア君への礼については改めて考えさせてもらう」
施政館を辞去する。




