第1172話:鼻歌
――――――――――二〇二日目。
「ふんふ~ん」
「おっ、ユーちゃん御機嫌だな」
今日は凄草株分けの日。
畑番の精霊カカシ及び大悪魔バアルと話しながらの作業だ。
「抱えてたお仕事を奇麗に終えられたからね。ついでに今日いい天気だから」
「吾が主は大体いつも機嫌がいいのである」
「常に機嫌がいいぞー」
一昨日のヤマタノオロチ出現みたいな、人生思いもしないようなトラブルに遭遇することはあるもんだ。
トラブルってゆーかイベントだな。
『アトラスの冒険者』になってレベルが上がって。
何かあっても対処できるだけの実力を手に入れた。
今後あたしの伝説ロードに何が待ち受けているかを考えると、鼻歌も出るとゆーもんだ。
「たまには不機嫌でもいいであるぞ」
「おっ、悪感情を摂取したい気分かな? でもあたしの機嫌を損ねると、あんたの存在がピンチになっちゃうんだぞ?」
「ひええええええええ!」
冗談だってばよ。
まあバアルも面白い子だ。
大した悪さもしないと誓わせたことだし、いずれ解放してやりたいもんだ。
「そーいや以前、ステータスアップ薬草の有効成分はアルコールに溶けるって教わったな」
「ユーちゃん何か思いついたのかい?」
「ステータスアップって、案外普通の人は興味ないみたいなんだよね」
恩恵がないわけじゃないが、冒険者や兵士ほどの必要性がないからだろう。
普通ステータスアップはレベルアップと同義だ。
レベルアップには魔物退治イコール危険が必須となれば、尻込みしちゃうんだろーな。
「でも虚弱体質の人にとっては特効薬になり得るんだ。かといってステータスアップ薬草なんか、普通は都合よく手に入るわけじゃないから」
「有効成分を抽出して保存しておく、であるか?」
「うん、どうだろ?」
難しい?
「……ムダになっちまう成分が多いだろ」
「同程度の効果を期待するにも、素の薬草の何倍か必要になるのではないか?」
「カカシやバアルの言う通りだなー。机上の空論か」
お金持ち向けの商売にはなるかもしれないけど、売り手の信用をどう確保するかも買い手をどう見つけるかも難しい。
そりゃあたしだったら条件はクリアできそうだよ?
でもあたしがやるなら、凄草の現物食べさせた方が話早いしな。
「よし、保留」
「えっ、いいのかい?」
意外そうだね。
「いいんだよ。どこかで使うかもしれないアイデアを考えること、抱えておくことも重要だからね。さて、朝御飯だ」
◇
「おっはよー!」
「おや、アンタかい。いらっしゃい」
カトマスのマルーさん家にやって来た。
「あっ、ユーラシアさん、いらっしゃい」
「お土産だよ。お肉と骨」
「ありがとうございます!」
ニルエが喜んで受け取ってくれた。
ハッハッハッ、肉は喜び、肉は愛。
マルーさんが聞いてくる。
「あの子はどうなった? 悪役令嬢の」
「気になる? 魔法の葉食べておげげげげってなったり、マッドオーロックス三頭に追いかけられたりしてたけど、無事塔の村に到着したよ。頑張った!」
「あんたの判断基準だと、どこまでが無事なんだい?」
「笑ってすませられるところまでかな。大分山ザル色に染めたった」
アハハと笑い合う。
「到着後は予定通り、塔のダンジョンで冒険者だよ」
「特に問題なくやれているのかい?」
「最初あたしがレクチャーしてレベル八まで上げたんだ」
「ほう。序盤の一番キツいところを手伝ってもらったなら楽だろうねい」
「最後に会ったのは六日前だったかな。やる気と金銭欲に満ちてたから大丈夫だと思う」
「ふん」
マルーさんは固有能力他のステータスを重要視してる。
個人を構成する重要な要素とゆー面でもっともなことなんだけど、実際にはやる気とか考え方みたいな精神的なこともすげえ重要だなあと思う。
とゆーかやる気のないやつはダメ。
カトマスの布団に愛されし者ヨブ君みたいの見ちゃうと、応援する気にすらなれない。
「今日アンタは何か用があったのかい?」
「特にないんだ。あとで帝国行くから、それまでの時間潰し?」
「時間潰しなのかい! ……まあいいけれども」
いいのかい。
お肉パワーは偉大だな。
全てが許されてしまう。
「気になってることもあるんだ。ニルエどうなってるかなーと思って。例の美人絵画集、そろそろカトマスでも普及してきてるでしょ?」
モデルの一人だったニルエは、あの中ではかなり清楚系に描かれていた。
つってもイシュトバーンさんの絵だからえっちだけどな。
注目を浴びてても全然おかしくない。
マルーさんとニルエが顔を見合わせているぞ?
「モテモテなんです」
「モテモテだねい」
「しまったなー。ヴィル連れてくればよかった」
確実に拾って『モテモテなんだぬ!』って言ったに違いない。
「通りを歩いていると、すごく声をかけられるようになったんです」
「うん、順当だな。遅過ぎたくらい」
「正式な申し込みも来てるんだよ。これ身上書」
「いいじゃんいいじゃん。二人とも何で複雑な顔してるのよ?」
「アンタならわかるだろう?」
「まあ」
要するに納得できるだけのいい話がないんだろう。
マルーさんだと固有能力目線になるに違いないから、なおさらハードルが上がっちゃう。
「贅沢だとはわかっているんですが……」
「大事な孫娘をそんじょそこらのやつにはやれないねい」
「うんうん。あったり前だね」
「アンタにお勧めはいないかい? ニルエにピッタリの」
……実はいなくもない。
「ニルエと最高に相性がいい人がいるよ。ただあたしのカンがその人とはうまくいかないって告げてるんだ。だから紹介しづらいんだけど」
「いいじゃないか」
え? いいとは?
「最初からダメってわかってるなら、気負い過ぎることもないねい」
「ええ。ユーラシアさんがピッタリって評価するのがどんな人か、会ってみたいです」
「練習のつもりでいいんじゃないかね?」
そーなの?
意外とノリが軽かったでござる。
「じゃ、話してみるよ」
「どんなやつだい?」
「ばっちゃんとは面識があるはずだよ。二〇歳くらいで『タフ』の固有能力持ち」
「二〇歳くらいで『タフ』? ……覚えがないねい」
『タフ』の固有能力が発現したのは比較的最近だからね。
「向こうからオーケーもらったら連れてくるよ。いいかな?」
「楽しみです!」
「じゃ、あたし帰るね」
転移の玉を起動し帰宅する。




