第1171話:カンのいいサイナスさん
「サイナスさん、こんばんはー」
『ああ、こんばんは』
夕食後に毎晩恒例のヴィル通信だ。
『今日は帝国へ行ってきたのかい?』
「うん。帝国は帝国なんだけど、ゼムリヤの辺境侯爵領ね。前から依頼請けてたんだ」
『依頼? 辺境侯爵にか?』
「そう。今年雪解けが遅くって、冬眠から覚めた山の魔物が麓の方まで降りてきちゃってるから、住民が困ってるんだって」
『ふうん? どうして君のところへ依頼がくるんだ? 冒険者はいないにしても、魔物退治の専用部隊はないのか?』
「……あれ? 考えてみると変だな?」
言われてみるとおかしい。
今日はヒゲピンのおっちゃんの資質を見極めるとゆー、イレギュラーな面は確かにあった。
だから念のためにあたしが呼ばれた、ここまではわかる。
でもヒゲピンが連れてきた三人は兵士だった。
魔物退治の専門家がいるなら当然プロを連れてきただろうしな?
「今日は精鋭だっていう兵士さん達が同行してたんだけど、どう見ても魔物退治に慣れた人達じゃなかったな。逆にメルヒオール辺境侯爵は、山慣れしてて結構なレベルなんだよ」
『ということは?』
「魔物を相手にするような案件は、メルヒオールさんがほぼ一人でやってたんじゃないかって気がする」
『ええ? その組織構造はダメだろう』
「気付いてみればあたしもダメだと思うわ」
兵が傷つくのを恐れて、メルヒオールさんが片付けちゃってるのかもな。
魔物が出るのあの山だけで、麓に被害が出なきゃいいってだけなら手は足りちゃうだろうし。
「民間人で魔物を倒せる人がいるのかもしれないけど」
『しかし民間だけじゃ手が足りないから、住民から退治要請が来るんじゃないか』
「ならどっちにしても魔物退治用の人員は必要だねえ」
帝国は一般人の武器所持が禁止なんだった。
『格闘』や魔法系の固有能力持ちかなんかで、武器なしでも魔物を倒せる民間人がいるのかもしれない。
でもこれは領主側が対応すべきだな。
『魔物を倒すことはレベルアップにもなるだろう? 軍を精強化することにも繋がるから、兵士による魔物退治を提案してみたらどうだ?』
「うーん、あたしもサイナスさんの意見には賛成だけど、今日多分うちのパーティーがいなかったら全滅だったんだよね」
『そんなに強い魔物がいるのか?』
「いや、雪崩が起きたんだ。知ってる? 斜面に積もった雪がごおおおおって崩れてくるの。結構な見物だった」
『怖いな。兵士では察知できそうにないのか』
「夏には夏の危険もあると思うよ? 日々フィールドをピクニックしてる冒険者と兵士とでは、注意力や観察力が違うんだよね」
『しかし君の感想は緊張感が足りないんだが』
いや、あたしは緊張感なんかなかったし。
「レベル二五くらいはありそうな兵士さん達だったけど、雪崩には勝てないな。もう一人メルヒオールさんの甥っていう素人が指揮官として同行しててさ。まあ放っといたら天然の深い落とし穴に落ちるわトレントにぶちのめされるわで、三回くらい少なくとも大ケガしてたと思う」
『どうして素人が指揮官に?』
「血筋から次期辺境侯爵有力候補なの。でも向いてないから、失敗しそうな仕事振って諦めさせるっていう意図だよ。これはメルヒオールさん本人が言ってたから本当」
『ははあ?』
「一方で今日判明したんだけど、メルヒオールさん愛情深い人でさ。甥御さんと抱き合って泣いてたわ」
『厳しいだけの人じゃないんだな』
「こっちがビックリしたわ。あたしに虐められたの精霊使いをけしかけてすまなかったの言いやがるし」
笑うな。
今日はかなり真面目に仕事してたとゆーのに。
『となると、ゼムリヤ領主の後継者は誰になるんだ?』
「ウルピウス殿下ってセンが濃厚かな」
『皇妃様の子なら中央とのパイプも太くなるということか』
「皇子が地方の大領の領主になるって難しいらしいんだけど、メルヒオールさんはどうにでもなるみたいなこと言ってた」
メルヒオールさんもウ殿下も、あたしがウ殿下の嫁になってゼムリヤ治めるのがベストって考えてるみたい。
でも結局弟妹系の親族の中か、あるいはゼムリヤの有力者からウ殿下の嫁を取るって格好になるんじゃないの?
その方が平和に治まるわ。
「で、『雪の精霊』から連なる一連のクエストは一応終了になりました」
『まだ何かあったのか?』
「言外に『やらかしたのか』って意味をひしひしと感じるけど、そーではないんだ。ユニコーンというウマがいまして」
『ユニコーン? かなりの希少種なんだろう?』
「どこにでもいるもんではないね」
レア素材として知られる『ユニコーンの角』を、パワーカードの職人に持ってきてと言われてたうんぬんかんぬん。
「ユニコーンは清純で高貴で可憐な美少女が大好きだから、あたしが行くと寄ってたかって角を貢いでくれちゃう」
『異議あり!』
「えっ? あたしが清純で高貴で可憐な美少女であることには、疑問の余地がないと思うけど」
『いつもの面白話を語る時の弾むような声のトーンがない。何か隠してるだろう?』
「鋭いなー。余計なところで族長の資質を発揮するんだから」
アハハと笑い合う。
「あたしやヴィルのところにはユニコーンが寄るんだけど、クララのとこには行かないんだよ。何故なのかユニコーンに聞いてみたら……」
『異種族コミュニケーションがナチュラルに挟まるなあ』
何となくわかるだけだってば。
レベルが一〇〇越えてから一層カンが働くような気はしてるけれども。
「あたしやヴィルはユニコーンに面白いやつと思われてるんだって」
『ナチュラルボーンエンターテイナー』
「本当だ。そう思えばユニコーンの無遠慮さも許せるなー」
『許せなかった場合、ユニコーンがどんな目に遭うか想像するとえぐい』
何をゆーか。
あたしは心が広いからえぐいことにはならないわ。
なるならサイナスさんの方が先だわ。
『どうしたんだろう、寒気がする』
案外カンがいいな。
「カゼでも引いたんじゃない? まだ夜は寒いからね。早く寝るといいよ」
『そうしようかな。ユーラシアの労わる言葉がちょっと引っかかるが』
マジでカンがいいな。
「じゃ、サイナスさん、おやすみなさい」
『ああ、おやすみ』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『了解だぬ!』
明日は皇宮でリリーの様子聞いてくるか。




