第1168話:茶番? 喜劇? 白昼夢?
「ただいまー」
山の麓まで戻ってきて、フワリと降り立つ。
メルヒオールさんが明らかにホッとした顔しとるがな。
可愛いあたしには何の問題もないとゆーのに。
「何の問題もないぬよ?」
「よしよし、ヴィルいい子!」
ぎゅっとしたろ。
今日は運搬によく働いてくれたからね。
「おう、無事に帰ってきたな。雪崩が起きたろう? 心配していたのだ」
「あたしがついてるから全然大丈夫だってば」
「ついてなかったら?」
「命がいくつあっても足りない」
アハハ、あれ、おっちゃんと兵士達が憮然としてる。
今のは事実ではあるけど笑いどころだぞ?
ヒゲピンのおっちゃんが、神妙な様子でメルヒオールさんを見ている。
勝手にシリアスシーンに移行されると居心地悪いな。
「……伯父上」
「ザムエルどうした。随分といい面構えになったな。得るものがあったか?」
「オレは伯父上の次の辺境侯爵が誰になろうと、支えることを誓う」
ハハッ、メルヒオールさんの目が真ん丸になってるぞ?
メルヒオールさんの意を酌んでちょっと教育したったわ。
ウルトラチャーミングビューティーの仕事のクオリティに瞠目しろ。
「……ザムエルよ。オレはお前のことを軽はずみなところがある者と思っていたのだ」
「ああ、自分でも自覚した」
「状況を把握できるようになったか。お前がそこまで悟るとはな」
「今日の魔物退治でわかった。どう考えてもオレは領主の器ではない」
「可哀そうに。相当手ひどく精霊使いに虐められたのだな」
「えっ?」
今何と?
空耳?
「いや、違うのだ。己の未熟さと伯父上の愛情を受けて、為すべきことを思い知ったのだ!」
「そーだそーだ! あたしのせいにすんな!」
「すまなかったな。俺が精霊使いをけしかけたばかりに」
空耳じゃないやん。
あたし悪者?
いや、あたしには主人公補正とゆーものがあるので、雪崩みたいな楽しいイベントが寄ってきたってことはあるかなーとは思ってる。
でも誓って虐めたなんてことはないわ。
「伯父上はオレの安全を考えてくれていたのだろう?」
「当たり前だ。お前の無事を考えないなんてことがあるものか!」
「伯父上!」
「ザムエル!」
涙を流しながら抱き合う二人。
何これ、茶番? 喜劇? 白昼夢?
つまりあたしのことを安全を確保する人員とは認識してたわけでしょ?
混乱するわ。
「どゆこと?」
どーゆーわけかもらい泣きしている兵士達が頷きながら言う。
「メルヒオール様はとても愛情深い方でございまして……」
「見ればわかるけど」
だってあのむさ苦しく抱き合ってるの素だもん。
「愛と慈悲でこのゼムリヤの地を統治していらっしゃるのです」
「ええ? 随分けったいな評価だな」
どこのネバーランドだ。
あたしの認識と違い過ぎてビックリするわ。
「じっちゃん、結構厳しいこと言ってたのになあ」
ザムエルでは務まらんということを、本人にとくと理解させねばならんって言ってたんだぞ?
ザムエルでは務まらんということを、本人にとくと理解させねばならんって。
大事なことだから何度も言っちゃうけど。
まーでもリリーもウルピウス殿下も、爺ちゃん大好きっ子みたいだったしな。
そこでメルヒオールさんの甘々な性格に気付くべきだったのか。
おかしなこともあるもんだ。
「伯父上、一つ聞きたいことがある」
「何でも聞くがよい」
「精霊使いユーラシアとは何なのだ?」
「どーしてあたし本人に聞かないの!」
とゆーか見りゃわかるだろうが。
超絶美少女精霊使いの天才冒険者だわ。
メルヒオールさんが笑って言う。
「とんでもないやつだ」
「おいこら。よく言われるけれども」
「重々理解したが」
「おいこら。簡単に理解されるほどあたしは単純にできてないわ」
どこ行ってもこんな認識だな。
ウルトラチャーミングビューティーは、もうちょっとデリケートに扱われることを所望するぞ?
「ユーラシアの名は、もう数日でカル帝国中で知らぬ者がなくなるのだ」
「そうなのか?」
「うむ、間違いない。楽しみに待っているといい」
これはあれか。
ヤマタノオロチを倒した情報がゼムリヤにも知られるってことか。
帝国の人達にとっては、デカい魔物倒すことが珍しいみたいだしな。
麓の住人であろう、大釜に張りついて火加減を見ていた男が言う。
「メルヒオール様、煮えました!」
「御飯だっ!」
◇
「ごちそーさまっ! おいしかった!」
いや、これは大袈裟でもない。
確かに痩せてる魔物ではあったけれども、そこんところは倒した数がカバーする。
骨が多い分、ダシがよく出てるわ。
旨みは強いので、スープにする分には全然問題ないなと思った。
焼き肉だと脂が乗ってなくて寂しいだろうけど。
村長らしき人が話しかけてくる。
「ユーラシア様、ありがとうございました。これで安全に暮らせそうです。肉も毛皮も提供していただき、万々歳です」
「こっちこそありがとう! あたしもいろんなおいしいお肉を食べたいんだけど、その地方の重要な食料になってると、狩るのが申し訳ないんだよね」
「さようでしたか。ここ聖モール山の魔物は住民にとって害悪でしかありませんので、どんどん倒していただいて構いませんぞ」
「やたっ! 肥え太ってうまそーになったらまた狩りに来るね」
許可もらったぞー。
でも狩り過ぎて食べられない魔物や厄介な魔物が増えちゃってもよろしくないな。
しょっちゅうは来られないけど、年に一度くらいは大掛かりな狩りをしてもよさそう。
「ユーラシア」
メルヒオールさんが話しかけてきた。
「何だろ?」
「今日の礼をしたいが、何か欲しいものはあるか?」
「ゼムリヤの情勢とか産物の話が聞きたいな。ドーラでも育ちそうな有用な植物があったら欲しい」
「つくづく政治家目線だな」
いや、笑うけど、ローカルな話って面白いんだよ。
おゼゼは必要な分を稼げるので、意識しないと得られないものが欲しい。
「数日で用意させよう」
「じゃ、また来るね。来る前にはヴィルで連絡入れる」
「うむ、了解だ」
「バイバイぬ!」
転移の玉を起動し帰宅する。
『クエストを完了しました。ボーナス経験値が付与されます』
やっぱこれでクエスト完了か。
つまりこのクエストって、メルヒオールさんが甘々で後継者を決めきれないから何とかしてくれということだったんだな?
着地点の読めないクエストって面白いなー。




