第1156話:とっとと婚約してください
「美少女精霊使い、再び参上!」
「御主人!」
「よーし、ヴィルいい子!」
ひゃい子を連れて行政府大使室に転移してきた。
飛びついてきたヴィルをぎゅっとしてやる。
ウルトラチャーミングいい子だね。
「お帰り」
「さあ、どれほど甘々な雰囲気になったか教えてもらおうじゃないか」
歯切れのよくないプリンスルキウス。
「いや……特別なことはなかったよ」
「そんなわけあるか! あたしのラブセンサーの感度をバカにすんな! 空気がメッチャ甘酸っぱいわ!」
プリンスこっち向きゃしねえ。
クリークさんマックスさんアドルフ、どう?
「実に微笑ましい。お似合いではないか?」
「俺ごときが評するのは恐れ多いが、殿下に相応しい令嬢だと思う」
「お二人を祝福したい。そして俺の名はロドルフだ」
オルムスさんは苦笑しているけど、パラキアスさんは意地の悪い視線を向けてきますね?
うんうん、この二人を結びつけたのがあたしということになれば、ドーラはより帝国に食い込める寸法ですよ。
もちろんプリンスがどれくらい偉い人になるかで、効果のほどは変わっちゃうわけだけど。
「帝国の皇族や貴族の婚約ってどういう手続きになるの?」
「いや、婚約はまだ早いというか……」
プリンスは何をしどろもどろしてんだ、まったく。
パウリーネさんが期待を込めた目で見とるがな。
「早いことあるか!」
「早いことはないぬよ?」
「パウリーネさんの年齢がいくつか知らんけど、リリーのとこにあんだけ縁談が殺到するとこみると、本来はとっくに婚約してなきゃいけないんでしょ?」
「はい」
ほら、パウリーネさん頷いとるがな。
帝国の貴族事情に沿わない理由なんかないだろーが。
とゆーかプリンスだって結構な年齢じゃないか。
「公爵様もせっついてるんじゃないの?」
「いえ、お父様は私の気持ちを尊重してくださるので、急かされることはありません。でも心配をかけていたのは間違いないと思います」
公爵ってどんな人なんだろうな?
ヘルムート君はなかなか大物感が出てるし、パウリーネさんも非凡な清潔感のある人だ。
常識で考えてその父ちゃんが凡人のわけはない。
会ってみたいもんだ。
「パウリーネさんはプリンスと婚約できたら嬉しいんでしょ?」
「もちろんです!」
「プリンスとの婚約に反対しそうな身内の人いる?」
「いないと思います」
パウリーネさん側には問題あらへんがな。
とゆーか公爵が反対してない時点でバッチ来いやないけ。
「プリンスの方は?」
「は?」
は? じゃねーよ。
今まで何聞いてたんだよ。
プリンスの決断次第だって言ってるんだよ。
「パウリーネさんの身分・容姿・性格・その他条件に気に入らないところがあるの?」
「き、気に入らないところなどない」
「プリンスだっていい年齢じゃん。今婚約しないことにポリシーがあんの?」
「もちろんないが」
「もー好きか嫌いかハッキリ聞かせて!」
「好きだ!」
「うあーキュンキュンするわー」
「キュンキュンするぬ!」
大笑い。
パラキアスさんが言う。
「ユーラシア、フィフィリア嬢はどうなのだ? 大使の元婚約者の。障害になるようなことはないか?」
「ないな。フィフィは自分の人生の道の上に、既にプリンスがいないことはよーく理解してる。今後の生活と冒険者活動の方にスパッと頭切り替えてるよ。プリンスも三日前に塔の村で会ってるから知ってるはずだけど」
潔いところはフィフィの長所の一つだな。
まるで未練が感じられなかった。
却ってプリンスの挙動の方が変だったわ。
パラキアスさんが断じる。
「大使殿下。差し出がましいようですが、論点が遅早だけならば、アーベントロート公爵家には話を早く通しておくべきと愚考いたします」
「……ああ、そうだね」
場の空気が引き締まる。
パラキアスさんは明言しなかったが、皇帝崩御の前にアーベントロート公爵家を味方につけておけとの具申に等しい。
次代の皇帝位を狙う者として当然の行動であり、遅くなるほど後手を踏む可能性は高くなるのだ。
んなことはプリンスだって理解してるんだろうけど、何を思い惑ってるのかな?
「もういっぺん聞くけど、帝国の皇族や貴族の婚約ってどういう手続きになるの?」
「両家の合意があれば、特別決まった手続きはないよ。強いて言えば陛下への報告と社交界での告知、教会への連絡かな」
「ふーん、今からパウリーネさん送っていくけど、プリンスも行く?」
「それはさすがに不躾だ。パウリーネ嬢、公爵殿は現在どこにおられるかな?」
「帝都におります」
「ではまず、手紙を書こう。お父上に渡していただけるかな?」
「はい、わかりました」
プリンスが一筆したためている間に、オルムスさんが聞いてくる。
「ところでさっきの、リリー皇女の縁談をぶっ壊せイベントとは何だい?」
「リリーのとこにも縁談一杯来ちゃってるんだよ。有力候補が三人いて、パウリーネさんの弟のヘルムート君もその内の一人なんだけど」
「リリー皇女が気に入らないということなのかい?」
「正確に言うと、現在の実力が物足りないってリリーは見てるんだよね。まーリリーも実力ある冒険者だから、人を見る目が肥えちゃうんじゃないかな」
頷く皆さん。
「精進して出直せ、這い上がってこいっていう。で、リリーの代わりにあたしが出場して公開対決、こてんぱんにしちゃう」
「面白いなあ」
「昨日今日の力比べと料理勝負で二勝。明日でお終いなの」
「明日は何の勝負なんだい?」
「チャンバラ対決だよ」
「結果が見えてる勝負はつまらないな」
「皆同じこと言うけど、あたしが内容決めたんじゃないからなー。なるべく盛り上げるようにするよ」
パラキアスさんが言う。
「有力者と面識ができるのか?」
「できるね。今日は帝都一の大店の店主と知り合った。明日の対戦相手はツムシュテーク伯爵家の子だよ。それからこてんぱんイベントとは別に、『アトラスの冒険者』のクエストでメルヒオール辺境侯爵と仲良くなった」
「ほう、大物だな」
悪い顔してるなー。
何を考えているのやら。
「……皇族とその周辺の事情については、ユーラシアに一任していいな?」
「うん、任せて」
プリンスが手紙を書き終わったらしい。
「じゃ、またねー」
「バイバイぬ!」
ひゃい子とパウリーネさんを連れ、転移の玉を起動し帰宅する。




