第1153話:顔見ればわかるって
「フーゴーさんとこに、スイーツに詳しい料理人がいたら貸してくれない? そのレシピ集には、まだわかんない手技が多いんだ。ドーラの料理人と協力して解読して欲しいの」
「よいのか? 貴重なレシピが流出するぞ?」
「いいよ。レシピ集もわかりやすくして出版するつもりなんだ。美味いものはどこでも食べられる方が幸せだよ」
「ふむう、これがドーラの考え方か。ぜひよろしくしてもらいたいが」
「じゃ、今度『ケーニッヒバウム』へ遊びに行くね」
「エクセレントざあます!」
よーし、また帝国の有力者と知り合えたぞー。
その上あの謎のレシピ集をある程度解読できる見込みが高まった。
イコールスイーツ天国が近付いたぞ!
「で、ピット君の方だけど」
「これでボクも脱落か……残念ですが」
「脱落じゃないから頑張れ」
「ど、どういうことですか?」
「いい男になって再チャレンジしてこいってことだよ」
「……?」
おわかりでないようだ。
一回ダメだったから脱落とゆー考えは捨てろ。
リリーはそんなに安くない。
「ピット君もリリーとの相性は決して悪くないんだ。リリーにない賢さや現実的な感覚も持ってるじゃん?」
「おいこらユーラシア。我が愚かで夢見がちみたいではないか!」
「賢くて現実的な人間はあんなヤバい方法でドーラに来たりしねー!」
魚人パトロール隊に気付かれないように、そーっと不探知加工した小舟で漕ぎ寄せる方法でリリーはドーラに上陸した。
潜入工作兵の面々だってビックリしてたからな?
ほら見ろ、黒服だって頷いてるだろうが。
ヘルムート君が言う。
「自分もユーラシア殿に励まされたのだ。経験を積めと」
「そうそう。今回三人は負ける役どころだから。這い上がって来た者が勝利者なのだ!」
「……わかりました。努力します」
「その意気なのだ!」
「はい!」
リリーに気合いを入れられて嬉しそうな顔になるピット君。
リリーも基本的に修行みたいなこと好きだからな。
メルヒオールさんもウルピウス殿下も納得のようです。
「ちょっと待ってくれないかな」
天才剣士ライナー君ではないですか。
いたのか。
ライナー君ってハンサムの割に目立たない気がするな。
どうしたの?
「私が明日敗退することが、既定路線になっている気がするんだが?」
「君が明日敗退することが、既定路線になっているんだ」
脳内で『既定路線になっているんだぬ!』の声が聞こえた気がした。
「私は負けるなんて毛頭考えてないんだ」
「何をどう考えるかはライナー君の自由だよ。でもまあ現実の勝負は実力で決まるから」
明日の『技』の勝負はチャンバラだぞ?
あたしに勝てると思ってる方がおかしい。
「もー観念して無様に負けちゃいなよ」
「応援してくれているファンの皆さんの手前できない」
「ファンがついてるのかよ。でも空気を読んでみっともなく負けちゃえば?」
「いくら君が可愛らしいお嬢さんでも負けるわけにはいかない」
「何だか負けてやりたくなってきたけれども、今回はヘルムート君とピット君の手前ダメだぞ? みじめに地べたに這いつくばってもらう」
「私に勝つのはムリだ」
いや、何でライナー君ったら自信満々なのよ?
あんたくらいのレベルがあれば、あたしの実力わかるだろーに。
「君はロクに剣を持ったことすらないんだろう?」
「うん、ない」
「何年も剣術に打ち込んできた私に勝てると考えるのは思い上がりだ!」
「単なる事実だぞ? ライナー君のお師匠さんだって、鼻っ柱折られて謙虚になれって顔してるじゃん」
「本当ですか、師匠!」
「隙あり!」
ぽかっとライナー君の頭を叩く。
「卑怯な!」
「だからこんなん卑怯って言ってるようじゃ、あたしには勝てないんだってば」
素直過ぎるわ。
ほら、お師匠はあんたの見てないところで頷いてるぞ?
あたしから見てもライナー君は確かに隙の少ない身のこなしだと思うけど、隙なんかなけりゃ作ればいいだけだしな。
剣術の技量勝負じゃなくてチャンバラ勝負の時点で、ライナー君に勝機がないのだ。
「明日決着つければすむことだよ。そーだ、あたし模擬剣持ってないんだ」
「運営で用意しますよ。形状や重さはどんなものがいいですか?」
「ごく普通ので。あたし剣使ったことないから、手加減できるかどうかわかんないんだよね。ライナー君に一本取られる前に噴水池に放り込んだら勝ちでいい? 昨日のヘルムート君みたいに」
「なっ……いいだろう!」
「じゃ、明日は楽しもう。握手」
憤懣やるかたない様子のライナー君。
まあ頭冷やしなよ。
「ところでヘルムート君、そちらの女性は?」
ヘルムート君と同じ黒髪の、楚々とした女の人を連れているのだ。
かなりの美人だが?
「姉だ」
「パウリーネと申します」
「我も親しくさせてもらっているのだぞ」
「ふーん、よろしく」
公爵令嬢ということか。
ただ今日のイベントを見に来たわけじゃなさそうだな。
しかしあたしを見る視線。
明らかにあたしに用があるらしい?
で、あの顔は恋する乙女の表情だから……。
「つかぬことを伺うけど、パウリーネさんはもう決まった男性がいるのかな?」
「えっ? いいえ、おりませんけど」
「じゃあプリンスルキウスとの間を取り持ってくれってことだね?」
「「「「「「「「えっ?」」」」」」」」
「じ、実はそうなんです」
「「「「「「「「えっ?」」」」」」」」
ライナー君が聞いてくる。
「どうしてわかるんだ?」
「顔見ればわかるって。ライナー君も女の子の顔は見慣れてるだろうに」
「その発言は誤解を生むだろうが!」
あたしの極めて高性能なラブセンサーにビビっときた。
公爵令嬢が恋愛関係であたしに用があるなんて、そんだけで相手数人しかいない。
相性考えりゃプリンスだって想像つくわ。
「これ、公爵様も了承している話なのかな?」
ヘルムート君が鷹揚に頷く。
「うむ、姉は昔からルキウス様を慕っていて、縁談も断り続けていたのだ。フィフィリア嬢との婚約が発表された際には失意のあまり倒れてしまい……」
「も、もう、ヘルムートったら」
パウリーネさん二〇歳くらいだろうし、縁談もたくさん来てたろうにな。
「よし、応援する。でも急がないと。プリンスルキウスのところには一ヶ月以内に一〇以上の縁談が来るってことなんだ」
「そ、そうなのですね?」
不安そうですね?




