第1151話:対決用の料理を持って
――――――――――一九九日目。
フイィィーンシュパパパッ。
「おっはよー」
「おはようございます。精霊使い殿」
今日は貴公子こてんぱんイベントの二日目、『知』のテーマでの対決だ。
頼んでいた料理をイシュトバーンさん家に取りに来た、が?
「何でいるのよ? まだ寝てないとダメだぞ」
何故か転送先にいるイシュトバーンさん。
昨日頭ぶつけたところだろーが。
安静にしてろ。
「ちょっと診てくれよ。一晩寝たら、ふらつかなくはなったんだ」
「……悪くない。けど正常な魔力の流れとは言えないな。この調子だと今日一日ゆっくり休めば、ほぼ正常だと思うよ」
「おう、そうか。明日で終わるんだろ? 飯食いに来いよ」
今日と明日でリリーの縁談クラッシュイベントも終わりだ。
話のネタもあるだろうし。
「じゃ、明日の夜来るね。今日の結果はあとでヴィルで知らせるよ」
「ん? 対決は午前中で終わるんだろ? 今日の午後は何かあるのか?」
「カラーズ内で各村が店出してる区域あるじゃん? あそこ今緩衝地帯って呼ばれてるんだけど、もうちょっとマシな名前をつけようってことになってさ。ひゃい子に頼もうかと思ってるの」
「ほお? あの名付け屋がどんな仕事を見せてくれるか楽しみだな」
確かに。
ひゃい子は見かけも言動もおかしい子だが、どんな華麗な名付けを披露してくれるだろうか?
「これ、料理な。数聞いてなかったから二〇個作っといたぜ」
「あ、そうだ。数言い忘れてた。ごめんね」
カバーがかかっていて中は見えない。
これはこれでよし。
「ありがとう。じゃ、行ってくる。イシュトバーンさんもお大事に」
「おう」
転移の玉を起動し一旦帰宅する。
◇
フイィィーンシュパパパッ。
皇宮に着いた。
「おっはよー」
「やあ、精霊使い君。おはよう。手に持ってるそれが、対決用の料理?」
「そうそう。見せちゃいけないルールだから見せないけど、自信作だよ」
イシュトバーンさんのところの料理人は腕がいいから。
「どうでもいいけど、あんたいつもここにいるねえ」
「その話題は今更じゃないか?」
笑う土魔法使い近衛兵。
今更か今更じゃないかってことじゃないわ。
どーしてサボリが見逃されてるのかってことだわ。
「いや、君がここへ転移できるということは、目印みたいなものがあるんだろう? 君以外の存在がいきなり侵入してこないとも限らないから、見張ってるのさ」
「おお? 言われてみればその通りだ。やるねえ」
『アトラスの冒険者』のビーコンの管理がどうなってるか知らんけど。
考えてみりゃ土魔法使い近衛兵の言うようなことはあり得るなあ。
「目印のことビーコンっていうんだ。確かにあたし以外の誰かが転送先にするケースもないとは言えないわ。でももしそーゆーことがあっても、『アトラスの冒険者』に関係してる人のはずだから、話せばわかるはずだよ」
「ああ、参考にするよ」
「他の侵入者があるかもしれないっていう理屈は自分で考えたの?」
「もちろんだ。サボるためには頭を働かせないといけない」
「やっぱサボるためだったかー」
笑いながら正門脇詰め所へ。
「おっはよー」
「来たかユーラシア」
ウルピウス殿下とリリーと黒服、それと既にメルヒオールさんが来ていた。
「どんな料理なのだ?」
「いや、あたしもお任せで作ってもらって、まだ見てないから知らないの。想像はできるけど」
「ふむ、楽しみであるの」
「ルールで見せられないからあとでね」
あ、来た。
「「「ユーラシアさん!」」」
「朝から仕事熱心だねえ」
新聞記者トリオでした。
大広場へしゅっぱーつ。
「昨日のイベントの評判どうだったかな? 新聞売れた?」
「「「売れました!」」」
「よかったねえ。あたしももっと新聞が売れるようになって欲しいからさ」
リリーの絡んだ注目度の高いイベントで、あたし自身の知名度を上げておきたいって思惑もあるけど。
首をかしげる記者トリオ。
「協力していただけるのは嬉しいですが、どうしてなのです?」
「新聞記事が面白くて読みたい人が増えれば、ドーラから輸出してる『文字を覚えるための札取りゲーム』が売れるじゃん」
「なるほど!」
「本も重要な輸出品として考えてるんだ」
「フィフィリア嬢の細腕繁盛記ですか?」
そんなタイトルではなかったけれども。
「フィフィのドーラ西域行体験記も売りたい本の一つだね」
「他にもあると?」
「『輝かしき勇者の冒険』って本があるじゃん?』
「大ベストセラーですね。字の読める子供のための定番です」
「ああ、『輝かしき勇者の冒険』のような児童文学を考えているということですか?」
子供をターゲットにした本を視野に入れてるのは事実だが。
「んーちょっとニュアンスが違うかな。あの本だと、ドラゴンがすげえ強くて悪い魔物に書かれてるんだよ。ドラゴンみたいな魔物がたくさん住んでるドーラはおっかない場所だと思われちゃう。ひっじょーに迷惑なので、あの本を駆逐したい」
「ええ? どうやってです?」
「『精霊使いユーラシアのサーガ』をヒットさせるんだ。面白い本が勝つ! 打倒『輝かしき勇者の冒険』のために、あたしは伝説を作っていかなきゃいけないんだよね」
ウ殿下とメルヒオールさんが大笑いしてやがるけど、あたしは大マジだぞ?
「ま、とりあえず識字率上げるところから始めないとね。お互い努力しようじゃないか」
「「「はい!」」」
帝国本土はドーラよりも識字率が低いらしい。
人口の多い帝国の識字率が上がれば、あたしも仕掛けようがある。
「ところで今日、審査員って誰が務めるのかな? 記者さん達聞いてない?」
「いえ、何も。運営から聞き出そうとしても、何も教えてくれませんね」
「ひょっとするとまだ決まっていないのかもしれません」
観客から無作為に選ぶとかか。
盛り上がるかもな。
しかし必ずしも運営が中立とは限らないんだよなー。
審査員と接触するのは禁止でも、運営と接触するのは禁止じゃないってロジックがないではないし。
「波乱要素だねえ」
「む、そうか?」
「リリーはお気楽だなー」
自分に関わってることなんだから、もうちょい真剣に考えりゃいいのに。
まーでも疑り深いリリーなんて似合ってないわ。
何はともあれ、大広場に無事到着。
……あたしを突き飛ばして料理を台無しにする、なんて気配はなかったな。




