第1150話:明日は地味な勝負?
「サイナスさん、こんばんはー」
『ああ、こんばんは』
夕食後に毎晩恒例のヴィル通信だ。
イシュトバーンさん家から帰宅後、今日もまた魔境ピクニックに行ってきた。
ちょこちょこ魔境に行っているので、かなり素材も溜まってきている。
でもアルアさんとこへ行くなら、『ユニコーンの角』の入手に目処をつけてからにしたいしな?
せっかく行くんだったらいい知らせとともにとゆーサービス精神。
「空き時間あるにはあるんだけど、まとまった時間が取れないなー」
『忙し過ぎる女アピール?』
「いや、そんなんをウリにしたいわけじゃないけれども」
忙し過ぎるわけでもないけれども。
大体『ユニコーンの角』の入手にどれくらい時間かかるかわからん。
ユニコーンに会えればすぐ角くれると思うけど、生息数を知らんもんな?
探索はあとでいいから一度ウサギの獣人ゲレゲレさんに会って、ユニコーンの住んでる平原の位置だけでもヴィルに覚えといてもらうべきか。
だったらいつでもユニコーンに会いにいけそう。
『名付け屋を連れてくる件はどうなってるかな?』
「あったなー」
名付け屋ひゃい子にカラーズ緩衝地帯の名前をつけてもらう件だ。
ちょっと頭から抜けてたわ。
貴公子こてんぱんイベントは今日の流れからすると、明日も普通にお昼にはお弁当食べて終わりそう。
となれば午後は空くな。
剣術勝負の明後日は準備が必要ないから……。
「明日の午後、行けると思う」
『そうか。待ってるぞ』
ひゃい子はドーラに来ることを喜んでくれるかな?
「で、本日のメインイベントだけど」
『ああ、か弱い乙女に荷が重いテーマだったか?』
「そうそう、『力』のテーマね。サイナスさんわかってる」
アハハと笑い合う。
まーレベル一〇〇越えのあたしにパワーで勝る者など、この世にほとんどいないわけだが。
『どんな決着だった?』
「えいやと担ぎ上げてぽいっと放り投げてドボンと着水」
『想像の範囲を超えないなあ』
「想像力が肥えてるなあ」
『何だそれ?』
サイナスさんが笑う。
更なるエンターテインメントが求められちゃってるということだよ。
帝国の人はまずまず満足してたのになあ。
どーもあたしの周りにいる人は、エンタメに対する評点が辛い。
『相手に恥をかかせるような勝ち方はよくないんじゃないのかい?』
「全員に平等に恥かかせて、だから君達は未熟なんだでも皆敗退だからノーカンだぞ次頑張れってオチにする」
『ハハッ、相変わらず剛腕だな。次があるのかい?』
どーだろ?
「今日リリーの旦那さん候補三人と顔を合わせたんだ。皆リリーとの相性いいんだよね。家柄だって財産だって不足がないから推されてるんだろうし」
『ユーラシアから見てもいい話ってことか。相性よかったらくっつけるみたいなこと言ってなかったか?」
「うーん、でもリリーの不満もわかるから」
要するに三人ともボンボンなのだ。
冒険者として毎日の疲れを癒すために昼まで寝ているリリーにしてみれば、三人とも甘っちょろいと言いたくなるだろう。
リリーももう少し早く起きろ。
「特に今日の対戦相手、公爵家のヘルムート君なんか相性バッチリなんだけどなー」
『修行が足りんと』
「尻が青いのだ。ドーラの山ザル色に染まれ」
アハハと笑い合う。
『まあ君の方針はわかった。明日はどうなんだ? 『知』の勝負なんだろう?』
「何故だか料理勝負になった」
『は?』
わかる。
かなり意外な展開だもんなあ。
「知識がなければおいしいものなんか探せない、いい料理人を知っていることも重要っていう勝負なんだ」
『その場で作るわけじゃないんだな?』
「料理の技能対決ではないからね。用意して持ってくの」
『これユーラシアの発想じゃないだろう?』
「わかっちゃう?」
『絵面が地味になっちゃうからな』
「でも『知』の勝負はどうやったって地味になるような。困ったな」
困りはしないか。
でもどうやって盛り上げよう?
『料理勝負みたいな変わった提案をしてきたのはどんな人だい?』
「一言で言うとアレクみたいな賢い子だよ。将来は多分悪いやつになる」
『ハハハ。しかしピンチだな』
「何でだ。あたしは窮地などに陥らないのだ」
『年下なんだろう? 君年下に甘いじゃないか』
「あ、そーゆー観点か」
あたしみたいな美人のお姉ちゃんは弟キャラに甘いかもな?
「甘やかすばかりが愛じゃないから、ビシビシいくよ」
『といっても、料理を頼んだらすることないだろう?』
「サイナスさんのゆーとーり。イシュトバーンさんに頼んできたから、準備は終いなんだよね。こういう他力本願な勝負はあたし向きじゃないなーとは思う」
『うまく乗せられたんじゃないか?』
「なかなかやる子だったよ。どっちが出したかすぐわかっちゃう料理はなしねって提案されたから、魔物肉料理を出す手は潰されちゃったな」
『おい、大丈夫なのか?』
「代わりに一品料理で対戦、おかわりしたくなる方勝ちってことにしてもらったから」
『ん? それはどういう具合にユーラシアに有利になるのかよくわからない』
「帝国風フルコースで満足するまで食べさせるっていう戦いにはさせないってことだよ」
洗練された料理を複数並べて構成の妙を魅せる、なんてのだと白旗なのだ。
ドーラに馴染みのある食文化じゃないから。
帝国人審査員を前にして勝てるわけがない。
一発インパクト勝負でこそ勝機がある。
『ちなみにもう一人の対戦相手は? 明後日の。天才剣士だったか?』
「貴公子らしい貴公子だよ。爽やかな銀髪のイケメン。貴族の令嬢にはモテモテなんじゃないの? でもあんなスカしたやつにリリーはやらん」
『何の勝負だ?』
「模擬剣でチャンバラだよ」
『じゃあ問題ないな』
「ないねえ」
サイナスさんは本質を理解している。
ライナー君だって天才剣士と呼ばれるくらいだ。
結構剣は使えるんだろうけど、まあそれだけだから。
今日実際に会ってみて見切った。
ただしボクデンさんとかいう師匠はすごい。
あたしとはレベルで倍くらい差があるはずなのに、勝てる気しないっておかしいだろ。
どんな修行したらあんな人間になれるのやら。
「眠くなっちゃったよ。明日に備えて寝る」
『備えなくても寝るんだろうけど』
『ああ、おやすみ』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『了解だぬ!』
明日も帝都。




