第1148話:ロックオンされたぞ?
「ヘルムート君はいいやつだった。今後が楽しみ」
「うむ、俺もそう思う」
皇宮へ帰った後、お弁当をいただきながらの雑談だ。
メルヒオールさんも御機嫌のようだ。
上々のエンタメだったでしょ?
ウルピウス殿下が言う。
「明日の対戦相手、『ケーニッヒバウム』の跡取りピットのことはどう思う?」
「『ケーニッヒバウム』ってデカい店なんでしょ? ぜひ仲良くしとかなくちゃならないね」
「そうでなくて」
「結構ズルい子だね。でももっとズルくないとリリーには相応しくないかな」
ウ殿下とリリーがわかったようなわからんような表情になる。
考えが顔に出ていいか悪いかはキャラによるのだ。
商人は顔に出しちゃダメだろってこと。
メルヒオールさんが面白そうに言う。
「ライナー君は?」
「爽やかな美男子だよね。でもお師匠さんの印象が強くてよく見てなかった」
「ハハッ、彼は帝国が誇る達人の一人ボクデン殿だ。気配を殺しておられたがな」
そーなん?
でも目の前に強者いたらわかるよ。
とゆーかあんな人からは目を離せないわ。
リリーが聞いてくる。
「明日はどうするのだ?」
「いや、単純な勝負になるよ。向こうの手の内が見えないから、こっちの最強の手札をぶつけるしかない」
「魔物肉料理を出す手は消されたろう?」
「気付いた? 使えないわけじゃないけど、ハッキリ魔物肉って理解できちゃうような出し方はできないね」
焼くにしても煮るにしても、お肉は熱くないと魅力が半減する。
審査員に調理後すぐ提供することができない明日の勝負には向いてないな。
となれば……。
「難しいではないか」
「ちょっと難しい。ごめん。お土産にワイバーンの卵一個持ってきてたんだけど、明日用に使わなきゃいけなくなっちゃった。また今度ね」
「むう、仕方ないの」
すげー残念そうだな。
しかしワイバーンの卵を使えば料理のクオリティを上げられることはわかっているのだろう。
それ以上リリーも何も言ってこない。
「じっちゃんにお土産があるよ。これ」
「何だ? カード?」
「パワーカードっていう、所持者の魔力で起動するドーラ名物の装備品だよ。これは飛行魔法内蔵で飛べるようになるやつ」
「あっ、爺様。これはすごいのだ!」
「使い方はリリーとウ殿下に教えてもらってよ」
メルヒオールさんのレベルはおそらく四〇を超えている。
余裕で『遊歩』は使えるだろ。
可愛い孫と触れ合えると嬉しいだろうから、じゃれててください。
おお? 危ないなー。
屋根にぶつかりそうになったぞ?
でも問題ないな、フワッと着地するメルヒオールさん。
「これは素晴らしいな!」
「レベル二〇くらいはないと使えないけどね。レベル高い人は皆欲しがるの」
「マジックポイントを実質消費しないというのもいいところなのだ」
「じっちゃんなら使いであると思うよ」
喜んでもらえて何より。
「ごちそーさま。じゃ、じっちゃん。送ろうか」
「いや、帝都に滞在することにした。明後日騎士ライナーとの対戦のあと、ゼムリヤに送ってくれるか?」
「うん、わかった」
なら間違いなく皇妃様と会える機会があるだろ。
帝都の辺境侯爵の屋敷はどこなんだろうな?
「三日後の魔物退治の件だが」
「やっぱ三日後になったんだ?」
ウ殿下が面白そうに言う。
「爺上の依頼を請けたのか? ゼムリヤの魔物退治だな?」
「うん。今年雪が残っちゃってるから、冬眠から目覚めてお腹をすかせてる魔物が人の住んでる近くまで出没するらしいんだよね。それを少し狩るっていう」
「魔物退治は得意分野だろう?」
「うーん、まあ得意っちゃ得意なんだけど」
「雪が積もっていると困難なのか? 表情が曇っておるではないか」
「栄養状態のよろしくない魔物っておいしくないんだよね。腹ペコじゃない時に狩りたかったなっていう」
「理由がユーラシアらしいのだ」
アハハと笑い合う。
もっとも草食魔獣に畑荒らされたらかなわんってのはよくわかる。
お仕事は真面目にやります。
ん? メルヒオールさん何?
「ユーラシアに一つ頼みがあるのだ」
「何だろ?」
「甥のザムエルを同行させてくれ」
「べつに構わないけど」
甥達は凡人って話だった。
魔物狩りの心得はある人なのかな?
ウ殿下が言う。
「ザムエル叔父上が? 足手まといではないか?」
「どんな人?」
「母上の従兄弟では最も年長者だな。常識人ではあるが調子に乗りやすい」
「ははあ?」
とゆーことは、目に見える失敗をさせて辺境侯爵の器じゃないって知らしめろということかな?
マジでウ殿下を跡継ぎに考えてるのか?
「昨日、ユーラシアに問うたのだ。次期辺境侯爵に誰がいいかとな。即答でウルピウスの名が出てきた」
「!」
結構大事なことだろうに、何でもなさそうに言っちゃうのな?
跡継ぎに難があるなんてのは、周知の事実なんだろうけど。
「根回しをしておこうと思うのだ。ザムエルでは務まらんということを、本人にとくと理解させねばならん」
やはり失格の烙印を押す意図か。
そのザムエルって人がダメなら、他の甥っ子でもムリってことみたいだ。
「ウルピウスは辺境侯爵を継ぐ気はあるか?」
「もちろんです、爺上!」
「臣籍降下して大貴族の跡を継ぐってのは、制度上簡単なんだ? ドーラ人にはよくわからん部分なんだけど」
オニオンさんは難しいんじゃないかって考えてたみたいだが。
「無論簡単ではないが、ゼムリヤは重要な地だ。皇帝家の血の濃い者が領主となるのは、カル帝国の利益になりこそすれ不利益にはならない。反対はしにくいであろう」
「なるほど?」
つまりどうにでもゴリ押せると理解した。
「ユーラシアが予の伴侶としてゼムリヤに来てくれるということだな?」
「えっ?」
「何? 俺の知らんところでそんな話が進んでいたのか? ということならばゼムリヤの、ひいては帝国の未来も万々歳だ。めでたい!」
「えっ?」
あたしの知ってるところで知らない方向へどんどん話が進んでいくのだが。
リリーが呆れた顔で言う。
「ユーラシアが困っておるではないか」
「嫌なのか?」
「殿下やゼムリヤが嫌ってことじゃないけど、あたしはドーラをいい国にしたいんだよね」
「ウルピウスよ。先のことはどうにでもなるぞ」
「そうですね」
ロックオンされたぞ?
「じゃ、あたし帰る。明日も九時に来るよ」
転移の玉を起動し帰宅する。




