第1145話:サプライズ再会
――――――――――一九八日目。
フイィィーンシュパパパッ。
朝から皇宮にやって来た。
今日は貴公子なで斬りイベントの初日だ。
「おっはよー」
「やあ、精霊使い君。おはよう。そちらの方は?」
「ゼムリヤのメルヒオール辺境侯爵だよ」
「えっ? あっ、これはとんだ失礼を!」
「いや、よいのだ。招かれもせず来た俺が悪い。近衛兵の職務を全うしてくれ」
「はっ!」
土魔法使い近衛兵が硬直しとる。
メルヒオールさんの顔は知らなかったらしい。
美少女を前にして緊張するなら可愛げもあるのになあ。
またメルヒオールさんも大貴族らしくない、ふつーの村人みたいな格好してるから。
「御案内いたします!」
「皇宮の近衛兵ともなると優秀だな」
「そお? いっつもさっきの転送先のところでサボってるんだよ」
「君は黙っててくれ。せっかく点数を稼ぐチャンスなんだ」
笑いながら正門脇詰め所へ
「おっはよー」
「来たかユーラシア! 早速……爺様?」
「えっ、爺上?」
「二年ぶりだな。ウルピウス、リリー」
唖然としているウルピウス殿下とリリー。
ハハッ、サプライズイベントだ。
あたしはこーゆーの大好き。
「『アトラスの冒険者』のクエスト先で知り合ったんだ。今日の催しであたしの雄姿を見たいようだったから連れてきた」
「爺様!」
リリーが飛びついてぎゅーしてる。
リリーって爺ちゃん子だったんだ?
言われりゃ意外でもないような。
「ウルピウスも見違えるほど立派になったな」
「爺上こそ御壮健で」
ウ殿下もある程度はレベル上がってる。
知らなきゃ驚くだろう。
「フロリアヌスは騎士団の勤務だな?」
「はい」
「カレンは息災か?」
「母様は元気なのだ。今は父様の寝所にいると思う。呼んでこようか?」
「いや、いい。自らの務めを果たすべきだ」
「明日も明後日もじっちゃん連れてくるから、その旨皇妃様に伝えといてよ」
「うむ、そうだな!」
よしよし、これで皇妃様ともどこかで顔合わせることになるだろ。
帝都とゼムリヤの距離は遠い。
会える時に会っといた方がいいよ。
「ところで今日のメインベントに何か変更あった?」
「ない。この後一〇時から『力』をテーマとした対戦だ」
どんな人が相手か知らんけど、ふつーに考えてレベル一〇〇超えのあたしが貴族の子弟なんかにパワー勝負で負けるわけない。
万が一勝てなさそーなのが現れた場合には、勝負の内容を考えりゃいい。
今から勝ち名乗りの練習しとけばバッチリだな。
メルヒオールさんが聞く。
「ふむ、相手は誰だ?」
「フリードリヒ・アーベントロート公爵が次男、ヘルムートです」
「ほう。息子は知らんが、フリードリヒ殿は堂々たる偉丈夫だ」
「ヘルムート殿も大きいぞ。ユーラシアの倍はある」
「そーなんだ?」
とゆーか今のリリーの口調からすると、ヘルムート君を嫌ってるわけじゃないじゃん。
むしろ……。
「ふーん、難しいな?」
「さすがに倍も体格が違うと、精霊使いといえども難しいのか?」
「そんなんじゃないやい」
勝ち方に工夫がいるのかってことなんだが。
ま、ヘルムート君の人品骨柄とリリーとの相性を見てから判断すりゃいいか。
「そろそろ会場に行こうではないか」
「腕が鳴るなー」
門を出たところで声をかけられる。
「「「おはようございます!」」」
「何だ?」
「新聞記者さん達だよ」
「ユーラシアさん、そちらの方は?」
「メルヒオール辺境侯爵だよ」
「「「ええっ?」」」
ハハッ、ビックリしてやがる。
あんまり帝都に来ないってことだったから、新聞記者でも顔を知らないんだな。
話しながら中央広場へ。
「じっちゃんとは『アトラスの冒険者』のクエストで知り合ったの。今日のイベントを楽しみたいってことだったから連れてきたんだ」
「転移はすごいですねえ」
「よろしくお願いします!」
ゼムリヤの話題はどーだろ?
帝都の新聞購読者はあんまり興味ないかもなー。
興味深そうにするメルヒオールさん。
「帝都の新聞記者とは、こんなに馴れ馴れしいものだったか?」
「最近、ユーラシアさんによくしていただいているんです」
「ええ。おかげで記事の質が上がったと評判で、新聞もよく売れるようになったんです」
「いいことだねえ」
「ユーラシアが飼い馴らしているのだ」
「ウィンウィンだぞ?」
仲良くしとけば新聞を使った仕掛けが利く。
新聞は部数が伸びるほど影響力があるのだ。
新聞記者トリオに協力するのはあたしの利益。
新聞記者の一人が思いついたように言う。
「ドーラからの輸入品で、『文字を覚えるための札取りゲーム』というものが入るようになりましたが」
「うちの村の子達が考案したものなんだ。識字率上げないと話になんないなと思って」
「識字率を上げられるのか? どんなものだ?」
メルヒオールさん興味津々ですね?
ナップザックから一つ取り出して渡す。
「こーゆーの」
「……なるほど。絵で読みを、読みから文字をという発想か。活字も美しいではないか」
「じっちゃんにあげるよ。販促で持ち歩いてるやつなんだ。今目一杯生産して輸出に回してるから、ゼムリヤでも遠くない将来に普及すると思う」
「ユーラシアさんが関わってる商品だったんですか」
「原案はあたしだね」
新聞記者トリオにも言っとくか。
「識字率が上がると確実に新聞購買層の母数が増えるよ。ジワジワ新聞も売れるようになるから、宣伝に協力してよ」
「もちろんです。あの、話題のドーラからの輸入画集『女達』は? 表紙ユーラシアさんですよね?」
「本って高いじゃん? 安く出せないかっていう試みなんだ。安くて質のいい紙、印刷技法、販売ルートを一度確立しとくと、いつでも応用できるからね。ちなみに絵師はこの前紹介したイシュトバーンさんだよ」
「あれもユーラシアさんの仕込みで?」
「モデルはユーラシアの伝手で集めたのであろ? 我のところにも依頼に来たのだ」
「そりゃ初めから帝国に輸出するつもりだったから。リリーの知名度利用するしかないじゃん」
記者トリオが残念そうに言う。
「出回っている部数が少ない割に人気でして、我々もまだ入手することができないんです」
「早く言いなよ。一部ずつあげるから」
「「「ありがとうございます!」」」
「表紙絵はまんま新聞に載っけていいけど、中の絵は買った人のお楽しみだからダメだぞ? オーケー?」




