第1143話:魔境依存症
フイィィーンシュパパパッ。
ゼムリヤで昼御飯を御馳走になってから、塔の村にやって来た。
当然と言えば当然だが、やはり『雪の精霊』クエストは完了にならない。
辺境侯爵メルヒオールさんが用意してくれる、魔物退治の依頼はどんなものか楽しみだなー。
路地を通ってコルム兄のパワーカード屋へ。
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「やあ、ユーラシアとヴィルちゃんか。いらっしゃい」
「弟子のタッカー君は? 本業? 副業?」
「モズ君と塔に潜っているよ」
「本業の方かー」
「違う! パワーカード職人の方が本業だからな?」
アハハと笑い合う。
冗談だとゆーのに。
「えー、本日はお日柄もよく……」
「今日はどうしたんだい? 頭を打ったわけじゃないんだろう?」
「何でちょっと挨拶しただけで頭を打ったことになっちゃうんだよ。訴えるぞ?」
「どこに?」
「暴力に」
ハハッ、ちょっとビクついてるじゃないか。
だから冗談だとゆーのに。
「『遊歩』のカードを買いに来たんだよ」
「……」
ギルドだとカード届くまでに二日くらいかかっちゃうからね。
あれ、微妙な顔ですね?
「……誰の分だ?」
「え?」
何ぞ?
今まで誰の分なんて聞かれたことなかったぞ?
「村長に注意されてるんだ。『遊歩』のパワーカードは使い方によって危険だから、所持者をなるべく把握しとけと」
「変な心配だな。使い方によって危険なのはどのカードも同じじゃん。メルヒオール・リリエンクローン辺境侯爵へのお土産にしようと思ったんだ。カル帝国皇妃殿下の父ちゃん」
「オレが悪かった」
「ドーラの何倍も人口のあるゼムリヤってとこの領主で、帝国一の大貴族らしいぞ? 位が上の公爵よりも実力者だって」
「オレが悪かった」
「えらい大物を疑ったなあ。国際問題になっちゃうぞ? 不敬罪で逮捕かも」
「オレが悪かった。勘弁してくれ」
「勘弁する」
あれ、あたしが勘弁する立場なのかな?
メルヒオールさんのとこ行く?
「デス爺の心配もわかるけどさ。結局道具って誰がどう使うかじゃない? 『遊歩』のパワーカードが武器や攻撃魔法より危険だとは思えんし、『遊歩』の所持者だけチェックしたって意味なくない?」
「ユーラシアの言う通りかもな。では『遊歩』一枚だね」
「二枚ちょうだい」
一枚ストックしとこ。
レベルの高い有力者へのお土産に使えるから。
四〇〇〇ゴールドを支払う。
「アルア師匠の方はどうだい?」
「特に問題ないよ。あ、思い出した。ゼンさんに『ユニコーンの角』持ってきてくれって言われてたんだった」
急に忙しくなっちゃったから、手がつけられない。
貴公子こてんぱんイベントと、ゼムリヤ魔物退治が終わったあとだな。
「『ユニコーンの角』か。塔ではおそらく出ない素材だから、オレも欲しいが……」
「そう? じゃ、いくつか取れたらあげるよ」
「ユニコーンだろう? 生息場所はわかるのか?」
「正確には知らないんだけど、当てはあるんだ。『アトラスの冒険者』の先輩にユニコーン関係のクエストがあったから」
ウサギの獣人ゲレゲレさんのクエストだ。
懐かしいなあ。
「そりゃあユーラシアほどのレベルがあれば、『遊歩』で追いかけて狩れるのかもしれないが」
難しそうな顔をするコルム兄。
「ユニコーンは魔物じゃないぞ? 美しくて貴重で友好的な動物だ。狩るのは可哀そうだと思わないか?」
「嫌だなあ、コルム兄。ユニコーンにはある性質があるんだよ」
「ある性質、とは?」
「美少女が大好きなの。あたしが行くと、頭を垂れて角くれちゃう」
「ええ? マジかよ?」
半信半疑みたいだけどマジだぞ?
どこかでニンジンを大量に仕入れなきゃいけないな。
「ユーラシアじゃないか!」
「あっ、エル!」
ゴーグルをかけた精霊使いエルのパーティーだ。
「あれ? このくらいの時間ってダンジョンじゃなかったっけ? 今から?」
エルは早お昼を食べて潜るのがパターンだったはず。
「いや、戻ってきたところ。地下はかなりハードだから、マジックポイントが心許なくなってきたら帰還することにしているんだ」
「ふむふむ」
おそらく出現する魔物は魔境くらいなんだろうけど、魔境トレーニングエリアと違って回復魔法陣がない。
マジックポイントが心許なくなると帰還するルーティーンになるのか。
魔境トレーニングエリアは恵まれてるな。
「自動回復が重要かと、相談しに来たんだ」
「そうだねえ。あたしこういうカード使ってる」
『風林火山』を見せる。
「見たことないカードだな。攻撃力+二〇%、MP再生三%か。いいね、これ」
「あたしも前衛用のマジックポイント自動回復ありのが欲しくて、特注で作ってもらったんだ。今向こうではレギュラー化して普通に手に入れられるんだけど、コルム兄は知らないカードのはず」
「うん、理解したから、必要なら作るよ」
選択肢の多いのはいいことだ。
「あれ? コルム兄のパワーカード屋で売ってるカードって、コモン素材だけで作れるやつと、塔で回収してきたやつだけ?」
「そうだな」
「レア素材の必要なやつは?」
コルム兄が諦めたように言う。
「レア素材は高価だ。道具屋で売買されるとこっちまで回ってこないからな」
「エル、レア素材を直接こっちに持ってくれば、すごいカードを作ってもらえる可能性があるよ。おゼゼにはなんないみたいだけど」
「そうなのかい? ちょうど先ほど手に入れた『バロールアイ』というのを持っているんだが」
「『バロールアイ』持参なら、手間賃五〇〇ゴールドのみで『あやかし鏡』を製作できるよ」
「やったぜ! すごく強いカードだ!」
「どんなやつだい?」
「装備した人の行動回数が一回追加されるの」
「「「「行動回数が追加?」」」」
驚くエルのパーティー。
「すごい! メンバーが一人増えるようなものじゃないか」
「誰が装備しても強力でござるな」
「わんだふるぴょ~ん!」
「『あやかし鏡』にパラメーター上昇効果はないし、自動回復が倍になるわけじゃないんでクセはあるよ。物理アタッカー向きだと思う。うちではあたしが装備してるんだ」
喜んでるぞ。
よかったよかった。
「じゃ、あたし帰るね」
「もうかい?」
「あたしも時間ある時は魔境行きたいんだよ。ちょっとは働いてないと手が震えてくる」
「どんな依存症だ」
アハハと笑い合い、転移の玉を起動し帰宅する。




