第1140話:ウマに言い聞かせる
――――――――――一九七日目。
フイィィーンシュパパパッ。
ゼムリヤの山へやって来た。
「ああ、ちょっと雪解けてきたじゃん」
まだ山の上の方は見た目変化がないが、麓を眺めやるとところどころ地肌が見えてるところもある。
ゼムリヤはドーラに比べりゃうんと寒い地だ。
でも確かな春の訪れを感じる。
コユキを助けた時は全然そんな気配を感じなかったのに、一気に季節が動いた感じだ。
「ユー様、どうします? 歩いて行きますか?」
「いやー、足元滑りそーじゃん? 足ぐしょぐしょに濡れちゃうから飛んでこう」
『遊歩』でびゅーんと山小屋へ飛び、フワッと着地する。
赤プレートに呼びかける。
「ヴィルカモン!」
「ワッツ?」
「この小屋ってヴィルは入れるのかなーと思って」
「さあ、どうでやしょう?」
この小屋は精霊と『精霊の友』しか入れないとのことだった。
悪魔はどうなんだろと、ちょっと疑問に思ったのだ。
魔除けの札や結界の類だと入れない気もするけど、ヴィルは精霊と喋れるしな?
「御主人の召喚に応じヴィル参上ぬ!」
「よーし、ヴィルいい子!」
ぎゅっとしてやる。
「この小屋変な結界か魔除けがしてあるんだよ。ヴィルはどう? 平気?」
「……本当だぬ。おかしな感じがするぬ。でも不快ではないぬよ?」
「じゃあ大丈夫だな。一緒に入ろうか」
「はいだぬ!」
「こんにちはー」
どうやらこの山小屋に仕掛けられているのは、精霊と喋れない存在を弾くってギミックみたいだな。
扉を開け、小屋の中へ。
老人が一人、今日はコユキはいない。
「来たか、精霊使いユーラシア。ん? その子は? 高位魔族か?」
「うちの悪魔のヴィルだよ」
「こんにちはぬ!」
「偵察と連絡、最近では転移の補助をしてくれてるんだ。好感情好きのいい子だよ」
「いい子ぬよ?」
老人が笑う。
「精霊使いは悪魔使いでもあるのか。ハハッ、可愛いではないか」
「可愛いぬよ?」
ヴィルもニコニコしてる。
受け入れてもらえたようだ。
……この不思議な老人は、あたしのことを知っていてもヴィルは知らなかった。
つまりあたしを調べさせているわけではない。
ヴィルが好感情を浴びてるところを見ても、裏をかかれて何かされるセンは消えたと思っていいな。
いや、おかしなことをされるとは考えてないけど、レベル高い人だから一応最低限の警戒はね。
「精霊コユキはその後どうかな?」
「山頂近くへ行くと言っていた。標高の高いところは真夏でも雪は残るでな」
「じゃあ今年はもう会えないか」
生まれたばかりで経験の少ない精霊だから、エネルギーを得やすい場所を本能的に好むのかもしれない。
さすがに上の方は魔物もほとんどいないだろうし、危険は少ないだろ。
元気ならばいいや。
「さて行くぞ。我が家へ案内しよう」
「お願いしまーす」
「お願いするぬ!」
小屋の外へ。
やっぱ外は寒いな。
「じっちゃん家って遠い?」
「麓まで俺の足で一時間半。下に馬車が用意してある」
「あれ? なら小屋に泊まりだったの?」
「ああ」
「結構かかるんだね。クララ」
「はい、フライ!」
「おお? 飛行魔法か!」
さすがに一時間半も雪の中は歩けない。
老人は足回り重装備だけど、ドーラに雪用の靴はないんだもん。
びゅーんと麓へ。
「ふうむ、素晴らしいスピードだな。しかも非常に出力が安定している。見事なり」
「すごいでしょ? クララはレベルカンストしてるからね。これは世界一の飛行魔法だよ」
「えへへー」
「ああ。貴重な経験をさせてもらった」
御満悦のようだ。
よしよし。
二頭立ての馬車か。
御者が頭を下げる。
「旦那様、お早いお着きで。こちらが?」
「うむ、客人だ。ドーラの冒険者、精霊使いユーラシア一行である」
「よろしくお願いしまーす」
「よろしくお願いするぬ!」
「いえいえ、こちらこそ」
品のいい御者だな。
「お家までどれくらいかかるんだろ?」
「並足で一時間半といったところでしょうか」
一時間半も馬車に揺られたら、自慢のヒップが四角くなってしまうわ。
あたしは馬車あんまり好きじゃない。
「御者さん一人にウマ二頭と馬車か。クララ、イケる?」
「はい、大丈夫です。でもウマが暴れるかもしれませんが……」
「そりゃ危ないね。よし、言い聞かせよう」
「えっ?」
あたしが何言ってるか理解してなさそーな御者さん。
ウマは賢いって言うから、多分わかってくれるぞ?
ユニコーンだって聞きわけいいし。
ウマの前方に回り、目を見て話す。
「あんた達よく聞きなさい。今からちょっと足元が不安定になるけど、ビックリするんじゃないよ? いいかな?」
「「ひひーん!」」
「よーし、いい子達だね。念のためヴィルは別行動でついて来てくれる?」
「わかったぬ!」
「クララ、お願い」
「はい、フライ」
フワッと浮き上がる。
「うわわわわわわ?」
「しまったなー。御者さんに言い聞かせるの忘れてた」
「ハハハハハ!」
老人にバカウケだ。
クララも手加減しているみたいだな。
スピードが徐々に上がる。
ウマは落ち着いてるのに……。
「ひやあああああ!」
「愉快なリアクションはもういいって。道わかんないからしっかり教えて」
「はいー!」
びゅーんと目的地へ。
◇
「とうちゃーくって、じっちゃん家デカくない?」
「デカいぬ!」
いや、有力者っぽいし、わざわざ招待してくれるっていうから、結構なお屋敷だろうとは思ってたよ?
でも宮殿みたいなのが出てくるとは思わなかったぞ?
息も絶え絶えの御者が言う。
「り、リリエンクローン家の邸宅でございますから」
リリエンクローン?
えーと、どこかで聞いたような?
「あっ、じっちゃん辺境侯爵だったんだ? ゼムリヤの領主の?」
「メルヒオールと申す。しかし精霊使いにとって身分などどうでもいいのだろう?」
「いやー、さすがにどうでもよくはないけど、面白い人かそうでないか、できる人かそうでないかの方がより重要だねえ」
「ふむ、俺は合格か?」
「冗談でも不合格って言えない雰囲気だぞ?」
アハハと笑い合う。
二歩控えている御者も興味深そうな目をしている。
あたしはただの美少女ドーラ人だぞ?
「うちの子達紹介してなかったね。こっちから眩草の精霊クララ、剛石の精霊アトム、散光の精霊ダンテだよ」
「うむ、よろしく。こちらへ来てくれ」
「お邪魔しまーす」
メルヒオールさんの後について行く。




