第1139話:運命の女神の寵児
「サイナスさん、こんばんはー」
毎晩恒例のヴィル通信だ。
『ああ、こんばんは』
「今日ねえ、帝国の新聞記者と商人さんを、ドーラの各地に案内してたんだ」
『また魔境エンターテインメントかい?』
「迷ったけど、ドキドキ魔境ツアーは遠慮したね」
『珍しいね。ちなみに何故だい? 時間の都合などというつまらない答えじゃないことを希望する』
「おお、サイナスさんやるね。新聞記者だけなら連れてったけどなー。商人さんの機嫌を損ねるかもしれない行為はちょっと。ドーラの今後に影響しちゃいかねないから」
『実にユーラシアらしい判断基準だった』
アハハと笑い合う。
商売を念頭に置いた時、魔境でぜひ紹介したいのはグリフォンだけだった。
それならヨハンさんに会わせておいた方が、今後の取り引きを考えに入れると都合がよかったのだ。
魔境とゆー楽しみは後に残しておいても色褪せないしな。
「ヨハンさん家、お茶の産地ザバン、塔の村、海の王国に連れてったの」
『海の王国以外は普通だな』
「ところが展開があんまり普通じゃなかったんだ」
『何をやらかした? 魔法の葉青汁の刑だぞ?』
「うわー見逃しておくれー!」
漫才はさておき。
「第二皇子がバアルとつるんでドーラ戦を画策したこと。魔王との関係が微妙なソロモコが攻められそーなこと。プリンスルキウスが乗るはずだった船が襲撃されたこと。皆話しちゃったよ」
『ええ? 信用してたか?』
「そりゃまあ」
『君の説得力だとそうなるのか』
「今日はあたしの説得力はあんまり関係ないんだ。プリンスルキウスが同行してたじゃん?」
『ああ、なるほど』
どれくらい信頼性があるかわからないけど、バアルの話も聞かせた。
帝国の将来にも関わる結構なネタだ。
新聞記者トリオも商人さん達も、状況証拠を集めていくんじゃないかな。
調べりゃ矛盾がないことくらいわかるだろうし。
『でもやり過ぎじゃないか?』
「いや、あたしも一切合財話す気なんか全然なかったんだけど、プリンスやパラキアスさんがやれやれもっとやれって」
『言ってたのか?』
「顔が言ってた」
本当だぞ?
疑ってるみたいだけど。
「プリンスには帝国が危ういことに巻き込まれつつあることを知らせたいっていう、パラキアスさんにはプリンスの相対的地位を上げたいっていう目的があったみたい」
『思惑はわかるが危険だろう? 大丈夫なのか?』
「そりゃ大丈夫だよ。今来てる商人さん達はプリンスのシンパだし、記者トリオはあたしに逆らうと誘拐の共犯で逮捕されかねないから」
『後ろ半分の理由がひどい』
「しまった、あたしとしたことが前半分は手を抜いちゃった」
アハハと笑い合う。
危険とは言っても事実なので、追及されたところでさほどどうってことはない。
あたしならどうにでも誤魔化せるレベル。
戦争については機密も混ざってるに違いないけど、まさか口にはしないだろうし。
「帝国の人に知っててもらうのは悪いことじゃないからいいんだ」
『どれくらいの内容を誰に、ってのが重要じゃないのか?』
「新聞記者と商人なら情報を有効に使える立場だからいいでしょ。あたしとしては、もうちょっとマイルドに浸透させたかったんだけど」
『ルキウス皇子やパラキアス氏に急がなきゃいけないって考えがあったんじゃないか?』
「そーかも」
考えてみりゃあたしは皇帝陛下や第二皇子に会ったことがない。
マジで皇帝が死にそーだったり、第二皇子が考えてるよりヤバい人なのかもしれないしな?
『君のお楽しみの貴公子公開処刑イベントについては?』
「やっぱサイナスさんも公開処刑だと思う?」
『思う』
「あんまり露骨なのはよろしくないしなー」
処刑しちゃいけないんだよな。
仲良くなれないと人脈が広がらない。
うまいこと落としどころを見つけないと。
「貴公子ハントは明後日から三日間なんだ」
『貴公子ハントって別の意味に聞こえるなあ。一日一殺か』
「一日一殺って。言い方どうにかならない?」
『君がそういうこと言うのは初めてのような気がする』
「あたしが何とかして破壊衝動を抑えようとしてるのに、サイナスさんが煽るようなことを言うから、左手甲の紋章が疼いてしまうよ」
『へその下の紋章が疼いて腹が減ってしまうの方が、キャラクターに合ってるんじゃないか?』
「……本当だ。サイナスさんやるなあ。それどこかで使うかもしれない」
どこでだというセルフツッコミ。
『どういう内容の対戦になるんだい?』
「初日が『力』、二日目が『知』、三日目が『技』っていうテーマがあって、各々に沿った内容らしいよ」
『情報が少な過ぎてわからない』
「あたしも教えてもらってるのそれだけなんだ。詳しいことは対戦者双方が納得するよう明後日決めるみたい」
『『力』と『知』と『技』か……一つ心配なテーマがあるね』
「うん、か弱い乙女に『力』は荷が重い」
『荷が軽過ぎてオーバーキリングに注意の間違いだろ』
「うーん、今のやり取りイシュトバーンさん家でもあったんだけど、微妙にオチが違ったな」
イシュトバーンさんは『美少女パワーで一番楽勝』って言ってた。
『本当に心配なのはテーマではないだろ』
「どゆこと?」
『君はトラブル体質だから』
「あたしは運命の女神の寵児だから、予想できない要素が紛れ込んでくるということだね?」
『運命の女神の弔辞が何だって?』
めちゃんこ失礼だな。
トラブルはあたしが起こしてるわけではないわ。
何故だか巡りあっちゃうだけだわ。
『この際冗談は置いておこうか。君、大きいイベントで予定通りに運ぶってことないだろう? 不思議なほどに』
「冗談は置いといちゃいけないってのを置いとくとしても、大体予定より面白くなっちゃうね。主人公体質のせいだと思う」
『その辺だぞ?』
どの辺だよ。
いや、今回あたしが活躍し過ぎて貴公子達の恨みを買うと、ドーラのためにならんってのは理解してるけど、自分じゃどうにもなんないんだぞ?
神様の領分だから。
「どーしたらいいかな?」
『寝る前に『穏便』という言葉を辞書で調べなさい』
「意味を理解する前に寝落ちしそう」
アハハと笑い合う。
「じゃサイナスさん、おやすみなさい」
『ああ、おやすみ』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『了解だぬ!』
明日は朝からゼムリヤだな。




