第1138話:食後の精霊使い四方山話タイム
フイィィーンシュパパパッ。
午後に魔境で一稼ぎしたあと、イシュトバーンさん家にやって来た。
「こんにちはー」
「これは精霊使い殿。いらっしゃいませ」
びゅーんと『遊歩』で飛んでくるイシュトバーンさん。
随分慣れて鮮やかな飛行だなあ。
慣れてきた時に事故とは起きるものなのだ、とフラグを立ててやる。
「よう、来たか」
「来たんだぬ!」
「お土産だよ。お肉と……」
「ほう、これが新しいスイーツか?」
「うん。まず先入観なしに食べてみてくれる? 警備員さんもどーぞ」
イシュトバーンさんと警備員さんが食べる。
「……いいじゃねえか。体験したことのねえ食感だ」
「甘酸っぱさがおいしいですな」
「原価高くないし、作るの簡単だから流行らないかなと思って」
イシュトバーンさんが例のえっちな目をしながら聞いてくる。
「ちょっと材料の想像がつかねえな。何だこれ?」
「寒天っていう、海の王国の産物なんだ」
「海の王国? 魚じゃねえよな?」
「ある種の海藻の成分なんだって。これ自体には味がなくて、温めると溶け、冷えると固まるっていう性質があるの」
「ほお?」
頷くイシュトバーンさん。
「で、柑橘と砂糖を混ぜて固めただけなんだな?」
「そうそう。水も入ってるけど」
「確かに簡単だ。面白い。えらく都合のいい材料が出てきたもんだな」
「いや、最初女王は煮魚を固めたやつを出してきたんだよ」
「ふむ?」
「おいしいことはおいしいけど、やっぱ煮たものは温かい方がよりうまーいからさ。別の使い道ないかな、冷やしておいしいものはスイーツだってことで、試しに作ってみたんだ」
「海底には砂糖がねえからな。料理人にスイーツの発想がなかったんだろ」
そーかも。
今度作り方教えてやろ。
すぐに海底にも砂糖やフルーツは入るようになるだろうから。
「で、これあげる。寒天の材料ね。料理人さんに渡しといて、研究してもらってよ。今後は魚人との取引所で買えるから」
「おう、すまねえな。そろそろ飯ができるぜ」
「やたっ!」
◇
「ごちそうさまっ! 大変満足です!」
「大変満足だぬ!」
今日はスイーツまで十分堪能した。
ちゃんとスイーツ分の胃袋の容量を空けておいたのだ。
学習するあたし。
あ、ヴィルがアトムに抱っこされてる。
珍しいな?
「さて、食後の精霊使い四方山話タイムなんだぜ」
「え? そんなタイムがあるとは」
まあいいけれども。
「リリーのお婿さん候補を公開処刑するイベントは、明後日から三日間ってことになりました!」
「ハハッ、やはり公開処刑になるか」
「帝都の中央大広場でだって。一日一人と対戦」
「どういう内容の対戦になるんだ?」
「初日が『力』、二日目が『知』、三日目が『技』っていうテーマがあって、それに沿った内容になるらしいの。詳しいことは対戦者双方が納得するよう明後日決めるみたい」
「じゃあ初日の『力』の対戦はぶっつけ本番か」
「らしいよ」
まー単純なテーマだから優劣をつけやすい。
どーすりゃ見栄えがいいか考えればいいだけ。
「……一つ心配なテーマがあるな」
「うん、か弱い乙女に『力』は荷が重い」
「美少女パワーで一番楽勝なやつじゃねえか」
「楽勝だぬ!」
アハハと笑い合う。
ヴィル来たか。
よしよし。
「『力』『知』『技』ってのは、一般的な人間の能力の三要素なんだろうけどよ」
「三人と対戦しまーすってなった時、その三つのどれかを選ばせるってのはわからなくはないね」
「『知』の対戦はどうするんだ?」
「心配だよねえ。どう考えても一番地味な対戦になりそう。観客が納得するかな?」
「そんな心配じゃねえんだよ!」
どんな心配だったろ?
「よくわかんないけどさ。楽しんでくるよ」
「対戦者双方が納得するようってことは、結局駆け引きの勝負じゃねえか。あんたの土俵だろ」
「まあね」
公開処刑はともかく。
「今日プリンスルキウスに会いに来た帝国の商人さん達と、ネタに飢えてる帝都の新聞記者トリオを、ドーラの各地案内してたんだ。プリンスも一緒に」
「おいおい、政治的な思惑が見え隠れするじゃねえか」
「わかっちゃう? 第二皇子が悪魔バアルとつるんでたことからソロモコと魔王の関係、プリンスが乗るはずだった船が襲撃されたことまで話しちゃったよ」
「全部じゃねえか」
だってプリンスもパラキアスさんもノリノリなんだもん。
帝国ではこんな話題出ないだろうからな。
ドーラでしか知り得ない情報ではあったかもしれない。
「商人さんは密かに調査するだろうし、新聞は予備知識ありの記事になるから、ちょっとプリンス有利に運べるんじゃないかな」
「あんたの思い通りだが……」
次期皇帝レースで第二皇子を逆転できるほどじゃないんだな。
ソロモコ遠征が大失敗なら第二皇子の権威が揺らぐけど、あたしが派手に動くこととイコールになってしまう。
ドーラの立場を悪くしてしまうので、できない相談ではある。
「微妙な匙加減が要求されるぜ。気をつけろよ?」
「わかってる」
イシュトバーンさんがこう言うことはあまりない。
シビアな問題だからだろう。
そもそも都合のいい人を帝国の皇帝にしようって、ドーラ人が画策すること自体が割とおかしいもんな。
「明日はどうするんだ?」
「『雪の精霊』クエストの続きだよ。場所はゼムリヤっていう帝国の北部だった。変わった人と知り合ったんだ」
「ゼムリヤの住人か。どんなやつだ?」
「お爺さんだよ。年齢は見た感じイシュトバーンさんとシバさんの間くらいかな。『精霊の友』で、あたしより精霊について詳しいくらい。元兵士でも辺境開拓民でもなさそうなんだけど、えらくレベル高い人なんだよね。リリーがドーラに来てたこと知ってたから、皇族貴族の情報を入手できる立場にある有力者だと思う」
「ほお? えらく設定盛ってるじゃねえか」
「ビックリだよねえ。最初精霊案件のクエストだと思ってたけど、精霊はそのお爺さんと知り合うきっかけだったんじゃないかって気がする」
謎めいた人なのだ。
「その人が家に招待してくれるって言うから、行ってくるんだ。うちの子達も連れて」
「精霊連れで行けるところならば、田舎の豪族とかか?」
「あるあるだね」
毎日楽しみがあるのは嬉しいことだ。
「ありがとう。今日は帰るね」
「おう、また来い」
「バイバイぬ!」
転移に玉を起動し帰宅する。




