第1135話:来たるべき戦争について
帝国はあんまり聖火教徒のウケがよくないとは聞いている。
ここはサラッと。
「聖火教徒は悪魔と関わっちゃいけないって教義らしいけど、まあ建て前だよ。リモネスのおっちゃんは度量の狭い人間じゃないから、悪魔ってだけで否定したりはしない」
ヴィルだって聖火教の礼拝堂入れてもらったことがあるくらいだし。
ベンノさんが聞いてくる。
「その、来たるべき戦争というのはいつ頃になるでしょうな?」
「帝国艦隊があちこち偵察に行ってたみたいなんだ。もう計画は立てられているはず」
「おそらくガレリウス兄上の喪が明けたらすぐだ」
「タムポートの港に張りついてりゃわかると思うよ」
「攻略対象の国はどこですか?」
「確定じゃないけど、多分外洋のどっかの島国だね。ソロモコの可能性が濃厚」
頷く客人達。
「規模はどれくらいのものになりそうですか?」
「いや、大したことないよ。軍艦数艦を派遣するだけだと思う。昨年末にドーラに派遣したのが八艦だから、もっと小規模になるんじゃないかな」
「教えていただいてありがとうございます」
おそらく帝国政権並びに主席執政官の第二皇子は、勝ったという実績が欲しいだけだから。
ホッとする面々。
「無用な遠征に思えますな。ドミティウス様は何故戦争を?」
「性格である。自らに厳しいからである」
「どういうことです?」
「結局上手いこと収まったけど、ドーラ遠征が失敗だったってことは政権や軍はわかってるわけじゃん? 取り返そうとしてるんじゃないかって見解なんだけど」
確かに性格としか言いようがない。
時間はかかっても内政外交でリカバリーの利く失点ではあるからだ。
大人しくしてりゃ、ドーラとしても第二皇子がトップでいいくらいなのに。
「では、我が帝国の海外植民地が一つ増えて決着がつくということですな?」
「ところが簡単に終わらないんだ」
「「「「「「えっ?」」」」」」
プリンスとアイコンタクト。
話してしまえって?
うん、了解。
「今から話すことは荒唐無稽に思えるかもしれないけど本当だぞ? 実際に帝国がどこを攻撃目標にするかまではあたしも知らないんだけど、かなり可能性が高いと思われる候補地の一つにさっきチラッと話したソロモコがあるの」
「ソロモコ……ほぼ我が国とは交渉のない島国ですね」
「確かコモンズが通じないとかいう?」
「うん。コモンズってのは本来精霊とか悪魔の言語なんだって。それを人間が流用してるの。コモンズが通じない地域ってのは、古来精霊や悪魔と馴染みがなかった地域なんだ」
「はあ……ソロモコは精霊や悪魔と馴染みがなかったということですね?」
「一方ソロモコにはフクロウの神様を崇める信仰があって、それをフクロウの姿をした悪魔に悪用され、尊敬の感情を吸い上げられちゃってるんだ」
「高位魔族は一般に悪感情を好むであるが、尊敬の感情は悪感情以上の美味である」
「要するにソロモコの住民は悪魔を知らなかったから騙されているんですね?」
「ふうむ、許しがたい行為でありますが……」
「ユーラシアさん、戦争の話と離れてませんか?」
「とゆーソロモコの事情だけを聞くと、あたし達には全然関係ないと思うでしょ? 違うんだなー」
ここからが本番だぞ?
「魔王ってのがいるんだ」
「魔王? 御伽話の中だけではなくて?」
「魔王はね、他の悪魔を従えて尊敬の感情を集めてる存在なんだ。でも逆に配下の悪魔を納得させるために人間と争って、悪感情を集めて分配しなきゃならないの」
皆が驚く。
「だから魔王は人間の敵なのか」
「合理的と言いますか……」
「聞けばなるほどのシステムでしょ? でも今の魔王は特に人間と敵対していない。どうしてだと思う?」
一斉に首を捻る客人達。
あ、ヴィルこっちに来た。
抱っこしてやろうね。
「答え行きまーす! さっきのフクロウの悪魔フクちゃんが、ソロモコで吸い上げた尊敬の感情を魔王に送ってるからでした!」
「「「「「「……」」」」」」
「人間と敵対して悪感情を集める代わりに、ソロモコで尊敬の感情を集めて配下に配ってるから、魔王は人間と争う必要がない。ここまでいいかな?」
女王から質問が飛ぶ。
「ちょっと待つのじゃ。しからばソロモコなる国が帝国に占領されるとどうなる?」
内容知ってる女王がアシストしてくれる気らしい。
感謝。
「当然帝国海軍の軍艦に乗船しているであろう宮廷魔道士は悪魔に気付く。フクちゃんは魔王に尊敬の感情を送れなくなるから、魔王が怒って大戦争になっちゃう」
「だ、大戦争?」
「困るでしょ?」
「人魔大戦なんて、神話上の話だと……」
「いや、実際に魔王がどう対応するかはわかんないよ? 帝国が攻められるのか全人類との戦いになるのか」
客人達の顔が青白くなってきた。
あんまり脅し過ぎても可哀そうだから。
「で、それを何とかしろってのが、あたしの『アトラスの冒険者』のクエストなんだ。だからソロモコが征服されちゃうってことはない」
「な、何とかなるんですか?」
「うーん、本当に帝国軍がソロモコに来るとするよ? 戦争にならずにお帰りいただくところまでは請け負う」
魔王に会ったことがないので、悪魔側の出方はわかんない。
プリンスが笑いながら言う。
「ハハハ。精霊使いユーラシアが断言するなら問題ないのだろう」
おっ、客人達のそれは畏敬の目ですね?
やりやすいなあ。
「まー信じるも信じないも勝手だけど、帝国軍がソロモコ征服に失敗したら、あたしの言ってたことが本当だったんだなーって思えばいいよ。帝国の人達の生活には影響ないから」
「は、はい」
「この件について、帝国の要人は知らないんですか?」
「プリンスルキウス以外だとリモネスのおっちゃん、ドルゴス宮廷魔道士長、ヴォルフ近衛兵長の三人は知ってるな。でもこの三人は政権にも軍にも発言権ないらしいじゃん?」
「リモネス殿ならば……いや、陛下が御病気で臥せっておられるから」
「トップがケンカっ早いと下々の者が苦労するぞ? 特にあたしに尻ぬぐいが回ってくるのがいただけない。無報酬なのはさらにいただけない」
笑い。
よし、こんなとこだろ。
主席執政官に対する不信感を植えつけたった。
「わかってると思うけど、今の話は他言無用だぞ?」
「うむ、今は商売の方が大事じゃ。商品を見ていってたもれ」




