第1133話:フィフィを宣伝しておく
「こんにちはー」
「ルキウス様も御壮健で何よりです。ガレリウス様におかれましては、大変残念なことでございました」
「あ、ああ。丁寧にありがとう」
現れたのはやらかし男爵の娘で、プリンスルキウスの元婚約者フィフィだ。
堂々としてるなあ。
何一つ引け目のないはずのプリンスの方が挙動不審気味ってこれいかに?
フィフィはメンタル強いわ。
「まさかフィフィリア嬢?」
「そうですわよ?」
驚いて目を見張る客人達。
おそらくフィフィは夜逃げするみたいにドーラへ来たんだろうしな。
行方を知るものはごく少数だったに違いない。
しかし新聞記者トリオもいる。
ちょっと面白いことになったぞニヤニヤ。
「な、何故フィフィリア嬢がドーラに……」
「物事には暗黙の了解があるだろ。いきなり聞くのはさすがにルール違反だぞ?」
「初対面で傷口抉りまくった貴方が言う筋合いはないのですわっ!」
「フィフィだっておサルのド田舎のって吹きまくったろーが」
アハハと笑い合うと客人達が呆然としている。
ま、フィフィが自分では言いづらいだろうから説明しとくか。
どうでもいいけどプリンスが空気になってしまった。
「フィフィの父ちゃんの男爵がやらかして処罰を受けたらしいじゃん?」
「ババドーン元男爵は幽閉と聞き及んでおります」
「フィフィは帝国本土に拠りどころがなくなっちゃったから、母ちゃんと使用人四人の計六人でドーラに来たんだよ」
簡単過ぎる説明だが、あたしも詳しいことは知らんしな。
新聞記者が言う。
「存じませんでした。てっきりエーレンベルク伯爵家か母方縁者の預かりになっているものと」
「伯爵家からは切られたんだろうって噂だけど、本当なん?」
「事実ですわ。しかしお父様の業で、誇りあるエーレンベルクの家名にこれ以上傷を付けるわけにはまいりませんの。私達は去るべきでした」
「母ちゃんの実家は? 商家だって聞いたけど」
寂しそうに笑うフィフィ。
「頼れませんでしたわ。私達がすがればいつまでも笑い者。噂が消えませんから、商売もうまくいかないのです」
「聞いた? フィフィ自身は何もしてないのに、婚約破棄された上遠く離れた異国に傷心の身を寄せることになったんだよ」
「「「「「「「「……」」」」」」」」
デス爺まで神妙に聞いてる。
プリンスが居心地悪そう。
まーでもフィフィがプリンスの婚約者ってのはさすがにないわ。
「ドーラに来たのは何でなん? 選択肢はたくさんあったと思うけど」
「一番……明るい展望を描けそうだったから」
「あんたはカンもいいなあ。プリンスルキウスがいたからではないんだ?」
元婚約者の名をあえて挙げてみる。
いや、だって新聞記者トリオが聞け聞けって顔してるから。
「ルキウス様が大使としてドーラにいらっしゃるのは本当に存じませんでした。迷惑をかけていたら申し訳ないです」
「こら新聞屋。プリンスが大使になったことが知られてないってのは、ドーラとしても迷惑なんだぞ?」
「いや、わたし達も実は知らなくて……。今は知られてきていますからいいじゃないですか」
「取材力がなー。報道が足んないとこんな面白いことになっちゃう」
「面白くはないのですわっ!」
笑い。
ようやく雰囲気が柔らかくなる。
「そしてリリー様が冒険者活動をしていると知り、この村を目指したのです」
「今日は転移で来たからわかりにくいけど、この村は港町レイノスから強歩三日くらいの距離があるんだ」
「フィフィリア嬢は馬車でこちらへ?」
「いや、西の街道は馬車なんて小洒落たものはないから歩きで」
商人が言う。
「歩きですか? 貴族令嬢の足で強歩三日の道のりはキツいでしょう?」
「実に軟弱だったね。案の定出発して一時間くらいで靴擦れ起こして歩けなくなってるの」
「そんなこともあったわね……遠い昔のようだわ」
「まだ一ヶ月も経ってないからな?」
記憶力を総動員しろ。
「で、あたしとしても悪役令嬢がサルの国で苦労するところが見たいのに、早々にリタイアされちゃつまんないじゃん? だからなるべく手を貸したんだ」
「あ、貴方騙したわねっ! そんな目的だったのっ!」
「人聞きが悪いな。騙してなんかいないぞ? 記憶を呼び覚ますのだ。気にすんな、ただのあたしの酔狂だからっていうセリフに覚えがあるでしょ?」
「あるのが悔しい! 本当に酔狂だったとはっ!」
皆で大笑い。
「結局一〇日くらいかけてここ塔の村に辿り着いたんだ。フィフィは頑張った」
「えっ? あ、ありがとう存じます」
「道中は結構いろんなことがあったんだよ。ザリガニに舌鼓打ったり、レベル二〇あってようやく追い払えるくらいの魔物三頭に襲われたり」
「大変でしたのよ?」
「そうした経緯を現在本にしている最中なのでした。ポロリもあるよ」
「途中温泉に寄っただけなのですわっ!」
「入浴シーンは念入りに書いてよ」
引きは大切だから。
ハハッ、商人さん達が興味を持ってるぞ?
「フィフィリア嬢の体験記というのは、輸出を考えておられるので?」
「もちろん。あったことも面白いんだけど、初めクソ生意気だった悪役令嬢が段々ドーラの山ザル色に染まっていくドキュメントがよかったんだ。細かな心情が文章に表現されてれば名作になるよ。ちらっ」
「どうしてマテウスの方を見るのっ!」
「そりゃ執事さんが直して仕上げるんだろうから」
フィフィの知名度もあって売れることは間違いないだろう。
でも評判は内容で決まるんだぞ?
あんたの執事はできる人だから、必ずエンタメに寄せるに違いない。
ほら見ろ、商人さん達もメッチャ乗り気になってきたみたいだぞ?
記者の一人が聞いてくる。
「ところでフィフィリア嬢は、今現在はどうしていらっしゃるので?」
「冒険者をしているわ」
「「「「「「「冒険者?」」」」」」」
あ、これはプリンスも知らなかったか。
「塔のダンジョンは比較的初心者向けなんだ」
「でも魔物の出るダンジョンなのでしょう?」
「ええ、何と言いますか……」
「見るからにすっとろいフィフィに何ができるんだ、と?」
「「「はい」」」
「失礼ね!」
「その辺のことも本にするから読んでね」
「「「ええっ!」」」
ハハッ、まあまあ。
気になるところで切り上げだ。
これが定石。
「さあ、次行こうか。じっちゃん、フィフィ、またね」




