第1129話:リリーも大変だ
――――――――――一九六日目。
「やー、晴れた!」
「ダンテは晴れの予報だったんだろ?」
「あたしの正道ド真ん中を進む行いをお天道様が祝福してるからだ!」
「実にエゴイスティックな考え方である。尊敬するである」
アハハと笑い合う。
今日は凄草株分けの日、カカシやバアルと話しながらの作業だ。
最近株分けの日はこのパターンが多い。
「ヤマワサビはドーラで育てるの難しいのかな?」
「やや涼しいところが好きだから向いてるとは言えねえが、問題なく育つぜ? オイラの管理下なら特にな」
「よし。とりあえずよろしく」
半日蔭気味のところがいいんじゃないかとクララが言ってたから、成長を見ながら考えるべきだな。
水も好きらしいが、カカシの管理下なら大丈夫だろ。
「ユーちゃん、もっとヤマワサビに適した土地に心当たりはないのか?」
「なくもないな」
水の豊富な自由開拓民集落ンギーや、掃討戦跡地の綺麗な水の湧く沢の近くならよく育ちそう。
ただ今のところ需要がないからな。
うちや灰の民の村で育てて、栽培法と食べ方を確立しておくのみ。
バアルが言う。
「しかし、懸命に普及させねばならぬ食草でもないであろう?」
「おお、さすが大悪魔だね」
「照れるである」
調味料として、かつ醤油とセットでならものになりそうというだけだ。
単独での利用法といったら、魔法の葉青汁の代用品くらいしか今のところ思い浮かばない。
「ユーちゃん悪い顔してるぜ?」
「逃げ出したくなる顔である」
「何であんた達はあたしのプリティフェイスに文句つけるんだよもー」
再びの笑い。
今日もいい日だ。
「カカシ、また面白い植物を見つけたら栽培よろしくね」
「おう、任せとけ!」
味に関わる食草は食文化の発展に関わるので、なるべく試験栽培しておきたいんだよな。
あたしはやるぜ。
さて、朝御飯だ。
◇
フイィィーンシュパパパッ。
「おっはよー」
「やあ、精霊使い君。おはよう」
皇宮にやって来た。
必ずここにいる土魔法使い近衛兵と話しながら、詰め所まで案内される。
「新聞記者達連れてドーラへ行くんだって?」
「記事ネタをねだられちゃって。おいしいエサをあげて飼い馴らすつもりなの」
アハハと笑い合う。
「ちなみに帝都の新聞記事ってどんな感じなの? ゴシップ記事が多いみたいなことを、以前ウルピウス殿下に聞いたけど」
「君に取材した次の日は最高だ。部数も増えるとか喜んでたぞ」
「やっぱそーか。ダメだなー」
「何が?」
おわかりでないらしい。
「取材力がないってことだよ。ドーラの新聞も同じなんだ。あたしが顔出すと寄ってきてネタないかーって」
「君が評価されてるってことだろう?」
「あたしの評価はいいから、新聞がもっと力を持って欲しいんだよね」
あちこち飛び回るあたしがネタ持ってるだろうってのはその通り。
なるべく協力はしてやるけど、頼るのはよろしくない。
取材力がないのは新聞が儲かってなくて、記事作成に人数をかけられないからだろうな。
新聞がより発信力影響力を備えてくれれば、利用価値も格段に上がるのだが。
発行部数が多くなれば……。
「……ここでも識字率が問題になるなあ」
「君は随分新聞に対して親切だね?」
「ドーラの発展を目指しているあたしは、産物を記事に取り上げてもらって帝国に輸出したいから」
「あ、そういう思惑があるのか」
プリンスルキウスの実績を知らしめて人気を上げ、あわよくば皇帝に祭り上げたいという思惑もありますよ。
「今日の新聞は売れてるはずだぞ?」
「だよねえ。リリーを巡る三人の貴公子だもんねえ。あたしも読みたいな」
一番人気の皇女の婿取りに関わる話題だ。
しかも勝ち負け方式だしな。
わかりやすい対決姿勢であるところはウケるだろう。
「いや、リリー様の代理を務めるという君に注目が集まってるんだ」
「えっ?」
何ゆえ?
あたし帝国で知名度ないじゃん。
「『ドーラ』『冒険者』『謎の美少女』『リリー様の親友』という魅惑ワードが目白押しだろう? かつ新聞が好意的だから」
「考えてみれば美少女がリリー一人より美少女二人(あたし&リリー)の方が、新聞売りやすいのは当然だったわ」
「えっ? 当然なのか?」
「美少女力が求められていたかー。どうしたらもっと魅力的に見えるかな?」
「君は十分魅力的だと思うが」
「あんたは口が上手いなー。悩殺しちゃうぞ?」
アハハと笑いながら詰め所に到着。
あれ、ウルピウス殿下もいるじゃん。
「おっはよー」
「「「ユーラシアさん!」」」
「記者さん達元気だねえ。殿下どうしたの? 早起きじゃない?」
「予はいつも早起きだぞ」
ふーん。
皇妃様は早起きって言ってたから、母親似なのかな?
「ユーラシアに伝えておきたいことがある。新聞記者諸君も聞いてくれ」
縁談クラッシュイベントの件か。
リリーがまだ寝てるから、ウ殿下が知らせに来てくれたんだな。
何だろ?
「リリーの婚約者候補三人との対決の件だが、先方三人からの了解は取れた。明後日から三日間にわたって帝都メルエル中央大広場にて勝負する方向で調整が進んでいる」
「早速明後日からか。了解でーす。腕が鳴るなあ」
「やはり公開対決ですか」
「そうだな。市民による観戦並びに応援は自由だ。ただし厳正な対戦であるから、邪魔は許されない」
「明後日から三日間というのは、かなり実施が早いですね? 驚きました」
「リリーも急かされてるんじゃないの?」
ウ殿下が軽く頷く。
リリーも大変だなあ。
早くドーラに戻りたいっていう、リリー自身の思いが含まれてるのかもしれないが。
「これ、一日一人ずつとお楽しみって考えていいのかな?」
「そうなる」
「どんな内容で優劣を判定することになりますか?」
「まだ決定しておらん。おそらく細かい部分まで詰める時間がないな」
「「「「えっ?」」」」
「正確な内容は、当日対戦する両者の合意によって決められることになると思う」
ははーん、そーゆーことか。
得意不得意はあるから一方的には決められないもんな。
……当日いきなりの方がハプニング要素あって楽しめそうではある。
「ユーラシアの了解をもらいたいのだが、よいか?」
「うん、あたしは構わないよ」
「予からは以上だ。午後にはもう少し決定事項が多くなっているはず」
「わかった、じゃ、記者さん達行こうか」




