第1121話:代わりに熱いベーゼを
「これは……無残というか悲惨というか」
魔境世界樹エリアにやって来た。
折れた世界樹を見た片眼鏡の杖職人ナバルさんの感想だ。
先ほどまで降っていた雨で濡れているせいもあり、余計に哀れに感じるのかもしれない。
「折れた大木の近くに植えたやつ、メチャクチャ育ってるじゃねえか」
「うん、いい傾向だよね」
挿した枝が根付いた、次代の世界樹候補達だ。
魔力濃度安定のために役立ってくれるはず。
しかし成長に差が出てきてるな。
いずれ一本が勝ち残って新たな世界樹になるとのこと。
このまま見守るべきなのだが……。
「もったいなく思えちゃうな。何かに使えないのだろーか?」
「何にだよ」
「問題はそれだ」
貴重な植物ではあるが、食べられるわけじゃない。
魔力濃度の高いところじゃないと育たないから、マジックウォーターを作る用途では使いにくいという結論だった。
杖もスクロール紙も折れちゃった世界樹で十分なので、実は若木の方にはあまり魅力がない。
「ま、いーや。一応世界樹の若木がムダになりそうって覚えとこ」
「超絶美少女精霊使いよ。枝先の方も見たいのだ」
「うん、クララ、お願い」
「はい、フライ!」
びゅーんと東へ。
「あっ、ワイバーンだ。降ろして」
「ん? 飛んだままでは危険なのか?」
「いや、ワイバーンの卵が必要なんだよね」
さっきリリーに持ってきてくれって頼まれたからな。
レッツファイッ!
以下略。
「ドロップしないか。仕方ない。爪剥いでこ」
「何で卵がいるんだ?」
「明日皇宮行くんだけど、病気の皇帝陛下に食べさせたいってリリーが言ってたんだ。そんなん断れないじゃん?」
「リリー皇女は帝国本土にまだいるのか? 大使はドーラに戻ったんだろ?」
「リリー本人は第一皇子のお葬式で一旦帝国に帰っただけのつもりだよ? でも縁談が殺到して身動き取れなくなってるんだって」
「ほお」
「可憐な皇女ともなると、しがらみに縛られてしまうのだな。痛ましいことだ」
「リリーが可憐って言われると違和感あるな。でもお相手候補は貴公子揃いだって」
途端に険しい表情になるダンと片眼鏡。
「何だよ。選び放題で困ってるってことか?」
「とっとと幸せに包まれてしまうがいいのだ」
「違うんだよ。青っ白く弱っちいのはあんまり好みじゃないんだって」
「「ふーん?」」
何で嬉しそうなんだよ?
わけがわからんな。
「やるじゃねえか」
「うむ、ドーラは温かく皇女殿下を迎え入れよう」
「これちょっと面白い展開になりそうなんだ。まだ決定じゃないけど」
「おう、決まったら話してくれ」
「楽しみだ!」
楽しみを残しつつさらに東、折れた世界樹の末端に向かってびゅーん。
「ふむ、このくらいの太さの幹がちょうどいいな」
「ちょっと待ってね。ガーゴイルだ」
「何か魔物多くねえか?」
「そうだねえ。クレイジーパペット、と」
「恐ろしげなのだが」
「ビクビクしなくていいとゆーのに。いっぺんに来てくれれば『雑魚は往ね』で一掃できるのになあ。やたっ! ワイバーンの卵一個確保!」
「おい、ドラゴンだぞ?」
「『逆鱗』に追われて他の魔物がこっち逃げてきてたのか。納得」
「素材名で呼ぶなよ。可哀そうに。まあ一撃なんだな」
亡骸が邪魔なので少しずつ位置を変えていく。
世界樹の処理の方は捗らないのだが、次から次へと魔物が押し寄せるので、ダンや片眼鏡のおっちゃんと離れずに戦えるのはいいことだ。
卵三個目ゲット。
「おおう、クレイジーパペット三体は久しぶりだな。収穫収穫」
「あれはグリフォンか? つがいだぞ?」
「グリフォンかー。世界樹エリアの子はどうかな? あっ、大丈夫だ!」
「大丈夫? 何が? あっ、どこへ行くのだ!」
ダイビングしてもふー。
どうやって意思疎通してるのかわからんけど、あたしがエサくれる人だとわかってる子達だった。
「何やってんだ?」
「羽毛をもらってるんだよ。布団にすると高級品なんだって」
「そのデカい櫛は、まさかグリフォン用に作ったのか?」
「ピンポーン! 気持ちよさそーでしょ?」
さすがにグリフォンくらい強い魔物が二体もいると、他の魔物が寄ってこないわ。
やりやすいなあ。
「今の内に世界樹のいいとこ切っといてよ」
「枯れた木の枝払いとは、あんたにもらった伝説レベルの剣が泣くぜ」
「しっかり働けって剣に言っときなよ。あっ、ちっちゃ過ぎて使えない部分はひとまとめにしといてくれる?」
「薪にでもするのか? 超絶美少女精霊使いよ」
「スキルスクロール用の紙を生産できないかと思ってるんだ。世界樹混ぜればイケそうってことがわかったんで、今試作品作ってもらってるの」
「ムダがねえなあ」
ないんだよ。
世界樹ってホント有用だわ。
育つ場所がごく限られるっていう条件さえなければ、利用し甲斐があるんだけどなあ。
ペペさんが折っちゃった時は人形系レア祭りだったから木の利用まで頭回らんかったけど、今になって重宝しているのだ。
「よーし、こんなもんかな。あんた達ありがとう! 食べていいぞ」
「「くおっ!」」
おいしそうに先ほどのクレイジーパペットの亡骸を食べ始めるグリフォン達。
「おいおい、どういうことだ?」
「デカい鳥系の魔物は人形系レア魔物の亡骸が好物みたいなんだよね。ロック鳥とかガルーダも同じなの。でも人形系なんて自分じゃなかなか倒せないじゃん? 餌付けすることに成功したんだ」
「餌付け……」
「ちょっと待て。あんた世界樹エリアはほとんど来ないだろう? 何で餌付けされてるんだよ。同じ個体じゃねえだろう?」
「そこよくわかんないんだよね。グリフォン同士で遠距離でも情報が共有することができるのか、あるいはあたしからエサくれる人オーラでも出てるのか」
割とどうでもいいことだ。
大事なのはグリフォンと仲良くできること。
「おいユーラシア。あんたも切断するの手伝ってくれ」
「オーケー」
これくらいの太さなら風魔法も必要ないな。
スパスパと切って杖材をどんどん積み上げる。
片眼鏡から声がかかる。
「もう十分だ。ありがとう」
「じゃ、帰ろうか。魔宝玉は二人で分けてよ。それ以外はもらうね」
「よ、よいのか?」
「甘えておけよ。ユーラシアは気前がいいんだ」
「では代わりに熱いベーゼを!」
「甘えんな。ぶっとばすぞ?」
「ぶっとばすぬ!」
アハハと笑い合い、解散となる。




