第1119話:寒天レモンは好評
フイィィーンシュパパパッ。
「美少女精霊使いユーラシア参上! ポロックさんこんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「いらっしゃい、チャーミングなユーラシアさん。お急ぎですか?」
「お昼御飯まだなんだ。ところでこれどーぞ」
朝作った寒天レモンの試作品その二だ。
ポロックさんの感想はどーだろ?
「ん? 食べ物かい? あっ、甘酸っぱくて美味いね」
「食感が変わってて面白いでしょ? これ流行らそうと思うんだ」
ふむ、ポロックさんにも好印象のようだな。
ギルド内部へ。
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「遅いではないか!」
「え、そお?」
「サクラ嬢の昼休み時間が終わってしまったではないか!」
「待ち合わせ昼過ぎだったからね?」
おっぱいさんに迷惑がかかるといけないから、わざわざそーしてるんだぞ?
全然わかってやしないじゃないか。
「ま、いいや。これどうぞ」
「これは?」
「今日開発した寒天レモンだよ」
「何だ? 俺にも食わせろ」
「あ、ダン」
この銀髪ツンツン男は、面白そうなところに必ず顔を出すなあ。
でも『サナリーズキッチン』で新しいスイーツとして広めてもらうと都合がいいな。
「ちょうどいい。食べてよ。サクラさんもどーぞ」
「いただきます」
「おお、甘露甘露!」
「ほお、スイーツか。いいじゃねえか」
「おいしいです!」
「おいしいんだぬ!」
ハハッ、大好評なり!
寒天は安くて扱いが簡単なのに目新しいから、すぐにドーラ名物になるんじゃないかな。
「これを『サナリーズキッチン』のウリにできない?」
目を見開くダン。
あれ、警戒の表情だな?
ダンの姉ちゃん夫婦が切り盛りする食堂『サナリーズキッチン』が思ったほど繁盛しないって、以前言ってたじゃないか。
アイデアを供給してやろうっていう、ウルトラチャーミングビューティーのありがたい慈悲なのに、何をためらってるんだろーか?
「……何考えてるんだ?」
「何と言われても。新しい食べ物を発信する時はまず『サナリーズキッチン』からっていう図式を、レイノス市民に刷り込んでおく計画だよ」
「……」
「寒天レモンなら可愛いしオシャレだし、店構えに合うでしょ? いや、まあ果汁果肉はレモンに限らなくてもいいんだけどさ」
「……」
「この計画がたとえ失敗したとしても、あたしの懐が痛むわけじゃないし」
「おお、そういう本音だったのかよ」
ようやく表情を崩すダン。
「あんたが親切一辺倒なわけはねえ。質の悪い冗談のネタかと思ったんだ」
「おいこら。あたしは親切一辺倒に決まってるだろ」
「親切一辺倒だぬ!」
「よーし、ヴィルいい子! ぎゅー」
「ふおおおおおおおおお?」
よかったね。
片眼鏡のおっちゃんが言う。
「超絶美少女精霊使いよ。水魔法の杖だ」
「ありがとう!」
帝国の商人さん達が来た時に見せられるな。
あんまり数を出せるものじゃないし、プリンスの最も信頼する商人ベンノさんに任せることになりそうだけど。
「ナバルのおっちゃん、燿竜珠の杖は宮廷魔道士長さんに渡してきたからね。大喜びしてたよ」
「そうであろうそうであろう!」
片眼鏡も嬉しそうだな。
自分の仕事が帝国の宮廷魔道士長に認められたとなるとなあ。
「二万ゴールド請求したら二〇万ゴールドか一二万ゴールドの間違いじゃ、みたいなこと言われたんだよ。帝国だと燿竜珠の価格だけで二万ゴールドいっちゃうっぽい」
「ふむ? しかし安い分には文句を言われる筋合いはないであろう?」
「もっともではあるけど、買い手が価値を認めてくれてるものにそれだけの値段つけないのは、買い手の見る目がないって言ってるようで失礼じゃん?」
「失礼だぬよ?」
ダンが笑う。
「ユーラシアの理論は独特だな。要するにもっと儲けろ、毟り取れってことだな?」
「ダンの言う通りなんだよ。今後むやみと安い杖の注文を受け続けると向こうの杖職人も面白くないだろうし、見る目がないやつにドーラの杖は安かろう悪かろうって言われかねない。今回は安い理屈を色々捏ね上げてきたから、次回注文入ったら値段は考えようよ」
「うむ、わかった」
ダンが聞いてくる。
「で、今日の杖は何なんだ? えらく短いな」
「ペペさんが開発した水魔法あるじゃん? あれを内蔵した杖。輸出品候補なんだ。明日には帝国の商人さん達が来るみたいだから、間に合ってよかったよ」
「ほお? スクロールじゃねえ汎用品か」
「そうそう。杖さえ持ってればあなたも魔法少女計画発動」
アハハと笑い合う。
ちょっとずつドーラの商品を充実させていくのだ。
ダンが言う。
「サクラさん。今度の新人冒険者どうなってるか教えてくれ。ブローンってやつだ」
「あたしも知りたいな」
「はい、少々お待ちください」
おっぱいさんが手元の小さな魔道のプレートを操作する。
固有能力『マッチョ』を持つブローン君。
冒険者をやろうという意欲が高くなかった人ではあるが……。
「チュートリアルルーム後、一つ目のクエストは完了しています。おそらく現在のレベルは四前後。二つ目のクエストの転送魔法陣も使用した形跡があります」
「今のところ問題ねえな」
「やる気さえあればね。ブローン君にはヒーラーの相棒がついてるし」
「ん? もうパーティー組んでるのか?」
ダンはブローン君の教育係だしな。
説明しておくか。
「二年ちょっと前に『アトラスの冒険者』になったけど脱落しちゃった、ミラ君っていう白魔法使いがいてさ。また冒険者やりたいみたいだったから、ブローン君を紹介したの。ミラ君はナバルのおっちゃんの杖を装備してるんだ」
「あんたが世話焼いてるのかよ?」
「いや、ミラ君の場合は事情が特殊でさ。回復魔法や治癒魔法を使える白魔法持ちは貴重でしょ? ミラ君が住んでる白の民の村の村長さんに、どうにかしてくれって頼まれたんだよ」
「ははあ」
回復魔法や治癒魔法の使い手は、冒険者じゃなくても重要だ。
村に一人いるだけでも安心感が全然違う。
カトマスや塔の村みたいな冒険者の集まる集落では使い手も多いんだろうが、
他の場所にはなかなかいないしな。
「あたし達昼御飯まだなんだ。サクラさん、じゃーねー」
「バイバイぬ!」
「えっ? もう少しサクラ嬢と午後の優雅な一時を過ごしたいのだが」
おっぱいさん嫌がってんじゃねーか。
片眼鏡ナバルさんを引っ張って食堂へ。




