第1118話:リリーの依頼
フイィィーンシュパパパッ。
「こんにちはー」
「やあ、精霊使い君。いらっしゃい」
ゼムリヤの山小屋から帰還したあと、皇宮にやって来た。
いつもの土魔法使い近衛兵だ。
「あんた、本当はここで何やってるの? ただサボってるわけじゃないんでしょ?」
「ただサボってるんだ」
「……あんまり堂々と開き直られると、却って深読みしたくなるのはどーしてだろう?」
アハハと笑い合う。
まああたしにとってはこいつがここにいる方が都合がいいけど。
割と情報に通じているし、近衛兵詰め所に着くまでに心の準備ができる。
「今日はどうしたんだい?」
「宮廷魔道士長さんに注文された杖ができ上がってきたんだ。それから報告し忘れてたけど、プリンスルキウスは一昨日ちゃんとドーラに戻ってるからね」
「了解。詰め所に案内しよう」
◇
「……これは素晴らしい。文句のつけようがない」
燿竜珠の大杖を手に取った宮廷魔道士長ドルゴスさんの評だ。
メッチャ杖を見る目が真剣だ。
格好いい杖だってことはわかるけど、どこが琴線に触れたんだろうな?
「材質はケヤキだって」
「ふむ、価格はいくらですかな?」
「二万ゴールドだよ」
「……二〇万ゴールドでも一二万ゴールドでなくて?」
「ただの二万ゴールド」
いや、初め一万六〇〇〇ゴールドって言われたけど、値上げしてそのお値段なの。
あれ? ドーラ人と帝国人では随分価格認識に違いがあるようだ。
ドーラ製が安物と思われるのも職人を安く使えると思われるのも困る。
言い訳しておかねば。
「安過ぎませんかな? 正直燿竜珠の価格だけでも二万ゴールドくらいになりそうな」
「ドーラは魔宝玉の価格が安いんだよね。燿竜珠はたまたまあたし達と共闘した時のドロップ品だし。杖職人も戦闘に参加してた時のやつだから、分け前分で入手がタダだった」
「いや、それにしても……」
「件の杖職人がファイアードラゴン大好きで、やっぱり『輝かしき勇者の冒険』のファンなんだよ。この杖も元々趣味で作りかけてたから早く仕上がったみたいでさ。サービスなんじゃないかな」
何か今後もっと高く売れそうだから、安い理由作っとこ。
あくまで特別にお安いんですよーと。
「だから早い完成だったのですか」
「宮廷魔道士長さんの注文だぞって教えたんだ。顔繋ぎって意味もあると思う」
「ありがたく使わせていただきます。杖職人殿によろしく」
大事そうに杖をしまう宮廷魔道士長さん。
いい取り引きでした。
次からもお引き立てのほどよろしくね。
「「ユーラシア!」」
「こんにちはー」
リリーとウルピウス殿下、リモネスさんが登場。
「今日はどうしたのだ?」
「魔道士長さんから注文もらった杖ができたから、届けに来たんだよ」
「お土産は?」
「あ、お肉があったんだった。忘れてたよ」
「ワイバーンの卵はあるか?」
「今日はないな」
「残念だな……」
リリーガッカリしとるわ。
いつも取れるものじゃないしって、昨日たくさん取れたんだったわ。
飽きるほど食べちゃったわ。
失敗した。
何故だか罪悪感を感じるじゃないか。
「わかった。今度来る時のお土産に必ず」
「そうか! 約束だぞ!」
「お? おう」
えらく勢い込んできたな。
好物であることは知ってるけど、何がリリーをここまで駆り立てるのか。
謎だぞ?
「ちなみにワイバーンの卵が必要な理由があるのかな?」
「二つある。ガレリウス兄様が亡くなったことで、病床の父様が気落ちしてしまってな。ぜひにも食べさせたいのだ。元気になってもらいたい」
「早く言いなよ。明日持ってくるから。もう一つの理由は?」
「心労の我に食べさせたいのだ。元気になりたい」
「……危ない危ない。もうちょっとで騙されるところだった」
皆して大笑い。
「ところでリリーの縁談の方はどうなん? あたしもラブい話には目がないから、キュンキュンさせて欲しいんだけど」
あれ? いきなり皆微妙な表情ですけど。
「縁談が怒涛の攻勢で寄り切られそうなの?」
「当たっているな。有り体に言えば」
「有力候補の面々は皆有名な貴公子らしいじゃん。でもリリーは乗り気じゃないんだ?」
リリーの太い眉尻が下がると、すげー困ったような顔になるのな。
「不満、というのではないが、青っ白く弱っちく見えるのだ」
「ははあ? でも候補者の中には天才剣士がいるんじゃなかったっけ? どこぞの伯爵家の」
「しかし勝負したら我の方が強いだろうしの」
リリーの拳も基礎ができてる上に魔物との実戦で鍛えられている。
おそらくリリーのレベルの方が一〇は上だろうしな。
天才剣士の剣技がいくら優れていても、レベルの暴力には勝てまい。
「じゃ、リリーと勝負して勝てたら認めてやる、ではダメなん?」
「本気の勝負にはならぬであろう。普通に考えて」
「かもなー」
婚約者たらんとする皇女とガチバトルするような非紳士は、お相手候補にいないだろうしな。
「我の名代として、ユーラシアに対戦してもらいたいと考えているのだ」
「「「「「えっ?」」」」」
何ですと?
「あたしみたいなウルトラチャーミングビューティー相手では、名うての貴公子達は遠慮しちゃうだろ」
「そこはそれ、ユーラシアお得意の煽りで本気にさせてもいいし、客を一杯に入れた会場で圧倒的な力の差を見せつけてやってもいい」
「……あれ? 何だかすごく面白いイベントになっちゃいそーだね」
「ぬしなら相手にケガさせることもないだろうしの」
なるほど、ケガさせたくない思惑もあったのか。
リリーは優しいな。
「わかった。あたしに任せなよ」
「おお、引き受けてくれるか! 依頼料はどうすればいいかの?」
「いいよ。あたしとリリーの仲じゃないか」
「すまんの」
リリーの婚約者候補なんてのは帝国の有力者の子弟だ。
有力者予備軍と知り合える貴重なチャンスをくれるんだもんな。
あたしにしてみれば逃す手はない。
「日程決まったら教えてよ」
「明日こちらへ来るのであろ? その時に知らせよう」
「えっ? 早くね?」
いや、リリーもせっつかれているということか。
大変だな。
ウ殿下が言う。
「リリーのやろうとしていることは決して褒められないが、気持ちもわかるのだ。どうかよろしく頼む」
「あたしが出張るからには最高のエンターテインメントにしてみせるよ。じゃ、また明日」
「さらばだ」
転移の玉を起動し帰宅する。




