第1116話:精霊コユキと謎の老人
――――――――――一九四日目。
「悪くない。けど……」
「ファームね。プルプルフィーリングがナッシングね」
「ちょっと想像と違うもんができたな」
「寒天の量が多過ぎるのでしょうね」
「果汁も多いでやすぜ? もう少し軽い方が美味いでやす」
昨晩作った寒天レモンが冷え固まったので、食べてみての感想だ。
最初は要領がわからんから、うまくいかなくても仕方がない。
うちの子達も随分と舌が肥えてるしな。
しかし……。
「十分手応えあり。これはイケる。果汁を半分にして水を足す、寒天量を三分の一、砂糖はそのままでもう一度作ってみよう」
「「「了解!」」」
失敗作だけど、美少女精霊使いの感性を刺激するものではあった。
方向性は間違ってない。
次の試作品が楽しみだ。
「ダンテ、天気どうなのかな?」
昨日の夜から雨降ってるけど。
「ヘビーレインにはならないね。アフタヌーンにはやむけどナイトにはまたレイン、トゥモローはグッドウェザーね」
「むーん?」
雨の日には海の王国で昼御飯というのが、うちのパーティーの行動パターンではある。
でも昨日行ったところだしな?
「『雪の精霊』のクエスト行こうか。お土産にお肉持って。三日経ってるから、雪ん娘精霊も喋れるようになってるかもしれない」
「「「賛成!」」」
「よし、じゃあ今日は朝御飯軽めで。凄草サラダ食べたら行こうか」
「「「了解!」」」
でも雪降ってたら帰るけどね。
◇
「よーし、いい天気!」
「でも寒いでやすぜ」
「風がないだけいいじゃん」
『雪の精霊』の転送先にやって来た。
そりゃまあ周りは雪だらけなので寒い。
でも三日前よりかなり溶けていて、より見通しが利くようになっている。
「集落がハッキリ見えるわ。山の麓近くだったんだな」
「三日前より転送先が麓近くに変わったんじゃないでやすか?」
「そーかも」
まだ『雪の精霊』のクエストは終了したわけじゃない。
となると今日はここでイベントがある?
「雪崩が危険ですね」
「雪崩?」
積もった雪が崩れて押し寄せることだって。
何それ怖い。
ヤバいイベントはいらん。
「雪が解け始める春先は特に危ないんですよ」
「美少女精霊使いの見事な氷漬けができてしまうわ。あれ? 案外芸術的で悪くないかもな。ポーズを考えないと」
「もう、そういうのいいですから」
「雪崩警戒。『遊歩』をいつでも起動できる状態にしといてね」
「「「了解!」」」
「ダンテ、雪ん娘どこにいるかわかんない?」
かなりの魔力の持ち主だった。
他人の魔力に敏感なダンテなら辿れるのでは?
「コッチね」
「かったるい。飛んでいこう」
『遊歩』でびゅーん。
ってゆーほどでもない近さだ。
「アソコね」
「小屋があるがな」
雪崩の被害には遭わないであろう、谷脇の小高い位置の森に建てられた、かなり立派な山小屋だ。
「……変だね」
「変ですねえ」
「木材どこから運んできたんだろ?」
「そこですか」
丸太じゃなくてちゃんと製材した木でできた小屋なのだ。
クララが警戒するのもわかる。
おそらく大人数の人間で建てた小屋。
あの雪ん娘のものであるわけはない。
では捕らえられているのか?
乱れた魔力には思えないが……。
「姐御、行きやしょう」
「行くべし! あたし達は常に前に立ち塞がる敵を粉砕してきたから!」
「ザッツジャスティスね!」
さらに小屋に近付く。
あれ、何かくすぐったいような変な感覚があるな。
魔物除けの類だろうか?
中の気配を探る。
「……雪ん娘の他に誰かいるね」
「どうします?」
「もちろん正面突破だね。こんにちはー」
ここぞとばかりにパワープレイだ。
ドアを開ける。
「誰だ?」
驚いてるはずなのに声は穏やかだな。
白髪の老人だが、かなり鍛えられた肉体の持ち主だ。
レベルも高い。
「ぷあっ? ああ、よしよし。いい子だね」
雪ん娘が飛びついてきた。
「アリガトウ!」
「あっ、あんた喋れるようになったんだ? 名前聞かせて?」
「リッカノセイレイ、コユキ」
「コユキかあ。いい名前だね」
くるくると嬉しそうに飛び回るコユキ。
老人が言う。
「……君は精霊使いユーラシアだな? 『アトラスの冒険者』の?」
「そうだよ。じっちゃん、ここはどこかな?」
「場所か。カル帝国領ゼムリヤだ」
「ゼムリヤ?」
ナップザックから本になっている方の地図を取り出す。
「ユー様、ここです」
「なるほど。帝国でも端っこで、隣国と接してる場所か」
白髪の老人の太い眉が跳ね上がる。
「ほう、世界地図? これは驚きだ。ドーラのものか?」
「いや、違うの。これクエストで手に入れたお宝なんだ。ところであたしのこと知ってるんだ?」
帝国でも端っこの住人が知ってるってちょっとビックリだぞ?
あたしの名前ってそんなに天下に鳴り響いてるの?
「呆れるほどレベルの高い精霊連れの少女など、世界中探しても他におらんだろう?」
「じっちゃん、『少女』の前に『美』が抜けてるよ。重要な接頭語なんだ」
アハハと笑い合う。
「でもゼムリヤって難しい土地じゃね? 地図見ると」
老人が興味深げな表情になった。
「何故難しいと思う?」
「地理的にどうしたって戦争になりそう」
「ふむ、やはり国際政治力学の観点か」
地図を見る限り、他の帝国領とは山脈で仕切られ交流があんまりなさそうな感じだ。
普通だったら山脈が国境になりそうなものだけどな?
あたしは歴史を知らんけど、複雑な経緯やしがらみがあったに違いない。
帝国にとっては突出した出城みたいな地域になっていて、守備の要になるだろう。
一方で北の隣国にとってはぜひ手に入れたい地なのではないか?
「ゼムリヤはここ一五〇年、戦乱に巻き込まれておらんのだ」
「マジか、すごい。代々の領主さんが相当有能なんだねえ」
「しかし問題もあるのだ。当代領主に跡継ぎがなくてな」
「ヤバいなー」
説得力と存在感を持たないトップだと、統治手法だけ踏襲したって治まんないんじゃないの?
あたしには関係ないことではあるが、国が揉めると巡り巡ってこっちに影響出るかもしれないし、人死にが出ちゃう。
死んじゃうくらいならドーラに来て欲しい。
「ま、いーや。コユキちゃんと食べようかと思って、お肉持ってきたんだよ。じっちゃんも一緒に食べよ?」
「よいのか? では喜んで」
あたしも野外じゃなくて小屋の中で食べられるのは嬉しいのだ。
外寒いしな。




