第1109話:アリスもヴィルも可愛い
「六トン、こんなもんだろ」
「ユー様、三トン海の王国にそのまま持っていき、残りの三トンを捌いておくでいいですか?」
「うん、お願い。あたしはプリンス迎えに行ってくるね」
本の世界でコブタ肉を調達したところだ。
マスターのアリスにヴィルがぎゅーしてるが?
「ヴィルは時々ここへも来てるんだ?」
「来てるぬよ?」
「よーし、ヴィル偉い!」
「偉いだぬ!」
初めて本の世界に呼んだ時、遊んであげてって言ったの覚えてたんだろうな。
ヴィルは律儀だ。
「アリスはここにいて寂しくない?」
「……私は本の世界のマスターですから」
答えになっているような、なっていないような回答だ。
しかし、痛いほど気持ちはわかる。
管理人が他所に行くわけにはいかないだろうから。
「最近はあなた達が来るから大丈夫ですのよ」
「そお? 今でもここへ来るのはあたし達だけなんだ?」
「ええ。残念ながら」
アリスの知識は非常に有用だし、おいしいお肉だって狩れる。
本の世界はあたしの持つ転送先の中でも一、二を争う重要な場所なのは間違いない。
なのに誰も訪れないってことは、やはり来られないのか忘れられてるかどちらかなんだろう。
ここほど素敵なエリアを放置するなんて、異世界の本の世界を管轄する部署はどーなってるんだろうな?
「第一皇子のお葬式からこっち、帝国でのプリンスルキウスの評判はいかがかな? なかなかだってことは感じてるんだけど」
アリスから見た客観的なところが知りたい。
「立派な風采が、身分を問わず驚きをもって迎えられているわ」
「うんうん、だよねえ」
「現在は在ドーラ大使の職にあるということが、急速に知られ始めていますよ」
「ようやくかー」
遅いけど悪いことじゃないな。
逆にプリンスを変えた国という認識も現れるかもしれない。
相乗効果が働き始めると考えよう。
むしろプリンスとドーラが今までほとんど注目を浴びていなかったことが、人々の目には新鮮に映るかもしれない。
「チャンスなのに売るものがないのは残念だなー」
「ルキウス皇子には多くの縁談が発生しているわ。まだ決定した話として持ち込まれてはいないけれど」
「縁談? いや、当たり前か」
フィフィとの縁談がパーになって、おそらくは冷却期間だったはずだ。
それがプリンスの威容を見て、遅れてはならじと思惑が噴き出してきたか。
「一ヶ月を待たずして、一〇を下らない数の話が聞こえてくるわ」
「ふーん、アリスが言うなら確実か。せっかくのネタだからプリンスをからかえということだね?」
「えっ? そういう意図はなかったけれど」
慌てたようすのアリス。
あれ、人形なのに汗かいてるぞ?
まったくどういう仕組みなんだろ?
ともかくドーラに来る人は多くなりそうだ。
いや、縁談は商人が預かって持ってくるのかな?
「貿易に関わる商人さん達がプリンスに会いにくると思うんだけど」
「既に早船仕立てで三人がドーラに向かってるわ。明後日には到着予定よ」
「そーなの? 早くね?」
プリンスが昨日、武装商船でタムポートを出航してるのは見てたはず。
本来なら明後日じゃプリンスまだドーラに着いてないぞ?
とゆーことはドーラでプリンスを迎え、その意気込みなり忠誠なりを見てもらうつもりってことか。
やるなあ。
「プリンスが一番信頼してる商人がベンノさんって人なんだよ。うかうかできないね」
「ドーラに向かっている商人三人の内の一人がベンノよ」
「マジかよ。すごい争いになってるなあ」
おそらくベンノさんは本土でのプリンスフィーバーを目にし、現在ほぼ独占状態のドーラ貿易に危機感を感じているのだ。
シェアをなるべく奪われないよう、急ぎドーラにやってくるんだろう。
ベンノさんもまた非常に目が利くと言わざるを得ない。
でもベンノさんは最初からドーラに来てくれてるし、プリンスの覚えがいいからな?
「……商人同士に競わせたいけど、まあベンノさんは別格だな。いち早く駆けつける他二人の商人さんも優遇してやればいいか。プリンスが認めればだけど」
「あなたはそうやって考えている時、本当に楽しそうね」
「楽しそうだぬ!」
「思慮深い顔がとてもプリティだって?」
「え? プリティとは言ってないけれど」
「プリティだぬ!」
アハハと笑い合う。
「さて、今日は帰ろうかな。アリス、愛してるぞ」
「愛してるぬ!」
「まっ!」
転移の玉を起動、真っ赤になった可愛いアリスを残し帰宅する。
◇
「精霊使いユーラシア参上!」
「御主人!」
「よーし、ヴィルいい子!」
「やあ、いらっしゃい。待ってたよ」
行政府大使室にビーコンを運んでもらい、転移でやってきたわけだが。
ヴィルはいつも飛びついてくるなあ。
さっきまで一緒にいただろうに。
まったく可愛いんだから。
何故か大使室にいるパラキアスさんが聞いてくる。
「変わったことはあったか?」
「明後日、ベンノさんを含む三人の商人さんがドーラに来るってよ」
「「明後日?」」
「予定だけどね。これ確実な情報」
『全てを知る者』アリスに聞いたことだとわかるだろう。
プリンスとパラキアスさんが首をかしげる。
「随分と早いじゃないか。本来の船で移動だったら予はまだドーラに帰着していないはずだよ」
「大方大使の先回りをして驚かせようという所存でしょう」
「うん、だからプリンスは港で待ち構えて、三人をビックリさせて欲しいな」
「ハハハ、ユーラシアは本当にそういうのが好きだな」
「先手を取ることは大事なんだってばよ」
プリンスの実像をさらに大きく見せられるしな。
「プリンスの縁談についてだけど」
「縁談?」
いや、あんたのことだぞ?
不思議面されても。
「一ヶ月以内に一〇以上話が来るっぽい」
「ええ? 随分と多いね?」
「現金なものですな。よほど高レベル『威厳』の効果があったと見える」
パラキアスさんの言い方は冷たいが、クリークさんマックスさんアドルフは嬉しそう。
パラキアスさんも帝都でのプリンス人気を判断する材料の一つになるだろ。
「あたしからは以上でした。そーゆーつもりで準備しててね」
「ああ」
「じゃ、プリンス、マックスさん、行こうか」
「よろしく頼むよ」
これからプリンスを海底へ御招待し、昼食と海底の産物を見てもらうのだ。
転移の玉を起動し、プリンスとマックスさんを連れて帰宅する。




