第1099話:名前をつけてやる
「でもヴィルちゃんは可愛いですねえ」
悪魔ショックから抜け出したか、新聞記者がしみじみ言う。
抱っこしてやるか。
こっちのが頭を撫でてもらいやすいだろ。
「可愛いぬよ?」
「いい人もいれば嫌なやつもいるでしょ。悪魔だって一緒だよ。いい子もいるし悪い子もいる。ヴィルはいい子だよ」
ヴィルが頭を撫でられてニコニコしている。
ちょっとは偏見もなくなったろうか。
まーでもヴィルは例外だけどな。
あたしはクソガキな悪魔でも面白いと思えるけど、あんまり一般的な趣味嗜好とは思えない。
「で、今から行くひゃい子さんというのは?」
「名付け屋なんだ」
「「「名付け屋?」」」
わかりづらいとは思う。
カラザが説明する。
「正しくはビッケと言う名前でな。人やものや店の名前なんかを名付けていて、報酬をもらうという商売なんだ」
「それが商売になるんですか?」
「うちのヴィルが名付けてもらいたいっていうからさ」
「ユー子さんも名付けてもらってるんですよね? 何と?」
「『ウルトラチャーミングビューティー』だよ」
「ピッタリですね!」
「でしょ?」
ウルピウス殿下が解せぬ面を晒しておられる。
何故だ?
そーだ、新聞記者トリオに提案する。
「殿下がどう名付けられるか、興味ない?」
「「「あります!」」」
「よーし、決まった!」
「こら、予の許可を取れ!」
「何言ってんの。民草の要望に応えるのは、上に立つ者の務めだぞ?」
「そうか? もう一つ納得いかんが」
有名人が名付けてもらうって面白いだろ。
名付け屋ひゃい子の宣伝にもなるかな?
イガ頭が言う。
「いや、殿下。ビッケの名付けは天下一品です。必ず満足させますよ」
「ふむ? 推されると興味が出てくるものだな」
簡単に言うけど、必ず満足させる商売ってメッチャ難しいことだよな。
ひゃい子はすごい。
あたしも『ウルトラチャーミングビューティー』はツボだったしなー。
ひゃい子の才能は認めてる派。
さて、名付け屋にとうちゃーく。
「おい、ビッケ。お客さんだぞ!」
「ひゃっ、ありがとお!」
「何だ、こいつ」
「相当おかしいでしょ?」
イシュトバーンさんが足から頭まで赤い布に包まれた名付け屋をガン見している。
ウルピウス殿下もいかがわしいものを見るような目で見てるわ。
いや、あたしも初めて見た時何これって思ったけど、偉大な才能の前には格好とか割とどうでもいい。
「ひゃい子。今日は三人名付けてもらいに来たんだよ」
「ひゃっ?」
「まず前座。イシュトバーンさんだよ。よろしくね」
「ひゃい。ビッケいきます!」
ひゃい子の集中力が増すのがわかる。
空気が引き締まる。
「ひゃ? 『道具屋の目』!」
イシュトバーンさんが囁く。
「おい、こいつ『鑑定』持ちなのかよ?」
「うん。貴重な固有能力だよねえ」
「素直に鑑定士名乗った方が儲かるんじゃねえか?」
「それは言わない約束なんだ」
帝国ではあまり固有能力を調べる習慣がないみたいだし、裏町の鑑定士なんて信用されないだろうしな。
とゆーかこんなわけのわからん格好しながら鑑定士でございって言っても、客なんか来るわけない。
イコール儲からない。
「ひゃい、あなたのお名前は、『へそ曲がりのダンディー』!」
「おお、いいじゃねえか!」
「気に入ったの?」
「大いに気に入ったぜ!」
イシュトバーンさんの感性も謎だな?
謎なツボを的確に突いてくるひゃい子もやる。
まあお客さんが喜んでりゃいいや。
「トリは殿下かな。じゃあ次はヴィルをよろしく」
「お願いしますぬ!」
「ひゃい。ビッケいきます!」
再び高まる緊張感。
溜めるなあ。
「ひゃ? 『闇魔法』、『マジックポイント自動回復四%』、『いい子』?」
「あの幼女悪魔、固有能力三つ持ちだったのかよ?」
「知らなかったっけ? 『いい子』以外は割とどうでもいいけど」
精霊とか悪魔の持つ固有能力の数は多いみたいだよ。
ひゃい子が高らかに宣言する。
「ひゃい、あなたのお名前は、『ウルトラチャーミングいい子』!」
「おお、さすがひゃい子! ピッタリだ!」
「御主人とお揃いだぬ!」
よかったねえ。
ぎゅっとしてやる。
新聞記者が言う。
「思ったよりも面白いですね」
「でしょ? 最後はウルピウス殿下だよ」
「ひゃい。ビッケいきます!」
「うむ、頼むぞ」
ハハッ、ウ殿下かなり前のめりになってるじゃねーか。
「ひゃ? 『ヒットポイント自動回復四%』!」
「ウルピウス様も固有能力をお持ちなんですね」
「うん。こういうことも記事にできるねえ」
記者トリオもネタができて嬉しそうだ。
「ひゃい! 発表するです! あなたのお名前は、『若き鷹』!」
「おお、素晴らしいぞ!」
「ええ? 微妙じゃない?」
ウ殿下大喜びしてるけど、記者トリオの顔はもっと盛大なオチを期待してたようだぞ?
あたしだってユニークとゆーかズッコケとゆーか、もっと笑える名前を期待してたわ。
「予に相応しい二つ名だ!」
「失敗した。ヴィルをトリにすべきだった」
ウ殿下は御満悦のようだからまーいーや。
名付けた相手を満足させるというコンセプトだとしょうがないのか。
あくまで商売、周りを笑わせるためにやってるわけじゃないもんな。
「ひゃい子、ありがとう。これはお礼だよ」
ナップザックから透輝珠三つを取り出して渡す。
「ひゃい。また魔宝玉?」
「うん。あ、そーだ。あたしの住んでるところの近くの広場に名前をつけようかって話になってるんだよ。皆の了解取れたら、ひゃい子に頼んでいいかな?」
「ひゃい! もちろん!」
よしよし、楽しみだな。
ひゃい子なら皆に有無を言わせぬ名付けをするに違いない。
「お土産にお肉持ってきてるんだ。裏町の皆で食べて」
喜ぶカラザとイガ頭。
「おお、肉か。嬉しいな!」
「えっ、姐さん。何でそんなデカい肉が出てくるんですか?」
「このナップザックねえ、マジックアイテムなんだよ。口の大きさより小さいならいくらでも入るの」
「不思議なものをお持ちなんですねえ」
「記者さん達にもお肉あげるから食べてね。炙り焼きして塩かけて食べると最高だよ」
「「「ありがとうございます!」」」
ハハッ、魔物肉ということは隠しとこ。
美味ければ問題ないだろ。
あとで何かの機会に発表すれば、それはそれでエンタメだわ。
「じゃねー」
「バイバイぬ!」
裏町の諸君と新聞記者トリオに別れを告げ、皇宮へ戻る。




