第1098話:これもまたドーラに植えてみる
「おっちゃん、これ何?」
「落花生というんだ。土の中になる豆だぜ」
「へー」
裏町の八百屋さんで作物談義だ。
見たことのない作物について質問している。
有用なものはドーラで育てたい。
「土の中になるなんて珍しい豆だねえ。初めて知ったよ」
「王都郊外で作ってるんだが、あんまり有名じゃねえんだよな。美味いんだぜ?」
「どうやって食べるとおいしいかな?」
「殻ごと塩茹でか中身を煎るかだな。煎ったものはナッツの一種として珍重されるんだ」
「ふーん。あるだけもらってくよ」
以前クララが言っていた。
豆の類は暖かい気候が好きなんだそーな。
この変わった豆も帝国よりドーラの方がよく育つ可能性がある。
有望と見た。
「あるだけ? いいのかい?」
「うん。それからこれ、ヤマワサビだよね?」
「おお。『ワサビ』って言わねえところが、お嬢さんわかってるじゃねえか」
「涼しいところじゃないと育たないのかなあ?」
「でもないぜ? むしろ水の方が大事だ」
「水が大事なのかー。これもいくつかもらってく」
「よし、全部で四〇〇ゴールドだ。ちょっとまけとくぜ」
「おっちゃん、ありがとう!」
いやあ、いい買い物した。
ウ殿下が話しかけてくる。
「ドーラに植えるのか?」
「試験的に植えてみるんだ。いろんなもんを育ててみないと、ドーラに合ってるものや勝手のいいものがわかんないからね」
「ふむ、しかし裏町も賑わってるものだな。目抜き通りの商店街と変わらんではないか」
「安く店を出せるから、ニッチな需要に応える店が多いってよ」
さて、イシュトバーンさんはどこ行ったかな?
あ、本屋か。
「帝都周辺の地図だぜ。タムポートも載ってる」
「あたしも買っておこ」
さて、ひゃい子のところへ行くかと思った時、チンピラに囲まれた。
新聞記者トリオが縮こまる。
「「「ヒッ……」」」
「姐さん、お久しぶりです!」
バッと頭を下げる一同。
イガ頭チャカ以下の面々だ。
「こんにちはー」
「ね、姐さん、その子は……」
さすがイガ頭は『サーチャー』持ちだな。
ヴィルのレベルにいち早く気付いたらしい。
「うちの悪魔の子ヴィルだよ」
「よろしくお願いしますぬ!」
「おう、可愛いな!」
イガ頭はビビってるけど、取り巻きの連中はヴィルを撫でてくれている。
ビビられるとヴィルがいい感情を吸えなくなっちゃうなあ。
「こっちがウルピウス殿下、元商人のイシュトバーンさん、新聞記者さん達ね」
「う、ウルピウス様?」
一歩下がるチンピラ達に声をかけるウ殿下。
「いや、よいのだ。今日はユー子のお供だからな」
「新聞記者さん達も今後裏町に取材に来るかもしれないから、便宜計ってやってよ」
「姐さんがそう言われるならば」
「逆にアピールしたい、記事にして欲しいことを持ち込んだって構わないからね」
「記事に……ですか?」
わからないか。
あんまり新聞を利用するって考え方がないのかな?
イシュトバーンさんがこっち見てくるわ。
ウルピウス殿下にも新聞の使い方を教えてやれって?
了解。
「探しもの、探し人の依頼とか、大勢にいっぺんに告知したいこととかさ。あるいは政府に対する要望を、こういう声が市民から上がってるよみたいな記事を書いてもらったっていいでしょ」
「そ、んなことが?」
新聞記者が言う。
「もちろん公益に関わることは喜んで記事にさせていただきますよ」
「新聞が売れそーなネタだったら、もっと喜んでくれるぞ?」
アハハと笑い合う。
新聞記者さん達とは仲良くしとくといいよ。
便利だからね。
「ユー子さん、ユー子さん」
「ん? 何だろ?」
「先ほどからその子が『悪魔』と仰ってますが」
「うん、うちの悪魔だよ」
「悪魔ぬよ?」
「こんなに可愛い子が悪魔なんて、ちょっと信じられないんですが……」
「チャカの兄い。すげえ可愛い子ですぜ? 悪魔ってのはもっとおっかねえ見た目に違えねえ」
「おっかなくはないぬよ?」
うーん、悪魔を見たことないとやっぱ怖いって認識になっちゃうよな?
でも人を見かけで判断するのは間違いだぞ?
ヴィルは人じゃないけど。
「悪魔にも色々いるけどさ、高位魔族は大体見た目可愛いよ? とゆーか強大な魔力をコンパクトな身体に凝縮することができてこそ、最高位の魔族の証って聞いた」
イシュトバーンさんがつけ足す。
「負力と呼ばれる感情をエネルギーとし、闇魔法を使えるのも共通だな」
「ええとつまり、ヴィルちゃんは本当に悪魔であると?」
「だから悪魔だってば」
「悪魔ぬよ?」
「レベルカンストのすごい悪魔だ」
イガ頭が言う。
だから引くなよ。
ヴィルが嫌がるだろうが。
「悪魔は個性的でいろんなのがいるんだ。普通の悪魔は悪感情が好きで活動のために摂取するから、どうにかして人を嫌な気分にさせようとするの。でもうちのヴィルは好感情が好きないい子だよ。人間と敵対したりしないから心配いらない」
「いい子ぬよ?」
「頭撫でてもらったりするの大好きだから、可愛がってやってね」
「り、理屈はわかりましたが、やはり悪魔というのは……」
「まー積極的に関わることはないと思うけど、いい機会だからヴィルみたいないい子で慣れておくといいんじゃないの?」
「どういう意味ですか?」
「帝都にも高位魔族は何人かいるらしいんだ。悪い子と遭うかもしれないじゃん」
「「「「「「「「えっ!」」」」」」」」
驚くなよ。
やっぱり一般に開示してる情報ではないんだな。
「魔道で監視してるドルゴス宮廷魔道士長は、帝都在住の悪魔を把握してるみたいだったぞ?」
「そ、そんなに多くの悪魔が帝都メルエルに存在している?」
「感情をエサにしてるんだったら、人のたくさん住んでるところに居つきたくなるでしょ。常識で考えて」
だから愕然とした顔をするなとゆーのに。
状況は変わらんし、普通の悪魔を喜ばすだけだわ。
嫌な感情が漂い始めたか、ヴィルがあたしの頭にしがみついてくるがな。
よしよし、いい子だね。
「ど、どうしたらいいでしょう?」
「どうもこうも。嬉しい楽しいこと考えてりゃいいんじゃないの? よろしくない感情を抱えてりゃ、悪い悪魔が寄ってきても仕方ない。だって悪感情が大好きなんだもん」
「「「「「「「「……」」」」」」」」
深刻に考えることないぞ?
悪魔は無分別じゃないからね。
「さて、ひゃい子の店へ行こうか」




