第1094話:ヴィルのお仕事
「御主人!」
「よーし、ヴィルいい子!」
『雪の精霊』のクエストから家に帰ると間もなく、ヴィルもまた戻ってきた。
ヴィルには偽装船イベントでぶつかってきた相手の船のマークを頼んでいたのだが?
「御主人の父ちゃんがタムポートに到着したぬ! ぶつかってきた船を教えたぬよ。それを御主人に報告しろと言われたぬ」
「ふむふむ、もうタムポートに着いたのか。じゃ、帝国でのヴィルのお仕事はお終いだね。パラキアスさんに連絡しとこう」
「わかったぬ! 行ってくるぬ!」
ヴィルの姿が掻き消える。
本当に簡単に連絡できるからありがたいなあ。
『御主人、聞こえるかぬ?』
赤プレートから声がする。
「よく聞こえるよ」
『パラキアスだぬ。代わるぬ』
『パラキアスだ。ヴィルの帽子、可愛いじゃないか』
「でしょ? 耳が隠れると一見悪魔ってわかんないと思うからさ。これから街を連れ回す時に活用しようかと思って」
『ハハハ、いいな。オリオンについての報告か?』
「うん。タムポートに到着、ぶつかってきた船をヴィルが父ちゃんに教えたって」
『パーフェクトだ。あとは任せてくれ』
「何か向こうさんが可哀そうに思えてきた」
『いや、そうでもない』
ははあ、可能な限り搾り取るのではなくて、弱みを握って操る方向のようだ。
それは可哀そうじゃないって考えてるらしいところがパラキアスさんだなあ。
相手は何ちゃら商会だか金髪ブタ男爵だか知らんけど、因果応報だと思って適当にひどい目に遭ってください。
「今日の連絡は以上でーす」
『ああ、ありがとう』
「パラキアスさん、じゃねー。ヴィル、次イシュトバーンさんのところ行ってくれる?」
『はいだぬ!』
しばし待つ。
『おう、精霊使いか?』
「そうそう。ごめんね、声だけだとあたしのキューティーなところが伝わんなくて」
『あんたの声は瑞々しくて生きがいいんだぜ』
「おおっと、通信を介してもいいところが伝わってしまうのかー」
声を褒められたのは初めてかも。
「今日の午後時間空いちゃったんだ。帝都行くけど、イシュトバーンさんも行かない?」
『おお、連れてけ!』
「じゃ、あとで迎えに行くね」
エンターテインメントを提供してやろうって気持ちもあるんだけど、この前帝都のスラムの話が出た時、イシュトバーンさんは思うところがあるようだった。
帝都に行ったことがあるんじゃないかな。
となればあたしの知らないことを教えてもらえるかもしれないし。
『が、時間が空いたってどういうことだ? 何か予定あったのか?』
変なとこ疑問に思うのな?
イシュトバーンさんのエンタメを嗅ぎつける感覚はダン並み。
「昨日ギルドでおっぱいさんに『地図の石板』もらってさ、今までそのクエスト行ってたんだよ」
『ほう、わざわざあんたに回されるやつか。どんなのだ?』
「『雪の精霊』ってやつ」
『ははあ、精霊案件か。当然精霊使いが請けるべきだな』
「迅速な解決を求めるならね」
ファントムバインドは罠にかかった精霊を引っ張ればいいだけなので、普通の冒険者でも対応できるっちゃできるクエストではあった。
でもファントムバインドなんてあんまり知られてないだろうし、精霊の方も『精霊の友』じゃない人間は嫌だろうしな。
『さっそくその面白話を発表してくれ』
「えっ? 面白いと言った覚えはないけど」
『隠すなよ』
急かすなよ。
「『雪の精霊』っていうクエスト名通り、転送先行ったら吹雪でさ。メッチャ寒い。あたし雪見たの初めてだよ」
『ああ、ドーラは雪ほとんど降らねえよな』
「すげえ魔力が荒れ狂ってるの。ほこら守りの村のマーシャ並み」
『ほお? あんまり近寄りたくねえな』
「放出されてる魔力の方へ行ってみると、精霊が罠に捕まっててさ」
『罠?』
「ファントムバインドっていう、自然に魔力の流れが閉じちゃう現象があるんだ。精霊が取り込まれると自分じゃ抜け出せないの」
理屈から言えば悪魔が引っかかっても逃げられないはずだが、悪魔は皆例外なくレベルが高い。
警戒心が強いから近付かないんだと思う。
『聞いたことねえな』
「かなり稀な現象だって聞いたけど、あたしこれに引っかかった精霊助けるの四人目なんだよね」
『まあ、あんただから愉快な出来事に遭遇するんだろ。で、問題の雪の精霊はどうしたんだ? 仲間にしたのか?』
「いや、言葉が通じなくて」
『はん?』
イシュトバーンさんの反応もわかる。
あたしもどういうことかと思ったもん。
「通じないってのは違うな。まだ喋れないの。生まれたばかりで」
『そんなことがあるのかよ?』
「あたしも知らなかったんだ。うちの子達によると、精霊って何もしなくてもコモンズ話せるようになるんだって。生まれて数日で」
『てことは、生まれて数日以内の精霊?』
「みたいだよ?」
あたしも生まれたばっかの精霊に会うのは初めてだけど、喋れない以外は普通の精霊と変わらんしな?
「ちょっとわかんないのが、雪ん娘精霊を助けたのにクエスト終了扱いにならなかったんだよね」
『まだ何か面白イベントが残ってるんだな?』
「やっぱイシュトバーンさんもそう思う?」
面白いかどうかはわからんけど。
『ところで雪降ってる現地ってどこなんだ?』
「あ、わかんない。おっぱいさんは外国だって言ってたけど」
『そうか。おっぱいさんに会いてえな』
「おいこら、話変わってるぞ。あたしもおっぱい拝みたいけれども」
アハハと笑い合う。
「どっちにしても何度か通うことにはなると思うんだ。まだ雪ん娘の名前も知らないし」
『おう、どうせ思いもよらない展開になるんだろ?』
「そーなのかなー」
『間違いないぜ』
イシュトバーンさんもあたしの主人公補正を信じてるしな?
雪ん娘を引っぺがすだけの簡単なお仕事だったから、あたしも積極的にフラグ立てたい。
『また話してくれよ』
「うん。今度焼き肉パーティーしようと思うんだ。雪ん娘も食べたことないと思うし」
『ハハハ、いいじゃねえか』
うむ、世の中にはお肉とゆー素敵なものがあることを教えてやりたい。
「じゃ、昼過ぎにそっちに行くね」
『おう、あんた今からどうするんだ?』
「午前中まだ時間あるから、魔境で遊んでこようかと思って」
『そうか、じゃあな』
「ヴィル、ありがとう。オニオンさんとこ行っててくれる?」
『わかったぬ!』




