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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第1085話:搦め手からの幻術は

「サイナスさん、こんばんはー」


 夕食後、毎晩恒例のヴィル通信だ。


『ああ、こんばんは。ルキウス皇子とリリー皇女を送ってきたんだったか?』

「うん、ついさっき」


 そっちは特に何もなかった。

 明日第一皇子のお葬式で、プリンスは三日後に船に乗り込むから迎えに行く。

 リリーの予定はわからん、というだけだ。


「今日午前中は、悪役令嬢に冒険者のレクチャーしに塔の村行ってたんだ。あんまり悪くなくなっちゃったからフィフィって呼ぶけれども」

『随分飼い馴らしたんだね?』

「少々悪い子の方が、デレた時面白いんだよね」


 相当悪い子だとどうかな?

 あんまり面倒なのは関わりたくない気がするし。


『魔物退治の実地だったんだろう?』

「うん。冒険者活動以外にあたしが教えられることと言ったら、お淑やかな振舞いくらいしかないし」

『……』


 何だその沈黙は。

 不安になるわ。


『ユーラシアのジョークはさて置いてだ』

「どの辺にジョークがあったかはさて置いて」

『貴族令嬢が冒険者というのはちょっと想像しにくいんだが』


 サイナスさんは立派に冒険者してる皇族のリリーを見たことないからな。

 あんまり出自は関係ない気はしてる。


「フィフィ自身のステータス値が冒険者に向いてるとは思わんよ? でもやる気があるからね。パーティーとしてなら冒険者活動は問題なく務まるわ。執事さんがアイテムとかもよく知ってるから、普通に稼げる」

『で、君は実につまらんとか言い出すのか?』

「フィフィが働いてくれるのはドーラの利益だから、そんな不謹慎なことは言わないってばよ」


 あたしを何だと思っているのだ。

 ユーラシアさんだぞ?

 リリーが帝国へ行っていなくなったこともあるし、時々フィフィの様子を確認する必要はあるかもしれない。


『ディオゲネス族長代理とルカ族長の話はどうだったんだ?』

「ディオ君の方は予想通りの話だったな。セレシアさんが増産しろって言ってるのに対して、ディオ君が危機感を覚えてるという」

『レイノス店は好調なんだろう? カラーズ店もオレが見る限り好調だが?』

「売れ筋商品の傾向が違うんだよね。レイノスではセレシアさんの売りたいファッションがよく売れてて、当然カラーズでも同じだと思ってるから増産の指示出すじゃん? ところがカラーズで売れてるのはオーソドックスなやつばっかりだから」

『ははあ、セレシア族長がレイノスに出ずっぱりになってるから、カラーズの状況を把握していなかったと』

「そゆこと」


 セレシアさんのことだから、カラーズの状況を知ってもこっちであのファッションを売ること考えようとしただろうけどな。


「逆にディオ君はレイノスの店見たことないから、一度見てみたいと」

『ああ、レイノス店へ族長代理を連れていったんだな?』

「うん。イシュトバーンさんも含めて、三人でセレシアさん説得してさ」

『参考までに、どう説得したんだ?』

「いや、もう単純に裕福な都会じゃないとセレシアファッションは売れないぞーって」

『搦め手からの幻術は君のごまんとある長所の一つだろ。まだ何かやってるに違いない』


 長所だったか。

 でも幻術て。


「帝国進出狙ってるならデカい店にしないと相手にされないぞ。カラーズと移民の事情はディオ君の方がわかってるから、こっちの拡大は任せろって」

『ふむ、セレシア族長はレイノス店に専念か?』

「カトマスでは売れると思うんだよね。西域の物産も入るじゃん? 西に目を向けて考えろとは言ってある」


 西域もなるべく盛り上げてやりたいのだ。

 いい材料があれば取り入れたいしな。


『ルカ族長の脱落『アトラスの冒険者』の件は?』

「白の民のショップにいたから会ってきた。ミラ君って言う、二年くらい前の新人だって」

『今は立派な成人だろう? なのにどうしてルカ族長が世話を焼くんだ?』

「白魔法使いなんだ」

『ああ、なるほどな』


 回復魔法の『ヒール』や治癒魔法『キュア』の使い手が集落に一人いるといないのとでは、ケガした時や毒に当たった時の生存率が全然変わってしまう。

 レベルを上げさえすればさらに上級の蘇生魔法までも習得する白魔法使いを重く見るのは、すげーよくわかる。


「サイナスさんも『ヒール』使えたよねえ?」

『ああ。以前いい酒を手に入れた時に、デスさんと交換してもらったんだ』

「そーなの?」


 『ヒール』のスキルスクロールって五〇〇〇ゴールドだぞ?

 それと釣り合うお酒って?


『デスさんは自分でスクロール作れるからな。手間賃ってことだろ』

「じっちゃんがお酒好きってのは知らなかったよ」

『昔はカラーズで酒を手に入れるのは難しかったからな。輸送隊がレイノスから仕入れてくる商品でも、酒は一、二を争う人気だよ』

「へー」


 カラーズではどこもお酒造ってないのか。

 黒の民は得意そうに思えるけどな?


『カラーズでも造ってるのかもしれないが、酒精分濃度の高いいい酒はムリじゃないか? それに緩衝地帯で交流が始まる前は灰の民の穀物は出回らなかったし』

「今後はカラーズでもお酒を造れる環境になるかもとゆーことか。いい時代になったねえ」

『ん? 言葉と裏腹に邪悪さを感知したぞ?』

「邪悪だなんて。お酒を持っていきさえすれば、じっちゃんに言うこと聞かせられるんだなーと思っただけだよ」

『デスさん、ごめんなさい』

「おいしいお酒を手に入れられるところ見つけないとな」

『デスさん、ごめんなさい』


 何を謝り倒しているのだ。


「話戻すけど、過去脱落した『アトラスの冒険者』が復活した例はないんだそーな。でも落伍者は再び採用しないって規定があるわけじゃないみたいなんだよね。明日、白の民の白魔法使いミラ君を連れて、チュートリアルルーム行ってくるよ」

『見込みはありそうなのかい?』


 それがな?


「難しいと思う。『アトラスの冒険者』が最近脱落しなくなったから、人数が適正規模に達したと運営が考えてるみたいなの。新人も今月でとりあえず最後みたいなこと言ってたから」

『ははあ、タイミングが悪かったな』


 復帰可ならば一番いい。

 レベルが上がって冒険できりゃいいなら、他にもやりようはあるけどな。


「じゃ、サイナスさん、おやすみなさい」

『ああ、おやすみ』

「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」

『はいだぬ!』


 明日はミラ君と待ち合わせ。

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