第1086話:古の『アトラスの冒険者』
――――――――――一九〇日目。
「凄草は素晴らしいなー。パワーアップできる上にメッチャおいしいしなー。薬草の王様だねえ」
本日は凄草株分けの日。
畑番の精霊カカシ及び大悪魔バアルと話しながらの作業だ。
「バアルの宝箱から凄草出てきたことあったねえ」
「うむ」
「あれはどこで手に入れたの?」
「実は魔王島に群生地があるである」
「群生地? マジかよ!」
あ、カカシが食いついた。
「魔力の量が必要な上、その他条件もえらく厳しいんだぜ?」
「ふーん、魔王島って魔力が豊富な島なのか」
「生育条件は知らぬであるが、群生地があるのは本当である。ただし、さほど量は多くないである」
「へー。悪魔は皆凄草食べてるんだ?」
「いや、魔族は負力しか必要としないであるから興味ないである。おそらく吾しかその場所は知らぬである」
「あれ? バアルは魔王配下じゃないじゃん? 魔王島に入っても怒られないんだ?」
ウシ子に会うようになって気付いたことだが、悪魔は比較的ナワバリを重視するんじゃないか?
「魔王島は広いであるからして。魔王の支配が全域に及んでいるわけではないである」
「ふむふむ。参考になる情報だね」
カカシが言う。
「大悪魔は難しい薬草みたいなものにも興味があるのかい?」
「お宝に興味があるである」
バアルのお宝はほぼ素晴らしかった。
クララが大事にしているキモ人形ズも、激しく納得いかないが高価なものという話だしな?
「まーでもお宝がわかるってのは審美眼と知識があるんだねえ」
「照れるである」
「カカシの栽培技術もまた唯一無二だしなあ」
「照れるぜ」
「あたしはそんな二人の主人なのか。ヤバい照れる」
「ムリヤリ照れたな、ユーちゃんよ」
アハハと笑い合う。
クララの声が聞こえる。
「御飯ですよー」
「はーい」
一日の活力は朝御飯から生まれるのだ。
今日も頑張りまっしょい!
◇
フイィィーンシュパパパッ。
チュートリアルルームにやって来た。
「ユーちゃん、いらっしゃい。そちらが?」
「バエちゃんとは面識がないんだったな。ミラ君だよ。古の『アトラスの冒険者』」
「古の、って言うとカッコいい!」
「そ、そうですか?」
ミラ君がカッコいいわけじゃないけどな。
ともかく白の民ミラ君を連れてチュートリアルルームにやって来た。
やる気はあるので、『アトラスの冒険者』として復活させることができれば一番簡単なのだが。
「チュートリアルルームの今の係員のバエちゃんだよ」
「イシンバエワです。よろしくお願いします」
「こちらこそ」
雰囲気は非常によろしい。
結果もよろしければいいんだけど?
「運命の二択! ミラ君の復帰はいかに!」
「ごめんなさい、まだわからないの」
「あれっ? 気が削がれたぞ。まだわからないとは?」
「運営本部の見解としては、前例もないし認められないってことなんだけど、そんな規則はないってシスター・テレサが食い下がってるの」
「テレサさんが僕のために?」
「うん、この際都合よく判断しようか」
やはり脱落者を再雇用してはいけないという規則はないのか。
見込みはなくもないが……。
シュパパパッ。
誰か来た。
シスター・テレサだ。
「シスター、こんにちはー」
「ユーラシアさん。相変わらずの御活躍、ありがとうございます」
「テレサさん!」
「ミラさん、お久しぶりです」
「覚えててくれたんですね!」
「もちろんです。『白魔法』という有用な固有能力持ちでしたし、ぜひとも『アトラスの冒険者』としてやっていってもらいたかったです」
シスターの言葉の中にある過去形を敏感に感じ取る。
これは仕方ない。
『アトラスの冒険者』はもう新人も取らないって話だったし、管理や予算の都合もあるんだろう。
「ダメだったんだ?」
シスターが頷く。
「ええ、他ならぬユーラシアさんの頼みではありましたが、『アトラスの冒険者』の人数自体が飽和状態ということもあり、受け入れがたいと……」
「残念だなー」
ミラ君の手を取り、詫びるシスター。
「私の力が足りず、申し訳ありませんでした」
「い、いえ、とんでもない! テレサさんの手を煩わせてしまい、僕の方こそす、すいませんでしたっ!」
上気した顔のミラ君。
こら現係員、クネクネすんな。
萌えポイントはあったけれどもニヤニヤ。
「ごめんねシスター。協力してくれてありがとう」
「いえ、せっかくミラさんが再びやる気を出してくれたのに……痛恨の極みです」
「ミラ君みたいに、一度諦めちゃったけど復帰したいってケースは多いの?」
「いえ、私も約七年間チュートリアルルーム勤めをしておりましたが、ミラさんが初めてです。クエストがこなせないと転送魔法陣自体に拒否反応を覚えてしまうようですね」
「魔物退治でケガすると痛いしなー」
「一ヶ月の期限以降は、チュートリアルルームへ来る術も失われてしまいますし」
頷かざるを得ない。
最初は情報も少ないから、『アトラスの冒険者』がいかにありがたいものかを知る機会さえないんだよな。
考えてみりゃ残酷なシステムではある。
「じゃ、あたし達は帰るよ」
「ちょっとお待ちを! ミラさんは今後どうされるおつもりです?」
ミラ君がニコッとして言う。
「レベルが二になった時に習得した『ヒール』は一生の宝物です。この魔法を生かして、村の役に立ちたいと思います」
「ミラ君は偉いな。でもレベルが上がるとより役に立つ人材になれるよ」
「ユーちゃんがレベリングしてくれるの?」
「いや、今度の新人さんいるでしょ。『マッチョ』のブローン君だっけ? 開拓地の移民なら、ミラ君も会いに行けるよ。あっちはコテコテの前衛なんだから、白魔法使いなんか仲間に欲しいに決まってるでしょ」
「あっ、そうね!」
「今から行ってみるよ。年齢も近いし、性格さえ合えばパーティー組めるんじゃないの?」
シスターもバエちゃんも喜ばしげだ。
もっともブローン君の性格や冒険に対するスタンスはわからんから、必ずいい結果になるとは限らんけれども。
「ミラ君もそれでいいかな? 『アトラスの冒険者』のパーティーメンバーなら、今後もシスターに会う機会があるかもしれないぞ?」
「ええ、ぜひお願いしてみたいです!」
「よーし、決まった! シスター、バエちゃん、じゃーねー」
「お気をつけて」
「夜待ってるわよ」
転移の玉を起動し帰宅する。




