第1083話:商売の基本と言い張るつもり
イシュトバーンさんが聞いてくる。
「裏二号店計画ってのは何だ?」
「セレシアさんの店で一番ありそーなヤバいことは、在庫が増え過ぎて捌けなくなることじゃん?」
「だから増産には目を光らせておかなきゃいけねえんだけどな」
「在庫は定番商品にしとくでしょ? 在庫が積み上がってピンチになったら、クラシック・実用的・帝国風等がテーマの、セレシアさんの店と反対コンセプトの店をオープンする。定番商品だったら、セレシアさんの店でも新店でも売れるから」
だからそのえっちな目はやめろ。
「ははあ、新しいファッションを良しとしない購買層を拾い上げる。しかも対決姿勢を作って煽る。どっちが売れても青の民の儲けになり、生産コストも下がるってことか」
「そうそう」
「ズルいこと考えやがったな」
イシュトバーンさんだって細かい説明しなくても理解したし、ニヤニヤしてるだけで反対しないだろーが。
これはべつに商道徳に反してるわけじゃないわ。
「あたしにもイメージってもんがあるじゃん。ズルいゆーな」
「これで商売の基本と言い張るつもりかよ?」
「つもりだった。セレシアさんには内緒ね」
アハハと笑いながら、セレシアさんの店にとうちゃーく。
「こんにちはー」
「姉上、お久しぶりです」
「あら、皆さん。イシュトバーンさんもこんにちは」
「おう。商売繁盛で結構じゃねえか」
「ありがとうございます」
セレシアさん、上機嫌だね。
「ディオはどうしたの? レイノスは初めてではなくて?」
「はい。一度姉上の店の様子を見たくてですね……」
ディオ君がこっち見てくるけど知らんぷりする。
もうちょい自分で頑張れ。
「……姉上から増産の指示書が出ていましたが」
「支持が広がって順調ですからね。業容を拡大しないと!」
「しかしカラーズでは売れていないのです」
「何故にっ? 売れてるって聞いてたけどっ!」
「売れているのは定番品です。姉上のファッションの売れ行きは悪いです。どうも認識に齟齬があるようなので、ユーラシアさんに連れてきてもらいました」
よし、セレシアさんショック受けてる。
いいだろう。
あたしが説明する。
「セレシアさんの服を売るには条件があるんだよ。買う方がファッションに興味あってそれなりにおゼゼ持ってて、売り子が着てみせてセレシアさんのカリスマがないと売れない」
「ええ。定番服よりも価格は張りますし、やはり安い方に客は流れます」
「カラーズや開拓民相手じゃ、どう考えても売れるのは作業服っぽいやつだよ」
「じゃ、じゃあ値段を下げれば……」
「売れてるものの価格を下げて儲けを少なくしようとするのは、商人の発想じゃねえな」
「ブランド価値を落とすのはクリエイターの発想でもないぞ?」
ちょっと落ち着け。
「で、では、ワタシの服はこれ以上売れない?」
「とゆーか、これ以上売ろうとしなくていい」
「どういうこと?」
「ステータスなんだよ。ファッションの優位性は他の人と比べてどうかってことで、ありふれちゃうとつまんなくなっちゃう。本番は人口の多い帝国で売ることだぞ? 進出前に価値を下げちゃいけない」
ハハッ、ディオ君がビックリしてる。
新聞記者ズに輸出はムリって言っといて、セレシアさんには真逆の提案だからな。
「帝国で売れるかしら?」
「多分売れるね。でも今はダメ」
「どうして?」
「まだ青の民のショップは新興店に過ぎないから」
戸惑うセレシアさん。ディオ君が言う。
「新興店では難しいですか?」
「うん。帝都の商店街見たんだけどさ。中流以上向けと下層庶民向け裏町と、ハッキリ分かれちゃってるんだよね。当然セレシアさんのファッションを売ろうと思うと、中流以上向け狙いになるじゃん?」
「そうですね」
「でも出店する場所がないんだよ。場所の重要性はわかってると思うけど」
頷くセレシアさん。
レイノス店のロケーションは最高なのだ。
「とすると、既存の店と提携して売ることになる。いい場所持ってる店なんて格式高いに決まってるぞ? じゃあそーゆー店を乗り気にさせるにはどうすればいい?」
「……単なるドーラの新興店じゃ、押しがいかにも弱い」
「もっともっと実績が必要なんですね?」
「そゆこと。セレシアさんのファッションは、人の集まるカトマスでなら売れると思うんだ。カトマスはレイノスほど人口多くはないから、メチャメチャ売れたりはしないよ。けど西域には変わった服飾材があるから、役に立つものあるんじゃないかな。掘り起こしや発見を担当できる支店長候補を育てたいね」
「支店長候補、か」
人材は大事。
よーく考えてください。
「今拡充するなら定番品の方。何故なら移民がこれでもかってくらい増えていくから、そっちをお客さんとして確保しなきゃいけない」
「針子の熟練度は上がるし、一括で材料仕入れりゃ安い。いいことばかりだぜ」
「カラーズや移民の事情はレイノスにいたんじゃわかんないから、ディオ君に任せておけばいいよ。セレシアさんはレイノス以西を見てりゃいい」
ディオ君が嬉しそうになる。
これで生産コントロールできるだろ。
「となると、今すぐワタシのやるべきことは?」
「マーケティングと限定品かな」
「マーケティングと限定品?」
わかりにくいか。
「お客さんの欲しがるものを提供したいね。例えばあたしは冒険者だから、大きめポケットの多い上着は便利なんだよ。食堂で喜んで採用されそうなエプロンってどんな感じかな。夏暑い警備兵さんが飛びついて買いそうなシャツってどんなのかな、とか」
「なるほど……」
「限定品は言わずもがなかな。例えば今月は精霊の月じゃん? 精霊様グッズは今月だけ発売、とかだと欲しくなっちゃうでしょ?」
「そうですね!」
やり方はいろいろあるよ。
帝都へ進出できた時、競合店との争いを勝ち抜くために必要な感覚だと思うから、レイノスで修行してください。
「じゃ、あたし達は帰るね」
「姉上、カラーズと開拓地の需要については、自分が見ておきます。決して姉上の足は引っ張りませんので」
「任せたわ」
イシュトバーンさんがニヤニヤしてる。
ディオ君やるじゃねーかと思ってるんだろう。
足を引っ張らないとゆーか、カラーズと開拓地に販売にはセレシアさんを関与させないってことだからな。
セレシアさんの店を辞す。




