第1082話:締めるところは締めないと
フイィィーンシュパパパッ。
「こんにちはー」
「これは精霊使い殿。いらっしゃいませ」
レイノスのイシュトバーンさん家にやってきた。
すぐさま『遊歩』で飛んでくるイシュトバーンさん。
「おう、面白いことだな?」
「すかさずがっついてくるなあ。ノアとココちゃんどう?」
「ハハッ、今までより悪いってことはねえだろ」
うむ、やりたくもなかった仕事をさせられたり、人間関係が悪かったりするよりいいと思うよ。
レイノスは帝都に比べりゃちっちゃい町ではあるけど、ドーラで一番の都会だしね。
「ところでそいつは誰だ?」
「セレシアさんの弟のディオゲネス君だよ。青の民の族長代理」
「おう、よろしくな」
「初めまして」
ディオ君はあたしと大して歳変わんないけど、その眼差しは落ち着いていて見る者に安心感を与える。
「ほお、精霊使いが評価するだけあるじゃねえか」
「でしょ? 今日ディオ君はセレシアさんの店を見に来たんだ」
「何だ? また別嬪さん増産でも要請したのか?」
ズバリ賞だわ。
驚くディオ君。
「おわかりになりますか」
「イシュトバーンさんから見て、セレシアさんの店の調子どう?」
「繁盛してるぜ」
「あたしも心配なんだよな。ま、とにかく行こうか」
三人で出発。
「やあ、さすがにレイノスは都会ですね」
「ドーラにもこのくらいの町がたくさん欲しいねえ」
「帝都はレイノスの比じゃねえだろ」
「人は多いね。でも帝都は、皇族貴族が住んでるところと裏町では全然生活レベルが違うじゃん? ああいうのはあんまり好みじゃないというか」
貧富の差がある程度できちゃうのは仕方ないけど、身分の差はなー。
ディオ君が首をかしげる。
「帝都メルエルにはスラムもあるんでしょう?」
「スラム?」
「掃き溜めだぜ。食い詰め者と犯罪者の巣窟、希望のない臭え場所だ」
イシュトバーンさんには珍しい、吐き捨てるような言い方だ。
帝都のスラムに行ったことがあるのかもしれないな。
「スラムがないのはドーラの長所だ。市民権がねえこと、慢性的に労働力が足りてねえことが理由だろうが」
「そーなのか。覚えとこ」
スラムって市民権のない人が追いやられちゃうところか。
あれ? 帝国って市民権のない人はどうやって這い上がればいいんだ?
すげえ富豪がいるのはいいけど、すげえ貧乏な人はいなくなるべきなのになあ。
「ユーラシアさん、イシュトバーンさん!」
「密会ですか逢引きですかスキャンダルですか?」
「毎日来るなあ」
新聞記者ズでした。
「そちらの方は?」
「服屋の店長の弟ディオ君だよ。カラーズ青の民の村の族長代理」
「よろしくお願いします」
頭を下げるディオ君にビビる新聞記者ズ。
丁寧に挨拶されることないんだろうな。
「い、いえ、こちらこそ」
「レイノスには何か用があって?」
「姉の店を見に来たんです。場合によっては二号店も考えなくてはいけませんから」
「「二号店?」」
お、食いついた。
ディオ君やるなあ。
「おかげさまで売り上げが好調ですから。二号店は有力な選択肢の一つですね」
「例えば他の選択肢はどういうものがありますか?」
「西域には変わった材料があると聞きます。カトマスに拠点を設けて姉のインスピレーションに期待し、新製品を投入するとか」
「「ふんふん」」
「今後人口の増えるアルハーン平原の入植地は非常に有望です。移民に対してはカラーズが全面協力していますから、近い将来によりよい関係が築けると思います」
「大量の移民は掃討戦跡地へ行ったんですよね。そちらの情報はレイノスにあまり入ってこないんですが」
レイノスの新聞社だもんな。
移民の情報を手に入れる機会は限られるだろう。
ディオ君と視線を交わし、あたしが説明する。
「向こうは順調だよ。最初の移民は出国税の関係で持ってるもの皆取りあげられちゃってて、どうなることかと思った。ここまでは知ってるんだっけ?」
「「はい」」
「けど先月の移民はもうそんなことなかったんだ。穀物の種を持ってきてくれたし、水路も着々と掘り進めてるから、飢えることはなさそう」
「水路も主だったところは今年中に全面完成する見込みです。完成すればおそらく数十万人が住める土地になります」
「数十万人のお客さんだよ。大市場だねえ。やっぱ人の多いところじゃないと売れないから」
「人口の多い帝国への輸出も有力な選択肢です」
輸出で閃いたか、新聞記者ズが叫ぶ。
「あっ、あの美人絵画集?」
「表紙のあたしの服、結構流行ってるみたいだね」
ここのところちらほらレイノスの女の子が着ているのを見るのだ。
宣伝効果バツグンだね。
何たってモデルがいいから。
イシュトバーンさんも得意そうだね。
絵師がいいから。
「画集はレイノスだけで実売三〇〇〇部を超えたという話です!」
「カトマスにも出荷されて、さらに売り上げを伸ばしていると」
「カトマスでの販売も始まったか。帝国にも輸出されて大ヒットしちゃうんだよ」
「となると服の輸出も現実味を帯びてきます」
「ま、今は服の輸出はムリだけど、将来的には楽しみだね」
イシュトバーンさんはわかってるけど、ディオ君が眉を顰めてるぞ?
「ありがとうございました! 今日もいい記事が書けます!」
「じゃーねー」
新聞記者ズが喜んで去ってゆき、ディオ君が聞いてくる。
「ユーラシアさん、服の輸出が今はムリというのは? 何か自分の知らない要因がありますか?」
「いや、精霊使いは必ずしもムリだとは思っちゃいねえぜ。別嬪さんが記事読むと調子に乗るからだろ?」
「うん。これ以上あのファッションを増産しても、今は在庫になるだけだよ。輸出すれば捌けるかもしれないけど、綱渡りみたいなことしたくないし、セレシアさんを勘違いさせちゃう」
コケた時の損害がえらいことになってしまうわ。
セレシアさんを野放しにしてはいけない。
「カトマスと移民に売るルートをしっかりさせて、ドーラナンバーワンの実績を引っさげて帝国に乗り込むのがベスト。言うこと聞かないなら裏二号店計画も視野に」
「なるほど。ためになりますね」
ただセレシアさんの服は購買層に実際に見せなきゃ売れないだろうから、輸出が難しいことは事実なのだ。
仮にウケても輸送費で高くなっちゃうと、パチもんに押されちゃうかもしれないしな。
方法を考えないと。




