第1075話:悪魔の扱い方
――――――――――一八九日目。
フイィィーンシュパパパッ。
今日も塔の村にやって来た。
フィフィに冒険者としての手ほどきをすることを、リリーに頼まれたから。
フィフィ一行が到着したのは昨日の夕方だったろうから、まだあんまり塔の村のことは知らないんじゃないかな。
案内してやるか。
あれ、レイカとフィフィ?
「おまたせ、レイカがフィフィを見てくれてるんだ?」
「いや、たまたま会ったんだ。あちこち案内しておこうかと思って」
おお、気配りは嬉しいね。
不思議がるフィフィ。
「狭い村でしょう?」
「まあド田舎の何もない村だけど、冒険者にとって情報は大事だぞ?」
「ああ、顔繋ぎと情報収集の練習というわけね?」
「そゆこと。フィフィはまだ気付いてないだろうけど、この村は世界有数の大都市になる可能性があるんだ」
「まさか」
やりようによっては本当になるんだぞ?
興味深げなレイカパーティーと執事。
「執事さんは『永久鉱山』って知ってる?」
「魔力の条件が特殊で、内部の事物が損耗しないという理論上の存在ですね?」
「この塔のダンジョンが『永久鉱山』なんだ」
「えっ!」
この執事は物事をよく知ってるなあ。
知ってる人ほどこういう反応になるんだろう。
「『永久鉱山』が実在するというのは初耳です!」
「ねえ、マテウス。どういうことなの? 知識を披露してもよくってよ」
「お嬢様、この塔では有用な素材やアイテムをいくら採取しても、永遠に取り続けられるということです。これは大変なことでございます」
「でも逆にいくら魔物を狩ってもいなくならない、魔物の脅威は常につきまとうということでもあるんだ」
「……ということは、おいしい魔物をいつでも狩れるということね?」
「あんたの思考の方向はどこまでも前向きだなあ。感心するわ」
アハハと笑い合う。
そー聞こえないかもしれないけど、あたしは褒めてるんだぞ?
身体能力や固有能力以上に、やる気や考え方ってのは重要な気がする。
「レイカ、デス爺にフィフィを紹介した?」
「いや、まだだ。ノヴォリベツが思いの他のんびりできるところでな。昨日塔の村に帰着したのはユーラシアが来る直前くらいで、他に何もしていないんだ」
「そっか。でも食堂と宿は知ってるんだから、あとデス爺と道具屋とパワーカード屋を回ればいいね」
「任せていいか?」
「いいよ。レイカももう、地下に行ってるんでしょ?」
「いや、まだなんだ。今日これから最上階に行く予定だ」
とゆーことは、地下に入ってるのはエルだけか。
リリーも行ってるのかな?
「注意することあるだろうか?」
「ウシ子についてかな? 会うなりバカにしてくるかもしれないけど怒んないでね。レベル六〇近くはあるから、バトルになると勝負になんないぞ。持ち上げてやれば喜ぶし、買収も利くよ」
「なるほど、わかった。緊張するな」
「とゆーか三一階をクリアしないと地下に行けないんだっけ? どうすればクリア扱いになるの?」
「三一階に行った実績があればいいらしい」
一度行けばいいのか。
あたしも魔王について聞きたいことあるし。
「フィフィ、ウシ子に挨拶しとく?」
「ウシ子? 塔の最上階に住んでるという悪魔?」
「そうそう。ヴィルみたいにいい子ではないけど、まあそれなりに面白いよ」
「経験のために会ってみたいわ」
「いい心がけだね。レイカ、あたし達もついて行っていいかな?」
「ハハハ、ユーラシアが来てくれるなら、こっちこそありがたい」
「じゃ、行こうか」
三一階へ。
◇
「ウシ子、こんにちはー」
「あら、いらっしゃい。大勢なのねん?」
塔の最上階にやって来た。
ふむ、特に変化はない。
「こっちのレイカパーティーは地下にチャレンジするために、一度三一階に来なきゃいけないってことなんだ。で、そっちのフィフィ一行はこの村に来たばっかりで挨拶だよ。よろしくね」
「そうなのん? こちらこそよろしく」
機嫌がいいな。
ならば……。
「お土産だよ」
「黄珠? ありがとう!」
「ところであんた、魔王から召集かかってない?」
「かかってないのん」
「この前会わせたソル君いるじゃん? どうやら配下の悪魔を全て負かさないと魔王に会えないっていうクエストらしいんだよ」
「……ということは?」
「ウシ子だって魔王配下なんだから、ソル君パーティーがあんたをボコボコにしに来るかもしれない」
「えっ、えっ? 何の得もなくて痛そうなことは嫌なのん!」
慌てるウシ子。
実にコントロールしやすいなあ。
前にバアルはウシ子のことを残忍で強欲で悪魔らしい悪魔って言ってた。
つまり標準的な悪魔ってことなんじゃないかな。
じゃあ大体の悪魔は、ウィンウィンの取り引きを持ち出せば扱えると見た。
「でもソル君だってウシ子とケンカして嬉しいことはないんだよ。条件が条件だから争わざるを得ないだけ」
「ええっ? 互いに得のないことはバカバカしいのん!」
うん、ウシ子の感覚は実にまとも。
悪魔ということを除けば普通の子。
とゆーか悪魔って皆常識的なんじゃないの?
「じゃあ魔宝玉を渡せばウシ子はまいったする、とソル君に言っといてあげよう」
「ありがとうなのん!」
「代わりにあたしにも一つ教えてくれる? フクロウの悪魔いるじゃん。あの子はどれくらい魔王に信頼されてるのかな?」
「フクロウの悪魔というと、ゾラスのことね。どこかで尊敬の感情を集めて、魔王島に送っているという話なのん。功績は魔王様も大いに認めているのん」
「ふむふむ。じゃあフクちゃんの言うことなら魔王は聞いてくれるのかな?」
「フクちゃん? ま、まあゾラスの言うことならば、魔王様でも無視はできないと思うのん。でも魔王様は基本的に御自分でお決めになるのん」
つまりフクちゃんの発言は魔王に対してかなり影響力ありと見ていいな。
帝国軍のソロモコ侵攻を食い止めることができれば、フクちゃんの進言と合わせて魔王軍との戦争を避けることができる可能性は高い?
しかし魔王が自分で決めるというのは、不安なファクターだな。
「うん、ありがとう。ウシ子は頼りになるな」
「そ、そう?」
嬉しそう。
可愛いやつめ。
これまでに出会った悪魔は、皆それなりに魅力的だぞ?
「これはお礼だよ」
墨珠を渡す。
「いいのん?」
「いいよ。またね」
脱出魔法陣から外へ。




