第1067話:金髪ブタ男爵と秘密の部屋
「へー、金髪ブタ男爵ってメッチャ女グセが悪いんだ?」
「我々の新聞の愛読者の間では有名ですよ」
「新聞読んだことなかったけど、ゴシップ記事てんこ盛りだとゆーことは理解した」
「ハハッ、ハインリヒ様は、好みの女性は手当たり次第です」
「手当たり次第なのかー」
道々話をしながら行く。
ノアが緊張してるみたいだな。
茶番だからリラックスしなよ。
「ただ男爵御本人が、その、恰幅が良くていらっしゃるから……」
「節制できないデブなだけだ。みっともない」
不快そうなウルピウス殿下の言葉に苦笑する記者トリオ。
「あたしも金髪ブタ野郎って聞いてるだけで、男爵本人を見たことないんだよね。かなり太ってるんだ?」
「殿下の仰る通り、ハインリヒ様はただのデブではすまされないほどの体形でありまして」
「反動なのか自分にないものを求める性なのか、スマートな女性が好みなんですよ」
「ふーん、あたしはどうだろ?」
「ユー子さんは大変生命力に溢れていてチャーミングですから、絶対にストライクです」
「全然嬉しくないなあ」
アハハと笑い合う。
「でも問題にならないのかな? いや、デブの件じゃなくて、好みの女性は手当たり次第の件だけど」
「ハインリヒ様は独身ですので、自由な恋愛と言われればその通りですし」
「関係のあった女性にかなりのお金を渡しているケースもあるらしいですよ」
「お金持ちなんだ? 領地の経営とか難しいだろうにねえ」
「男爵領は豊かと聞きますね。懇意であるマリーベル商会を通じて、ムダなくお金に変えているのでしょう。羨ましいことです」
ふーん、商才はあるのか?
マリーベル商会に食い物にされてるだけかもしれないが。
「仲のいい皇族はいるのかなあ? ウルピウス殿下はブタ男爵をお気に召さないみたいだよ?」
「ハハハ、ドミティウス様とはお親しいようですね」
問題の第二皇子か。
一応繋がった、か?
権力者に近付きたいのは当たり前だから、何とも言えんけれども。
「着きましたね。男爵邸です」
男爵って低い爵位のはずだけど、お屋敷は周りと比べて特に遜色ない感じ。
爵位の割におゼゼがあるのは事実のようだな。
門番が一人、門は閉まってる。
ノアに目配せ、ちょっと眠らせるの待ってて。
「こんにちはー。にこっ」
「お、おう、こんにちは」
あれ、ビクっとした?
どうもあたしの笑顔は破壊力が強過ぎるみたい。
「新人の侍女見習いユー子です。よろしくお願いしまーす」
「うむ。いかにも旦那様好みの……いやいや、門を開けよう」
ガチャ、ガラガラ。
門が開いた、オーケーだ。
「ところで後ろの連中は何だ?」
「取材希望の新聞記者さん達だよ」
「ん? そんな話は聞いてない……ぐう」
門番が眠りに落ち、崩れ落ちる。
新人の侍女見習いが来る話は聞いてたのかしらん?
あたしの魅力でつい門を開けちゃったのかな?
「さあ、行こうか」
「今のは何です? いいんですか?」
「眠らせる技だよ。いいか悪いかについてはコメントしないけど、わざわざウルピウス殿下がついて来てることと金髪ブタ男爵の評判から察して」
「「「は、はい」」」
邸内に無事侵入成功。
◇
「中は結構大きいんだなあ」
外から見た時、大きさはそれほどでもないと思ったんだが、割とデカかった。
周りのお宅も皆デカいから、大きく感じなかっただけか。
さすがに貴族街は高級邸宅ばっかりだなあ。
顔を出した人を眠らせながら進む。
とゆーか、もう全員眠らせちゃったんじゃないかな?
「金髪ブタっぽい人はいなかったね。怖いもの見たさかもしれないけど、残念だった」
「帰領されているのかもしれませんね」
「ココちゃんっていう侍女に用があるんだけど」
「侍女の控え室は、おそらく一階でしょうが……」
「いなかったねえ。どうしよう?」
仕事で外に出てるのかな?
「ユー子さんユー子さん、ちょっとよろしいでしょうか?」
「何だろ?」
「ハインリヒ男爵邸の地下には、秘密の部屋があるとの噂があるんです」
「地下があるのか。秘密の部屋? 乙女の心をダイレクトに揺さぶる言葉だね」
そそられるじゃないか。
秘密とは暴くためにあるのだ。
「地下行ってみよう」
「うむ、地下にいるかもしれないしな」
「可能性は潰していかないとね」
後付けの軽薄な理由とともに階段を下りる。
「地下は広くないな。二部屋しかないじゃん」
「ええ、倉庫でしょうか?」
「秘密の部屋はどっちだろ?」
地下って言っても半地下だ。
上の方に窓があるから暗くない。
「はい、多数決行きまーす! 立派なドアとそうでないドアがあります。どっちから開ける?」
「「「「「立派な方!」」」」」
全員の意見の一致をみて、立派な方のドアを開ける。
そこには?
「うはー、これはこれは。何枚あるの?」
女性の肖像画がたくさん、しかも全部ヌードじゃん。
何じゃこりゃ?
新聞記者が何かに気付いたようだ。
「あ、これはロミリア夫人の肖像画ですね」
「誰?」
「ここにサリア嬢のがありますよ」
「だから誰?」
過去にブタ男爵と噂になった女性らしい。
ほんとだ、モデルさん皆スマート。
「てことは、過去のロマンスを絵にして全てここに保存してあるってこと?」
「おそらくは」
「ええ? すんごい数じゃん。どん引きなんだけど。男の人って皆そーなん?」
全員が一斉に首を振る。
特殊な趣味か。
「ハインリヒ男爵のスキャンダル! 隠された恥ずかしい趣味が明らかに!」
「しかし情報ソースをどう説明したものか……」
「ソースなんて気にしてるんだ? ま、ともかくもう一つの部屋も見とこうか」
ガチャガチャ、あら、カギ掛かってるぞ?
秘密の部屋の方に掛かってないのに?
「すいませーん、誰かいませんかー」
『は、はい』
「その声はココか!」
『ま、まさかお兄ちゃん? 死んだと聞かされて……』
「何をバカな! 俺はここにいる! ドアを開けてくれ!」
『閉じ込められているの。旦那様の言うことを聞けと……』
「はーい、皆さん聞いたかな? これは監禁です。直ちに救出しまーす。ココちゃん、危ないからドアから離れててね」
『わ、わかりました』
蹴りをくれたら扉板がすっ飛んでった。
ハイレベル乙女の常識というやつだね。
「ココちゃん。詳しい話はあとでするから、急いで荷物まとめてくれる? 脱出するよ」
「ココ、急ぐんだ!」
「は、はい、今すぐ」
よーし、撤収!




