第1066話:ブタに魔手はあるのか
――――――――――一八八日目。
「ごめんね。家のことはよろしく」
「大丈夫でやすぜ」
「モーマンタイね」
今日は『ララバイ』持ちノアと皇宮行きだ。
金髪ブタ男爵の屋敷から、ノアの妹ココちゃんを救い出す予定。
うちの子達にはゆっくりしててもらおう。
「ところであんた達、あたしがいない時はどうしてるの?」
「灰の民の村の図書室に行ったりですとか」
「『遊歩』で空の散歩は楽しいでやすぜ」
「ジャシンゾーを拝んでいるね」
「おいこらダンテ」
アハハと笑い合う。
まあ楽しく過ごしていてくれればいいのだ。
「じゃ、行ってくる!」
「行ってらっしゃい」
◇
フイィィーンシュパパパッ。
ノアを連れて皇宮へ到着。
「精霊使い君。いらっしゃい」
「おっはよー」
いつものようにサボっている土魔法使い近衛兵だ。
こいつ給料分働いてるのかな?
疑問なんだが。
「難しい顔をしてどうしたんだい?」
「いや、近衛兵の仕事の査定と給与体系はどーなってるのかな、と思って」
「ツッコみづらいじゃないか」
ツッコみたいじゃないか。
今日はそれどころじゃないけれども。
「で、そちらは誰だい?」
「暗殺者だよ」
「……聞き間違いかな? 愉快な単語が聞こえた気がする」
「動じないからつまらんなー」
アハハと笑い合う。
「彼にまつわるエトセトラで相談があるんだよ。お葬式前で忙しいと思うけど、リモネスのおっちゃん呼んでくれる?」
◇
「……ってわけで、残念ながら襲ってきた船には逃げられちゃったんだ」
「大事件ではないですか」
「うーん、実際にプリンスルキウスが襲われてたら大事件なんだけれども」
詰め所でリモネスさん、近衛兵長さんと、何故かいたウルピウス殿下をも交えて話をする。
ウ殿下がノアに問う。
「間違いはないんだな?」
「はい、俺がマリーベル商会に所属していたのも、子爵ヨーナス様と男爵ハインリヒ様の敵だから襲えと命じられたのも事実です」
リモネスさんが頷く。
ノアの言うことにやはりウソはない。
「何ということだ!」
「いや、殿下ちょっと待って。明らかなのはノアがマリーベル商会にいたことまでだよ。その子爵と男爵についてはどういう関係かまだわかんない。名前出されただけかもしれんし。でも背後関係を調べることはできるでしょ?」
「うむ、確かに」
実はマリーベル商会と二人の貴族は単なる商売上の付き合いのみで、ノアが言われたことはブラフだったかもしれない可能性はある。
死にゆくノアにウソ吐いたとも思えんし、ノアが死ぬことは金髪ブタ男爵に都合のいいことだったという状況証拠はあるけれども。
「とゆーところまでが前提条件としてさ。このノアのことなんだけど」
「ふむ。精霊使い殿、その『ララバイ』の効果とはいかほどで?」
「かなりヤバいの。耐性持ってないと、いくらレベル高くても眠らされちゃう。うちの子達レベルカンストしてるんだけど、全員おねんねだったよ」
「脅威ですな」
「マジでそう。敵ならね。でも味方だから大丈夫だぞ?」
ウ殿下近衛兵長さんリモネスさんが、ユーラシアの敵味方には節操がなさ過ぎるって顔してる。
あたしにはわかるからな?
リモネスさんが言う。
「それほどの能力持ちを使い捨ててきた、と?」
「む?」
ウ殿下もおかしいと気付いたらしい。
「死ねという命令にすら従順だったのだろう? 何故だ?」
「いくつか考えられるんだけど、ノアの妹さんが金髪ブタ男爵の屋敷で侍女やってるんだって」
「金髪ブタ……ああ、ハインリヒ男爵だな」
金髪ブタで通じるやん。
「どんな人なの? 金髪ブタ野郎としか聞いてないんだけど」
「女性には見境がないという噂ですな。幼女であろうと老女であろうと。未婚であろうと既婚であろうと」
「ある意味博愛主義者なのかな?」
「悪食で趣味が悪いだけだ」
ウ殿下が吐き捨てるように言う。
ふーむ? ウ殿下は嫌ってるみたいだな。
「で、ノアの妹さんが可愛らしいんだそーな。金髪ブタが妹さんを餌食にしようと思うと、強力な能力者である兄は邪魔じゃん?」
「なるほど、兄に反抗されると危ないということか。ブタ野郎に相応しい、汚らわしい理由ではないか」
「妹さんだけが理由じゃないのかもしれないけど、有力な仮説なんだよね」
「ふうむ。今日、精霊使い殿がお出でになったのは?」
「金髪ブタ屋敷に侵入して妹さんを救ってくるから、見逃してって言いに」
「「「……」」」
黙る三人。
しかし表情は違いますね。
近衛兵長さんは驚いてるし、リモネスさんは面白そうだし、ウ殿下は……。
「痛快だな! 予も参加させてくれ!」
「えっ?」
いいのか?
あんたは法を守らせる側じゃないのかよ?
「か弱き娘をブタの魔手から救う、高潔な騎士の振舞いではないか!」
「おお殿下! ありがとうございます! 御立派でございます!」
「ブタに魔手はあるのかなあ? 脚ばっかりじゃない?」
ブタとはかつて存在した家畜だ。
美味い肉質だそーな。
実際に見たことないからよくは知らんけれども。
ノアが感激してるわ、近衛兵長さんが動揺してるわ。
「せ、精霊使い殿……」
「いや、危険はないよ? 皆眠らせて妹さん連れだすだけだから」
「もし耐性持ちがいたら……」
「その時はごめんなさい。あたしが物理的に眠らせちゃう」
諦めたようだ。
まあでも本当にどうってことないぞ?
「じゃ、行こうか。一応殿下は顔隠しといてね。障りがあるといけないから」
「おお、わかった。楽しみだ!」
ハハッ、ウ殿下にも楽しみを提供したった。
いざ出発って、あれ?
「「「ユー子さん!」」」
新聞記者トリオでした。
新聞記者ってつるんで行動するのがデフォルトなのかな?
「おっはよー。ははーん、ネタがないから遊んでくれってことかな?」
「実はそうなんです!」
「先日の皇妃様呪殺未遂事件の真相の記事は大変好評だったんです!」
「デスクからはやればできるじゃないかって褒められて、うっうっ……」
何で泣くのよ。
もーしょうがないなあ。
「今から金髪ブタ屋敷にお邪魔するんだけど、記者さん達も行く?」
「金髪ブタ……ハインリヒ様の邸宅ですね? お供します!」
ウ殿下とノアがいいのかって顔してるけど、べつに構わないぞ?
「共犯者は多い方が都合がいいからね」
「えっ? ユー子さん、今何と?」
「何でもない、行くよー」
金髪ブタ屋敷にしゅっぱーつ!




