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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第1064話:人、それを臆病と呼ぶ

 イシュトバーンさんが得意げに胸を反らす。


「な? もう答え出てるだろ」

「……」

「えーあたし清純派だからわかんない。説明して?」

「あんたが清純派じゃねえとは言わないが、説明は必要ねえだろ」


 つまりブタ男爵が『ララバイ』使いノアの妹さんに懸想した。

 侍女にしとけばお手つきのチャンスなどいくらでもある。

 しかし側室ならともかく、つまみ食いなど強力な能力持ちの兄が怒り狂うから、先に始末しとけとゆーことか。


「説明されると一番もっともな理由に思えるなあ。さすがイシュトバーンさん」

「だろう? 襲撃者達はやり切った気でいるのに違いないぜ。『ララバイ』使いを沈む船に放置したことが伝われば、妹さんは男爵の毒牙にかかる」

「こ、こうしている間にもココは……」

「精霊使いに助けてもらえよ」

「うん、なかなかのエンターテインメントになりそうだから、手伝ってあげる」

「て、手伝う、とは?」

「決まってるじゃん。金髪ブタ男爵の屋敷に忍び込んで、妹さんをさらってくるんだよ」

「えっ!」


 何驚いてるのよ?

 他に方法なくない?


「帝都のお屋敷なんでしょ? 妹さんが勤めてる場所の位置くらいわかるんでしょ?」

「あ? ああ、もちろん」

「あんたが能力で眠らせながら屋敷の中探して、妹さん連れ帰ればよくない? もし睡眠抵抗持ちがいたらあたしが引き受けるから」

「し、しかしそれは犯罪だろう?」


 船長さん以下が遠い目してるけど。

 ノアの発言がトンチンカンだからだよね?

 あたしがブタ男爵の屋敷に乗り込むって言ってるからじゃないよね?


「あんたに犯罪の何たるかを説かれると思わなかったよ。でもあんたと妹さんはドーラ人になるんでしょ? 帝国の法なんて関係ないぞ?」

「だ、だが……」


 一度は死を覚悟したはずの人間が、何故態度を決めかねているのだ。

 ひょっとしてまだ、お世話になっているからみたいな呪縛から逃れてないのかな?

 ひとつねんれいをかさねてかがやきをましたじゅうろくさいびしょうじょのことだまよ、ちゅうちょするおとこのはいふをいぬけ!


「法や常識やしがらみに縛られて行動しないこと。あんたが放置を選択することだってありだろう。人、それを臆病と呼ぶんだぞ?」

「くっ!」


 頭を抱えるノア。

 が、すぐに頭を上げる。


「協力してくれるか?」

「おお、いい顔になったね。もちろんだよ」

「具体的にどうすればいいのか……」

「今日はよく寝てね。明日午前中に帝都メルエル行くから」

「え?」

「『アトラスの冒険者』の転送魔法陣で」

「そ、そうか。え? 君転送で帝都に行けるなら、船に乗る必要なかったんじゃないか?」


 こっちの事情を全然説明してないんだったね。


「よし、あんたはもうドーラの仲間だから、真実を話してあげよう。あんたが襲ったあの小型船、本来は在ドーラ大使の第四皇子ルキウス殿下が乗るはずだったんだ」

「えっ……ということは、ヨーナス様とハインリヒ様の共通の敵がルキウス様?」

「多分ね」


 直接の敵ってわけじゃないんじゃないかな。

 プリンスもいい人だから、積極的に敵を作りそうなタイプには思えない。


「ガレリウス第一皇子が亡くなり、皇帝陛下も病に臥せってるそうじゃん。次期皇帝争いはかなり激戦だよ。プリンスルキウスは堅実な政治手腕と温厚な人柄が評価されていて、次期皇帝争い割と有力くらいのところにいるんだ」

「次期皇帝争いに絡んだ思惑があって、ヨーナス様とハインリヒ様がルキウス様を亡き者にしようとした、と?」

「実際にはその二人の貴族と繋がってる皇子の意向だと思うけど」

「あんたを始末することもできるから、貴族や商会にとって船の襲撃は一石二鳥だったんだぜ?」

「妹御の件まで含めると一石三鳥ですな」

「朧げながら裏が……ではどうしてあの船に君が?」


 ハハッ、気付いたか。


「どうせ誰かがプリンスを暗殺しに来るだろうから、とっ捕まえて吐かせろってイベントだったの」

「い、イベント……」

「すげえ凝った攻撃されたから、あんたしか捕まえられなかったけど、まああんたもなかなかの収穫だったよ。今後ドーラの仲間としてよろしくね」

「お、おう、わかった」


 有能な人材が仲間になった。

 めでたしめでたし!


「で、ノアと妹さんはどこに住む? 大雑把に言ってここレイノスに住むか、他の移民達がいる田舎に住むかの選択になるけど」

「え? 無事妹を救い出してから考えればいいんじゃないかと思うんだが」

「何であんたとあたしがいて失敗するなんてことがあるんだよ。自信持て」

「ハハッ、こう見えて精霊使いは、ドーラ一レベルの高い冒険者なんだ。こいつが絡んでて下手をこくとは、ちょっと考えられねえな。斜め上の愉快な事態になることはあり得るが」

「あり得るぬ!」


 愉快な事態が待ってるらしいぞ?

 楽しみだな。


「わ、わかった? 俺の希望としては、田舎でゆっくり暮らしたい」

「農業は初めてかな? 土地は肥えてるから、皆に教えてもらってね」

「ああ」


 イシュトバーンさんが言う。


「おい、明日どうするんだ?」

「昼に行政府で御飯食べる予定なの。だからとっとと妹さん連れて帰らないと」

「そんな簡単にいくわけがないだろう!」

「簡単にいかない理由が特にあるとも思えないけどな? あっ、ブタ男爵の屋敷って、皇宮から遠いの?」

「皇宮から? いや、近いが」

「じゃあ大丈夫だよ。すぐ終わると思う」


 何を心配してるんだろうな?

 屋敷の人間片っ端から眠らせる。

 もし睡眠抵抗持ちがいたらあたしが気絶させる。

 で、妹さん連れ出すだけだぞ?

 あたしの脳内では既にミッションコンプリートしてるわ。


「行政府行くならオレも連れてけ」

「ん、わかった」


 ハハッ、イシュトバーンさんは面白いことに敏感だから。


「船長さん達も行政府に報告行った方がいいんだよね?」

「もちろんですぞ」

「じゃ、一緒に行こうか。御飯は大勢の方が楽しいしね」


 行政府だとうちの子達を連れていけないのが残念だが。


「イシュトバーンさん。悪いけど、船員さん達とノアを泊めてあげてくれる?」

「最初からそのつもりだぜ」

「さすが! 頼りになるう!」

「お世話になります」


 よーし、今日の仕事は終わり!


「じゃ、あたし達帰るね。明日朝に迎えに来るよ」

「ああ。わかった」

「バイバイぬ!」


 転移の玉を起動し帰宅する。

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