第1063話:妹さんが美人なんだろ
フイィィーンシュパパパッ。
「御主人!」
「よーし、ヴィルいい子!」
イシュトバーンさん家にやって来た。
先行させていたヴィルが飛びついてきたので、軽くハグしてやる。
「よう、待ってたぜ」
「急でごめんねえ。イシュトバーンさん」
「いいんだぜ。面白いことなんだろ?」
「うーん、結構なイベントではあったんだけど、あたし的には不満が残る内容なんだよ。今後の展開で埋め合わせしないと、収支がマイナスになってしまう」
「ハハッ、まあゆっくり話せよ」
屋敷に向かいながら、船長さん以下五人の船員と片目を隠した『ララバイ』の固有能力持ちノアを紹介する。
「ほお、『ララバイ』か。やるじゃねえか」
「油断してたわけじゃないんだけど、結構危なかったんだ。ガツンと船ぶつけてきて、沈みゆく船にノアが鎮魂歌を奏でるのでした」
「おお? 今日は芸風が違うな」
「エンタメ成分が足りなくてさ。挽回しないといけないの」
アハハと笑っていると、たまりかねたかのようにノアが言う。
「君には何故睡眠が効かないんだ?」
「あたし『自然抵抗』っていう固有能力持ってるの。睡眠には耐性があるんだ」
「睡眠無効じゃねえんだろ?」
「『ララバイ』は睡眠耐性があると効かないんじゃないかな。白の民ケスも『自然抵抗』持ちなんだけど、『ララバイ』効かないって言ってたもん」
こいつを玩具にするのか? いや、まだ聞けてないことがあるんだ。まず喋らせるんだな? そゆこと、あんまり余計なこと言わないでね。了解だぜ、というやり取りを、イシュトバーンさんとの目配せで行う。
「飯、できてるぜ」
「やたっ! いただきまーす!」
◇
「ごちそうさまっ! おいしかった!」
「おいしかったぬ!」
ヴィルは実際には食べないけどノリがいい。
皆のいい気分を吸って満足ってことかな。
いやー満腹になったことだし、帰って寝るか。
じゃなくて……。
「さて、じゃあ本日のお楽しみ、尋問の時間でーす」
ビクっとする片目を前髪で隠した男ノア。
べつにあんたを責めようってんじゃないから、リラックスしてくださいな。
エンターテインメントタイムだよ。
「まず、あたし達の船を狙った言い分を聞こうか」
ためらいながら話し出すノア。
実行部隊はどう聞かされてるんだろうな?
「……マリーベル商会と懇意にしていただいている貴族に、子爵ヨーナス様と男爵ハインリヒ様がいる。お二人の共通の敵が、あの船に乗っていると聞かされていた」
「敵、ね。沈めてしまえとゆー命令を受けていたんだ?」
「そうだ」
おお、断言ですね。
イシュトバーンさんと船長さんに目配せする。
何やら言う貴族に罪を擦りつける意図がないなら、プリンスルキウスの敵なのだろう。
「今となっては船を誤認したのだろうと思うが……」
「多分誤認じゃないぞ?」
「えっ?」
あとで説明してやんよ。
「もう一つ、あんたが身を賭してまでマリーベル商会を重んじるのは何故? 普通だったらあんた死んじゃうケースだったじゃないか。わかってたでしょ?」
「……わかってた」
「これは強制じゃないから、言いたくなければいいけれども」
「……大したことじゃない。聞いてもらおうか」
ノアが語り始める。
「よくある話だ。早くに親を亡くしてな。近しい親族もなく、俺と妹は孤児になった」
「うん」
カラーズでは孤児になっても皆が面倒を見てくれる。
考えてみれば幸せな環境だった。
「俺の眠らせる力を知ったマリーベル商会が、俺達二人を引き取って育ててくれたのだ。妹は現在、男爵ハインリヒ様の帝都邸で侍女として働いている。これも商会のおかげだ。商会には恩がある」
恩があるとゆーのはわからなくもないな。
ノアの『ララバイ』を利用したかっただけだろうが。
「今回の作戦、細かく説明されてた?」
「ああ」
「結構な犯罪の上、あんたを見限るつもりだったじゃん」
「絶対に失敗できない作戦だと聞いた。……俺が死んだあとも、妹を厚く遇することを約束してくれた」
ええ? んなわけないでしょ。
イシュトバーンさん及び船長と目が合う。
「最初はグー、じゃんけんぽん!」
「な、何だ?」
ノアが不思議そうな顔してるけど、話しづらい内容なんだってばよ。
「やたっ! 勝った!」
「ハハッ、イシュトバーン殿、お願いします」
「ちっ、ツイてないぜ」
「普段の行いが悪いからだよ、きっと」
面白くもなさそうにイシュトバーンさんがノアに話し出す。
「商人ってのは慈善活動家じゃねえ。損な取り引きはしねえんだ」
「えっ? まあそうだろうが」
「孤児二人を引き取った。マリーベル商会のメリットは何だと考えている?」
「メリット? い、いや……」
「あんたの『ララバイ』だぞ?」
「確かに能力を正しく伸ばしたい、とは言われたが……」
「正しく伸ばして汚れ仕事なん? おまけに明らかな犯罪に関与させた上使い捨て? 最初から最後まで辻褄が合っとらんだろーが」
「そ、それは……」
口ごもるノアに船長さんが言う。
「最初から固有能力を悪用するつもりで君を手駒にしたんだ。妹さんは人質だ」
「!」
「間違いねえな。自分でおかしいと思わなかったのか?」
「……」
世話になってると思ってちゃ、相手を疑う考えにならんのかも知れんけど。
「わかんないのは、どーしてノアがいらなくなっちゃったのかだねえ」
手に入れようと思ったって難しい人材だぞ?
しかも従順だし。
イシュトバーンさんが言う。
「顔が売れちまってもう使う機会がない。能力が強過ぎて恐れをなした。色々理由はあるんだろうが、まあ妹さんが美人なんだろ」
「「「「「「「は?」」」」」」」
総ツッコミだ。
何その理由?
「身寄りのない平民の孤児だぞ? 常識で考えて、貴族の屋敷の侍女になれるわけがねえだろ。下女がせいぜいだ」
「もっともだねえ」
「商会の紹介があったから……」
ギャグを挟んでくるなよ。
商会はもういいって。
今回の件だけでわかるじゃないか。
裏で何やってるかわからんし、ロクなもんじゃないぞ?
「妹さん、相当な可愛い子ちゃんなんだろ?」
「兄の贔屓目かもしれんが、可愛らしい方だと思う」
「奉公先の男爵ってどんなやつだ?」
「……女グセが悪いと陰口を叩かれている金髪ブタ野郎だ!」
「金髪ブタ野郎かー」
「金髪ブタ野郎だぬ!」
ちょっと雰囲気が柔らかくなったね。
ヴィルいい仕事だよ。




