第1062話:『ララバイ』使いと掛け合い
『私だ。首尾は?』
偽装船での航海から帰還後、行政府にヴィルで連絡を入れる。
やはりパラキアスさんは行政府にいたか。
御苦労さんだなあ。
「ごめんね、うまいことやられて船は沈んじゃった。でも全員無事に戻ってきたよ」
『そうか。何よりだ』
ホッとしてますか。
「やっぱドーラの海域を越えてすぐのところで襲いかかってきたわ」
『だろうな。どういう手段だった?』
「こっちより大きい船でドカっと突っ込まれてさ」
『要するに事故と言い張れるようにだな?』
「多分。まー予想の範囲内だったんだけど、一人送り込んできたんだよ。『ララバイ』の能力持ち」
『『ララバイ』? 眠らせる固有能力か?』
「そうそう。あれ術者と結構距離あっても有効なんだよね。船を体当たりで沈没させて、乗ってる人全員眠らせて何もできなくさせる作戦だった」
『……思ったより手の込んだことをしてきたな』
パラキアスさんも驚いてら。
でもこれは同感。
第一皇子の死後、準備時間も大してなかったはずなのにな。
あの距離で全員に効果を及ぼすことができるほどの強力な『ララバイ』持ちを、よく出動させることができたもんだ。
敵もさる者ひっかく者。
「よくわかんないのが、『ララバイ』持ちの人をこっちの船に乗せると、すぐ向こうの船離脱しちゃったんだ」
『それほどの人材を使い切りか。『ララバイ』持ちは納得していたようだったか?』
「うん。覚悟してたみたいだよ」
メッチャ使える人材だと思うけどなあ?
敵さんの方針に合わなくてポイされたんだろうか?
なのに素直に命令に従っている気配なのが解せぬ。
「おかげで船の方は追えなかったよ。一応ヴィルにマークさせてあるから、あとになっても見ればどの船だかはわかると思う。『ララバイ』持ちは気絶させて捕まえてきた」
『ほう、よくやった』
ええ? 褒められる成果じゃなかったんだけど。
まあ全員ケガもなく無事だったからいいか。
「で、『ララバイ』持ちは何か事情があるんだろうから、今から起こして聞こうかと思ってるんだ」
『ハハハ、楽しみが残ってるんだな?』
「残念ながら、今回そこにしかエンターテインメントがなかったんだもん」
消化不良もいいところだ。
あたしの温泉イベントを返せ。
「明日行政府に行くね。多分昼頃」
『うむ、待っているよ』
「パラキアスさん、じゃーねー。皆さんによろしく」
『では明日』
「ヴィル、ありがとう。こっちへ来てくれる?」
『はいだぬ!』
よし、連絡終わりと。
◇
ぺしぺし、ぺしぺし。
「おはよう。朝だよー。朝じゃないけど」
「ん……」
頬っぺたをぺしぺしすると片目を隠した男の意識が戻り、急いで飛び起きる。
「おー、ようやく起きたか」
「な、何だお前達は」
「記憶力が悪いなー。自分が襲った船の面々も忘れちゃったのかよ」
「!」
すかさず構えを取る男。
船長さんが言う。
「それが眠らせる技か?」
「いや、あれねえ。『ララバイ』っていう眠らせる固有能力なんだよ。レベル一〇くらいで彼くらい使いこなしてるってのは、よっぽど強く発現してるんだと思うけど」
「何故わかるんだ!」
「見ればわかるとゆーのに。なかなかかっちょいい声だね」
ややハスキーな艶のある声だ。
子守唄歌われたら寝ちゃいそう。
「まあ構えを解きなよ。あたし達はあんたの敵じゃないから」
「答えろ! ここはどこだ!」
「え? あたしん家だけど」
「お前の家はどこにある!」
「ここ」
船員達が笑い出す。
冗談だってばよ。
「からかってるのか!」
「ごめんよ。今日エンターテインメント成分が少なくてさ。ちょっと掛け合いを楽しみたい気分だったんだ」
「そんなことは聞いていない」
「地理的にゆーと、ここはドーラ大陸アルハーン平原の片隅だよ」
「ど、ドーラ?」
混乱しているようだ。
ムリもない。
沈む間際の船のことまでは覚えてるだろうからな。
「あたしは『アトラスの冒険者』って言ってさ……」
『アトラスの冒険者』と転移の玉の仕組みについて簡単に説明する。
「……知らなかった。転移などというものがあるとは」
「あんたは帝国本土の人なんでしょ?」
「……ああ」
ちょっと折れてきたな。
「で、やらされてただろうあんた個人には特に文句はないけど、あんたの雇い主には文句があるんだ。大体船ぶつけてきて逃げちゃうってどういう了見だ!」
「そ、それは……」
「船の持ち主か船長教えろ! 損害賠償並びに慰謝料を請求する!」
しらばっくれて聞いてみたが、どういう言い訳するだろ?
「ふ、船はマリーベル商会のもので……」
「マリーベル商会ね。あんたの名前は? その商会に勤めてるの?」
「お、俺の名はノア。確かにマリーベル商会の構成員だが……」
「汚れ仕事担当してたんだ?」
「!」
驚くようなことじゃないだろ。
「誤魔化そうとしたってムダだぞ? 船衝突させて沈めようとした上、『ララバイ』の能力者送り込んでくるなんて念の入ってることじゃないか」
「い、いや、今さら言えた義理じゃないが、行き違いがあったようで……」
「ドーラ人はマリーベル商会なんて知らないし、恨みを買う覚えもない。さては海賊だな? 海賊行為は御法度だぞ? 証拠も揃ってるから訴える! 不埒な商会は潰れろ!」
ハハッ、証拠なんてないけどすこーし吹いたった。
目が泳いでるじゃないか。
「といっても、何か錯誤があるのかもしれないから、あんたの知ってることを順に話しなさい。それで判断するよ。場合によっては賠償金割増しで勘弁してやるから」
「わ、わかった」
このノアという男は、自らを犠牲にこちら全員を巻き込もうとした。
とゆーことは、自分の命を捨ててもマリーベル商会に尽くさなきゃいけない理由があるらしい?
ならば商会潰れろは肝が冷えるだろう。
「ところであんた、ドーラ人になる気はない?」
「えっ?」
「ドーラは優秀な人に来て欲しいんだよ。あんたはもう、マリーベル商会には帰れないんでしょ?」
「……」
ハハッ、考えてる考えてる。
おそらく死ぬつもりだったのに命が繋がったから。
当面これくらい心を揺らしておけばいいだろ。
後々やりやすい。
「ま、あんたの所属問題は置いとくとして、御飯食べに行こうよ。あたしもお腹減っちゃって」
「待ってくれ!」
「何だろ?」
「君の名を教えてくれ」
「美少女精霊使いユーラシアだよ」




