第1059話:船長さんと仲良く
――――――――――一八七日目。
レイノス知事のオルムスさんが呆れたように言う。
「本当に便利だなあ」
「便利ぬよ?」
「あんたがいい子だからだぞ?」
ヴィルワープと転移のコンビネーションはマジ便利。
ヴィルをぎゅっとしてやる。
今日はプリンスルキウスとリリーを乗せたフリをした偽装船を、帝国に向けて出航させる日だ。
朝からうちの子達とレイノス港に転移してきた。
さすがに精霊とともにレイノス歩くと騒ぎになっちゃうからね。
パラキアスさんが言う。
「ドーラに報せをもたらした早船が、帝国帰還時に怪しい中型船に接触した」
「おおう、早船って帝国政府からの連絡船なのに、怪しい船と繋がりがあるのか。とゆーことはつまり?」
「まず間違いなく襲撃されるということだ。しかも今日中に」
「やたっ! 楽しみだなー」
五人の船員さん達が強張った顔をしている。
あたしばかりが楽しんじゃってごめんよ。
このエンタメを分かち合いたいものだ。
「大丈夫だよ。もし船がやられちゃっても、皆さんはあたしが責任持ってドーラに連れ帰るからね」
「あ、ああ、よろしく頼む」
船長さんと握手する。
「……パラキアスさん、全然疲れた顔してないね?」
「いや、今日はゆっくりするよ」
睡眠時間削って早船の後をつけてたんだろうに。
あたしは寝る間を惜しんでなんてのは苦手だから、素直にすごいと思う。
「ええと、これ。あったかパワーカードの今月納入分ね」
「あっ、すまない。今金を持ってきてないんだ」
「事後に報告に行くから、その時でいいよ。じゃ、行ってくる!」
「ああ、気をつけて」
パラキアスさんとオルムスさんに見送られて、密かに出航!
◇
「へー、石炭」
「おう、家庭用では薪を使うからあまり見ないだろう?」
「うん、初めて見た」
「動力船の燃料は大概これなんだ。帝国では工場でも使われているな」
「さすが帝国は進んでるなー」
海を行く船の中で、船長さんと話をする。
ちなみにヴィルは警戒のため、偵察に出てもらっている。
「石炭とゆーものは、今までのあたしの人生で縁がなかったわ」
「石炭は燃やした時の熱量が薪よりずっと上なんだ」
「……とゆーことは、燃料として薪よりずっとパワーがある。積む量が少なくていいから、船には向いてる?」
「正しいね」
ふーん、なるほどな。
当然燃料に食われる積載スペースが小さくなる方が船には向いてる。
船に限ったことではないか。
高効率の燃料が求められていくと。
「しかし、煙で空気が汚れるだろう?」
「わかる。薪でも一緒だけど」
「人口が多いほど煙による空気の汚染は問題になる。また大型工場で使う石炭の量は多いから……」
「そーか、空気が汚くなって住みづらくなっちゃうのか」
「精霊使いは理解が早いな」
早いんだよ。
でも空気の汚染の問題はドーラでも他人事じゃないな。
今はまだ人口密度が低いし、産業も発達していないからいいけど。
「空気の汚染の問題を解決するために、帝国の宮廷魔道士達は空気を汚染しない魔力炉というものを開発しているらしいな」
「あっ、魔力炉見たことある!」
「何? どこで?」
船長さん、ビックリしてら。
「飛空艇っていう、空飛ぶ軍艦の中で。ドーラ独立の前に、帝国艦隊がレイノスを囲んだことあったじゃん? あの時に対ドーラ決戦兵器として投入されるはずだったやつ」
「ドーラ独立の裏に隠された事件か。で、その空飛ぶ軍艦はどうした?」
「ドーラに持ってきてドカドカ爆弾落とすんじゃ困るじゃん? 帝国の山岳地帯で試運転してた時に、飛行魔法で乗り込んで壊した」
「ははあ?」
可愛いからってジロジロ見んな。
「精霊使いは相当デタラメだって噂は聞いていたが」
「相当美少女だって噂に上書きしておいてよ」
まったく迷惑だな。
「帝国は再征服する決定力がなくなったから、ドーラの独立を認めてことを収めようとしたのか。ドーラ独立の経緯はおかしいと思ってたんだ」
「でも飛空艇で、魔力炉は魔道結界の展開に使われてたんだよ。艦を飛ばす動力炉は別に積んでたの」
「ふうん? 面白い情報だな。じゃあまだ魔力炉は動力に使えるほど信頼性がないのか推力が足りないのか、あるいは長時間の連続運転が利かないのかもしれない。いずれにせよ未完成なのは間違いないだろう」
「未完成だったのかー」
魔力炉は決して軍用だけに開発されていたわけじゃないんだな。
飛空艇での運用実績がフィードバックされて研究が進むはずだったろうに、メタメタに壊しちゃったのは悪いことした。
「ドーラでも魔力の利用を考えなきゃいけないねえ」
「え? でも研究機関がないだろう?」
「ないんだけれども、空気が汚くなるのは何か嫌だもん」
「ハハッ、そうだな」
魔力炉をドーラで開発するのはムリだ。
莫大な研究費とマンパワーが必要だろう。
それこそ帝国みたいな国じゃないと開発できないだろうし、今から帝国に追いつこうとするのはさらに無謀。
かといって飛空艇があんだけ厳重な機密だったんだから、魔力炉の情報なんか明かしてくれるわけない。
「マルーさんって知ってる?」
「『強欲魔女』か? 名前だけは」
「マルーさんに地中の魔力を吸い上げて溜めておく、って技術は教えてもらったんだ。うまいこと使えれば煙も出ないし、いい感じ」
「ほう? 色々応用は利きそうだが」
船長さんもそう思うか。
しかし……。
「黒妖石っていう特殊な石が必要なんだよね。だから広めるのはムリかもなあ。あっ、船長さんにこれあげる」
ナップザックから『光る石』スタンドを取り出して渡す。
「これは?」
「さっき言ってた魔力を溜めておくって考え方の産物だよ。身体から流す魔力を溜めて『光る石』をしばらく手放しでも使えるようにするスタンド」
「便利なものじゃないか。精霊使いの発明品か?」
「まあ。でもあたしは夜はしっかり寝る派だから、どーも便利さがわからないというか」
「ありがたくもらおう」
「これ多分帝国にはない技術なんだ。なるべく向こうの人に見せないでね」
「うむ、寝室に置いておくか」
喜んでもらえた。
船長さんはいろんな物事を知ってる人だ。
また変わったことを教えてもらえるかもしれないから仲良くしておこう。
「魚は食べられるか?」
「あっ、食べる食べる!」
「そろそろ昼御飯にしよう」
「やたっ!」




