第1057話:楽しい謀略
クララの解体精肉の神技はマッドオーロックスにも有効だった。
もう一体もう一体ってアンコールが起きてたわ。
その包丁捌きに皆が驚いている間に、行政府へこっそりヴィルを飛ばす。
『やあ、ユーラシア君だね?』
「プリンスこんにちはー」
プリンスに繋がったということは、パラキアスさんは留守か。
「進展はあった?」
『昼頃に帝国からの早船が到着、内容は想像の通りだ。兄上逝去についてと葬儀の日程についてだな』
「うん、予想通り。お葬式の日程は変わんないよね?」
『うむ、四日後の午後だ』
「どういうふうに返事してるのかな?」
『葬儀には出席する、明日朝に出発すると』
「やたっ! 楽しみだなー」
ということは明日朝に偽装船が出発か。
無事襲われるといいなあ。
あれ? 無事襲われるってのは、言葉がおかしい気がする。
『今、パラキアス殿が帰途に就いた連絡の早船を追っている』
「え?」
報せの早船が怪しい、襲撃者とつるんでるかもしれないと見たか。
明日何か教えてくれるだろ。
『オルムス知事の方からは、明日朝なるべく目立たないよう、レイノス港へ直接来てくれとのことだ』
「了解でーす」
『それから別件だが、例の『ウォームプレート』と『クールプレート』、来月に一五〇枚ずつ注文された。『ウォームプレート』が大人気で、正直これからの季節には売れまいが、来年用に確保しておきたいとのこと。『クールプレート』も同様で夏までに枚数が欲しいとのことだ』
「あっ、ありがとう! 今月納入分の『ウォームプレート』はもう受け取ってるから、明日港で渡すね」
『うむ、予は港に姿を見せられぬが、オルムス知事にお願いする』
「わかった」
暖を取るための器具としては正直お高めの値段だと思うが、お手軽だし無茶しなきゃ壊れないし燃料がいらない。
触りさえすれば良さがわかってもらえるとは思っていた。
大人気ってのは嬉しいね。
『『文字を覚えるための嵌め込みゲーム』と水魔法のスキルスクロールも今月から本格輸出だ。商人ベンノからかなりの手ごたえと聞いているよ』
「ありがとう! プリンスのおかげだなあ」
『いや、予も助かっているのだ。今後ともよろしく頼む』
よしよし、商売は順調と。
「じゃ、三日後の夜に迎えに行くね」
『うむ、待っているよ』
「ヴィル、ありがとう。こっちへおいで」
『わかったぬ!』
不意に声をかけられる。
「ユーラシア」
「おおう!」
「どこかへ連絡していたな? 乙女の企みか? 悪くないだろう」
何かに感付いたか、笑うデミアン。
まあ話しておくか。
執事さんも呼ぶ。
「執事さんは知ってるけど、帝国の第一皇子ガレリウス殿下が三日前に亡くなったんだ」
「第一皇子……皇位継承権一位の皇子か?」
「うん。亡くなった前の皇妃様の子って聞いた。元々病弱ではあったらしいけど」
「ほう、大事だな。悪くない」
どう悪くないんだよ。
デミアンの感覚はわからねえ。
「報せの早船がドーラに来たのが今日の昼頃なの」
「ん? それでどうして執事が知っているんだ?」
「うちのヴィルの知り合いの悪魔が帝国について調べてたんだ。たまたま第一皇子が亡くなったことをごく早い段階でキャッチしてて、ヴィル経由であたしに教えてくれたの。それを伝えてたから」
「謎ネットワーク悪くない」
「で、四日後の午後に葬儀なんだ。明日の朝一に在ドーラ大使のプリンスルキウスが葬儀に出席するように装って船を出す」
「……実際には?」
感付いたか。
さすがだな。
「あたしは帝国皇宮に繋がる転送魔法陣を持ってるから、プリンスと塔の村にいるリリーを送る予定。で、明日ドーラから出す船にはあたしが乗り込む」
「えっ?」
驚く執事。
「だからあたし明日こっち来られないんだよ。次はノヴォリベツって自由開拓民集落に泊まってね。温泉があるって。でも肝心のあたしが温泉イベントに参加できないってひどくない?」
「ハハッ、話が脱線してるぞ。悪くないが」
「温泉はどっかで機会作ればいいんだった。帝国の次期皇帝候補事情ね? 本命が主席執政官として確実な政治手腕を発揮している第二皇子、対抗が前の皇妃の子で現在皇位継承権第一位の第三皇子、ただしこの人性格が享楽的であんまり支持がないんだって。穴が現在の皇妃の長男で皇位継承権第二位の皇子、大穴がプリンスルキウスね。ただプリンスは次席執政官だった時の手腕を一部でかなり評価されてて、第二皇子にマークされてるっぽいんだ」
「ルキウス様が在ドーラ大使となった背景には、次期皇帝争いの事情があるということですか?」
「プリンスルキウスとドーラの首脳はそう見てるよ。ただプリンスの元婚約者フィフィの父親、やらかし男爵のスキャンダルに巻き込まれないようっていう配慮もあったらしいんだ」
状況は複雑、理由は一つではない。
「でもプリンスは随員なしでドーラへ来たんだよ。今の帝国の政権首脳がプリンスをどう思ってるかなんて明らかじゃん?」
「ふむ、狙われる可能性が高い、航海中が危ないということか」
「逃げ場がないもんねえ。もし船が襲われたら、あたしが犯人をとっ捕まえる予定」
「しかし全速でも船は三日はかかるのだろう? 襲われるとしてもどこでだかはわからん」
「ほんとにねえ。予定が立てにくくて困る。襲撃者もあたしの都合を考えてくれりゃいいのに」
アハハと笑い合う。
パラキアスさんは仕掛けてくるならドーラに近い側と言っていたが?
「実際にプリンスとリリーを転送魔法陣で帝国に送るのは、お葬式前日の夜」
「つまり三日後ですね?」
「なるほど。襲撃者がいるならば、偽装船を狙いたくなるな。悪くない」
「フィフィはリリーに会いたくて塔の村を目指してるんだ。でもすれ違いそうじゃん? リリーがドーラに戻ってくるのがいつになるか、皇宮側の都合だもんだからわかんないんだよね。執事さん、何とかフィフィを落ち着かせといてよ」
「わかりました」
「しばらくかかりきりになるかもしれないから、ギルドに顔出せないと思うんだ。デミアン適当に誤魔化しといてくれる?」
「了解だ。悪くないだろう」
「よろしく。さあ、そろそろ御飯だね」
いつの間にか側に寄ってきていたヴィルをぎゅっとしてやる。
お貴族様は皆でつつく鍋なんて食べたことないんじゃないかな。
美味いんだぞ?




